第24話:急に頭に声が響きけば、そりゃあビビる。むしろよく大きな声を出さなかった:third encounter
俺……ライン兄さんよりも少し年上だろうか。
その可憐な顔、ドレスから覗く細い片手片足、なにより腰まで流れる美しい銀髪と静かに閉じられている両目が、彼女を儚く、そして人ならざる存在だと知らしめているようで。
だが、しかし、纏う雰囲気は違う。
そのハイライトの薄化粧なのか、纏うのドレスなのか、それとも凜っと背筋を伸ばし車いすに座るその姿なのか。
強く……
そう、
燦然と輝く大空を力強く大きな翼で羽ばたく鳥。
そういう激情にも近いイメージが脳裏を駆け巡った瞬間、けれど、何故か俺はそれよりも月を思い出した。
たぶん、彼女は夜が似合う。
そう思って――
「エレガント王国国王
俺はその言葉を聞いて、慌てて顔を下げる。周りにいた子供たちの半数は落ち着いて、もしくは俺と同じように慌てて頭を下げ、テンパっていた子供たちはそれを見習って、おずおずと頭を下げていた。
けれど、みんな、チラリチラリと顔を上げて見る。なので、俺もバレないようにチラリと顔を上げる。
大広間に轟き響くその厳かな声と共に、階段の上手側からは王冠を被った茶髪の凡庸と言わざるを得ない中年の男性が、下手側からティアラを被った妖艶と理知を兼ね備えた金髪の女性が現れた。
王様と王妃だ。
いつの間にか、最初に出てきた人たちは、俺達に向かって広がるように中央の広い階段にⅤ字に並んでいた。
上手側はクラリスさん、背の高い茶髪茶目の青年、金髪茶目の少年の順。下手側は大司教、金髪碧眼の少女、そして銀髪の少女。
左右の階段から現れた王妃と王様は堂々と階段を降り、左右の階段が交じり合う踊り場で向かい合い、一拍置いてからきゅっと俺達の方へ向かいなおる。
すれば、ちょうど王様と王妃様がそのⅤ字の先端にいて、ああ、偉い人なんだなと思った。
が、それも束の間。
「此度、祝福を取り持つのは大司教、スコプター・サラブレート。神金冒険者であり精霊審議会第一議席保持者、クラリス・ビブリオ」
……あれ? 普通、大司教だけじゃないの?
どちらにしろ、いつもの錬金術師というよりは、神聖なシンプルで厳かな法衣を着たクラリスさんと、立派な刺繍と年季の入った聖典を片手に持つ大司教が軽く王様と王妃様に一礼する。
すると、王様と王妃様は一つ一つの動作を静と動で美しく飾り上げながら、踊り場の上手側に並び、クラリスさんと大司教が俺達に向かい合うように踊り場の中央に佇んだ。
「これより、我が敬い奉る精霊と偉大なる祖に名において」
そして、どこで弾いているのかわからないが、美しいオルガンの音色が大広間に柔らかく淑やかに響くと、クラリスさんが口を開いた。
「これより、我が敬い奉る七柱の神々の名において」
追いかけるように大司教が口を開き、
「「今、我らが主の元から飛び立つ小鳥に祝福を与えたもう」」
まるで美しい鈴の音が響いたかのように、清廉で厳かな声が大広間に響き渡った。
そして、
「シー・リュクシオン。前へ」
「は、はいッ!」
先頭の真ん中に座っていた女の子が、上ずった声で頷きながら、ゆっくりと階段を昇っていた。
貴位の
Φ
入学式や卒業式で、生徒の名前が呼ばれるあれ。
ぶっちゃけ、眠すぎる。
大抵ゆったりとした心地よい音楽が流れ、それ以外の音と言えば教師が生徒の名前を呼ぶやつと生徒の応答、あと校長先生の「おめでとう」。あと、足音。
まぁ、ぶっちゃけ、寝るには本当にいい条件が揃っている。
そしてそれは、貴位の
貴族の子供たちの人数はそう多くない。ただ、貴官爵や騎士爵の子はまだしも、男爵以上になると、一人一人にかかる時間は少し長くなる。
たぶん、この調子でいけば、二十時少しには終わるか。
十九時ちょっと前に始まり、二十時少し。一時間半近く。
そう。これが行われているのは夜なのだ。しかも、最初の雑談時間的なところで、それなりにご飯を食べてしまった。
……うん。
本当に眠いのだ。
俺の前に座っている男の子なんてコクリコリと船を漕いでいて、隣の女の子が慌てて周りを見渡しながらその子の肩を揺さぶっていた。
流石に思いっきり寝ている子はいないが、やっぱり何人かはウトウトしているし、他にもじっとしているのが辛いのかそわそわしたり、コショコショと話し出したり。
背筋を伸ばしている子は少ない。
と、いうか、殆どいない。
当たり前だけど。
けど、俺の後ろにいる子は、雰囲気的に物凄く張りつめているというか、なんだか俺を睨んでいるような……
まぁ、いいや。
俺は眠気に抗うように少しだけ強く両手を握りしめる。それから温かく響くオルガンの音楽に寝てしまったアルたちの気配に頬を緩ませ、そしてちらりと中央の階段を見やった。
既に半分以上の子供たちが呼ばれており、今は男爵に入った頃らへんか。
………………
視線は合わない。
だって、彼女は目を瞑っているし、俺の方を向いているわけではないから。目は見えないんだったけ?
「……」
予感はあった。というか、それなりに情報は手元に揃っていた。けど、まさか……
そう思って、どうすればいいのか、彼女を見やりながら悩んでいたら、銀月の少女の後ろに控えていた茶髪のメイドさんが俺を見た。
俺は慌てて視線を外す。
けど、何故か物凄い殺気を向けられている気がする。じっと視線を向けすぎたか?
と、思ったら、
――“解析”が終了いたしました。
「ぇ?」
“
俺は思わず声を漏らしてしまった。
そして慌てて口を閉じる。隣を見れば、気にした様子もかなったため、どうやら聞こえるほどの声を漏らしたわけではなかった。
……で、一体全体急に“
――否です。“解析”に割いていた
取り戻した? そういえば、“解析”が終了したとかどうとか言っていたような気がするな。
――はい、セオドラー様に命令された内容、全ての“解析”が終了しました。もしかして忘れていたのでしょうか?――
……ええっと、何頼んだっけ? 色々頼みまくっていた――というか、なんか流暢になっている気がする。
――それは私もセオ様に伴って成長します故。――
……俺に伴って?
――主に魂魄と魔力です。ここ最近は魔力の成長が著しくそちらの
魔力の成長。
ああ、ソフィアの特訓合宿か。だから、その頃から本格的な交信が取れなくなっていたのか。
――そうです。それより“解析”内容の一つに関連する存在を確認したため、さらなる確度上昇を目指し、“解析”を始めます。よろしいですか?――
いや、だから……うん、ごめん。その何頼んだかあんまり覚えていないんだよね。あと、その存在って?
――精霊の
いや、誰? ってか、器?
――あの銀の存在であります――
銀の……
え、もしかして、あの銀髪の少女?
――はい。――
えぇ。ってか、“解析”って何を“解析”するつもりなの?
――彼女の身にほどこさえている魔力封印と精霊化防止の封印です。――
……うん? どういう事?
と、そう思った時、
「セオドラー・マキーナルト!」
いつの間にか貴位の
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