第18話:何でも上手と思わせるのは小さい子の特権だろう:painting

「で、どうするのよ」

「まぁ、読むしかないんじゃない?」

「けど、今、読みたくはないよね」

「うん」


 俺とライン兄さん、ユリシア姉さんは現実逃避の表情で頷きあう。今、読みたくはない。ちょっと、嫌だ。


 もうちょっと、心の準備ができてから読んだ方がいいだろう。


 なので、手紙を読むのは後回しにすることにした。ブラウはそんな俺たちを見て首をかしげていた。


「そういえば、セオ。父さんが来る前のアレ、何なのよ。スマートボールとか言っていたけれども」

「そういえば、ずっとトンカントンカン、してたけど……」

「ああ」


 俺は頷き、“宝物袋”から完成したスマートボールを取り出す。


「収穫祭、今回は色々な人が楽しめるようにするでしょ?」

「それもセオのアイデアだって聞いたけど」

「まぁ、ポロリと夏祭りとか言っちゃったからね。去年よりも、たぶん、俺が知っている祭り感が増すと思うんだけど……」


 祭りというと、前世では多くの人は屋台が立ち並ぶのを思い浮かべるだろうが、こっちの世界で祭りといえば、まつりとかそっから来るもので、つまり感謝を称えるとかそっちに近い。


 大きな出し物を皆で行うって感じだ。ねぷた祭りとかそんな感じだろう。多少、屋台とかはあったものの、去年の収穫祭はそれに近かった。


「まぁ、そんなことはいいわ。それで、何なのよ、これは」

「ええっと、ちょっと待っててね」


 ブラウを抱きかかえ、スマートボールを睨むユリシア姉さんをなだめながら、俺は“宝物袋”から軽い金属で作った球体を取り出す。


 それをスマートボールの発射台のところに入れ、俺お手製のコイルバネが仕込んであるレバーを引いた。


「見ててね」

「ええ」

「うん」

「あい!」


 そして引いたレバーを離した瞬間、


「む」

「おお!」

「あうあぁ!」


 圧縮されたコイルバネが解放され、金属球をね上げる。


 金属球はスマートボールの上部分にぶつかって跳ね返り、盤上に打ち込んだ釘や板などに当たって軌道を変えながら、一つの穴に落ちた。


「まぁ、こんな感じ。それで、落ちた穴によって得点が決まってて、高い方が勝ちって感じかな?」

「凄いわ、これ。面白そう!」

「これ、セオが考えたの?」

「あ~う、あ~う」

「あ、いや……ブラウ。ちょっと待って。まだやすりを掛けてないから、危ない」

「う~!!」


 ユリシア姉さんが奪うように遊び始めたスマートボールに興味津々のブラウをどうとかなだめながら、俺はライン兄さんの言葉に首を横に振った。


「前世にあった遊戯の一つだよ。俺が考えたわけじゃない」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、やっぱり、セオって凄いね!」

「うん?」


 俺は首を傾げた。ライン兄さんが楽しそうに言う。


「だって、知っていても実際、作るのって大変じゃん。ぶっちゃけ、一から自分流で生み出した方が、簡単だし」


 ライン兄さんの様子を見れば、本心でそれを言っていて、俺を褒めているのだろうと分かる。


 しかし、実際のところ、一から物を作ることが多いライン兄さんだからこそ、そう言えるのだろうとは思う。


 ライン兄さんをよく知らない人が聞けば、嫌味だと思ってしまう可能性が高いかもしれない。

 

 なので、それを忠告するべきなんだろうけど……


「ありがと、ライン兄さん」


 忠告することはない。


 大学時代そうやって忠告されて、委縮してしまった人たちをよく見てきた。実際、子供のころ、そう言われて自分が嫌になったって話をよく聞いたから。


 それよりは、そういうことを理解できる方がいい。


 それに、ライン兄さんは聡い。自ずと気が付くだろう。


「どういたしまして。それより、僕も遊んでいい?」

「いいよ」


 ユリシア姉さんが独占するスマートボールを、次はライン兄さんが奪うように取り、遊び始める。


「あ、ちょっと、ライン! 今、ちょうどいいところだったのに!」

「いいじゃん、僕にだって遊ばせてよ!」

「良くないわよ!」


 まぁ、一台しかないので喧嘩になるのは当然。


 なので、


「はい。これ」

「もう一個あったの? なら、さっさと出しなさいよ!」

「あ、アハハ」


 喧嘩になりそうだったから、分身体に速攻で作ってもらったんだが……


 まぁ、いいか。


 ユリシア姉さんは“宝物袋”から取り出したもう一個のスマートボール奪い取り、楽しそうにボールを打つ。


 ……まぁ、二人とも楽しそうで良かった。なんというか、自分が作ったもので楽しんで遊んでもらっているのを見るのは、嬉しいものである。


「うぅ~」


 と、モニョモニョする心に浸っていたら、ブラウが俺を睨んできた。ユリシア姉さんの懐からハイハイで抜けだしてきて、俺をポカポカと殴り始める。


 あ、そういえば、制止したばかりだったな。


 でも、ユリシア姉さんとライン兄さんが遊んでいるスマートボールはやすりを掛けてないし、楽しそうに遊んでいる二人を静止して、やすりを掛けられそうもない。邪魔にしたら凄い怒られそう。


 そもそも、ブラウはスマートボールのレバーを引く力もあんまり……


 あ、そうだ。


「ブラウ。絵を描いてみる?」

「え~おあう?」

「そうだよ」


 ブラウを膝に乗せた俺はスマートボールの盤上に使った板と、他、色々を“宝物袋”から取り出す。召喚した分身体に急いで盤上の板をやすりを掛けてもらう。


 掛け終わった。


 その間に、バケツに水魔術で水を溜め、パレットに絵具の元となる塗料を出す。


 ……ブラウが塗料を舐める可能性もあるから、使う塗料は金属や毒性のある植物を原料としないやつだけを出す。


 そのため、使える色はかなり限られるが、まぁいいだろう。


 とはいえ、安全性はあるけど、塗料は塗料。ブラウが舐めないように気を付けて見ておかないとな。


 そう思いながら、俺はブラウの前にやすりを掛けた板を差し出す。それから、水で筆先を少し濡らし、緑の塗料をつけた筆をブラウに見せる。


 ブラウはじっとその筆を見る。


 俺はそれを確認してから、絵具を付けた筆を板に降ろす。絵を描く。


「ブラウ、こうやるんだよ」

「う~~、あ! あっぱ!」

「はっぱだね」


 ブラウがキャッキャと笑う。


 なので、俺は筆をブラウに握らせる。もちろん、その上から軽く俺の手を添えてる。口元に運んだり、振り回さないようしなければならないし。


「ブラウ、ここにこうやって」

「おうやって?」

「そう、そうだよ。上手い、上手いよ。ブラウ」

「あ、キャキャ! あ~だ~ぶ!」


 添えた俺の手の誘導も相まって、ブラウは板に絵を描いていく。


 まぁ、線はぐちゃぐちゃだけど、ブラウは楽しそうにしているし、兄バカというか、普通に上手いように感じる。


 俺はブラウの前にパレットを差し出す。


「じゃあ、色を変えてみようか?」

「いお?」

「そうそう、色。今は、緑。みどりいろ」

「いどりいお!」


 ブラウがキャッキャと笑う。ああ、癒されるし、楽しい。嬉しい。


「それでこれが、黄色だよ。き・い・ろ」

「いいろ!」

「そうそう、黄色。合わせてみようね」

「あ~う!」


 さりげなく誘導しながら、パレット上で緑色と黄色を混ぜ合わせていく。


 すれば、黄緑色が出来上がる。本来、緑は絵の世界においては青と黄色、一対一で作るものであるが、そこに更に黄色を一加えると黄緑色になる。


「おっとあっぱ! あうのいお!」

「そうだね。もっと葉っぱだね。アルの葉っぱの色だね」


 ブラウがウキャキャとはしゃぐ。


 それから、板に思い思いに筆を走らせていく。


 くりくりした青の瞳は真剣な様子で板を睨み、途中途中でむ~と唸りながら悩み、突如として筆を走らせる。


 気ままな芸術家のようだ。


 そして、ブラウが板を一面、好き勝手に緑と黄緑色で埋め尽くしたころ、


「面白そうなことしているじゃない」

「僕にもやらせてよ」


 ユリシア姉さんとライン兄さんがこっちに興味を示してきた。







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また、外伝としてエドガーの物語を書いています。

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『英雄の息子は英雄になりたい~エドガー・マキーナルトの野望~』

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