第22話:体裁的に考えると、双方にとってものすごいまずい状況です:third encounter
大広間は王城の一階だ。つまり、隣に庭がある。庭園と言った方がいいか。草木は丁寧に
そんな庭園の草陰に移動し、俺はオルドナンツの手を離す。オルドナンツは少しだけ不機嫌そうな表情をする。
「何だよ。こんな所に連れてきて」
「何だよじゃないよ。はぁ」
溜息が出るのも仕方がない。
「あんなに騒いだらバレるじゃん」
「何がだ?」
「俺が隠れていたことだよ」
「隠れていた? 何でだ?」
マジか。こいつ、俺が隠形していたことに気が付いていなかった? ありえないだろ、そんな――
あ、こいつが持ってる
“追跡”に“隠密看破”にその他諸々。うん、追跡系の
“完全捕捉”は超人たちがひしめき合うマキーナルト領でも持っている人が一人しかいない珍しい
が、登録数は熟練度によるし、そもそも相当な月日を掛けて修練しないとそこまで到達できないんだよな。
マキーナルト領で“完全捕捉”を持っている人曰く、最初の頃は数メートルくらいしか分からなかったらしく、距離無制限にまで達するのに半世紀近く掛かったと言っていたしな。
そこまで使い勝手がいいわけじゃないのだ。
ぶっちゃけ、成長具合を考えたら他の方が優れていたりする。
それ以外にも“脚力強化”や“踏破”、“空踏み”などの移動系
っというか、持っている
もしかしてこいつ、結構やばい奴なん――
「なぁ、おい。おいっ!」
オルドナンツが俺の肩を掴んで揺らす。俺はイラッとして、その手を振り払う。
「揺らすなよ!」
「なら、返事しろよ! で、お前の名前は何なんだ! それと、隠れてるって何でだ!」
「……はぁ」
疲れる。子供って疲れる。
……まぁ、いいか。ここは大人としての威厳を見せるとするか。
襟を正し、首から下げているゴーグルを整え、にこやかに笑う。
「初めまして。私はセオドラー・マキーナルト。以後お見知りおきを」
「……うん? いごおみしり……なんだ?」
「…………」
俺は微妙な表情になる。そして自分が悪いと思った。
そうだよ。普通、五歳児相手にこんな挨拶しても分からないんだよ。分かる方がおかしいんだよ。
なので、俺は溜息を吐いて肩の力を抜く。ゴーグルをおでこらへんに上げて、ドサリと庭園の座り胡坐を掻く。
オルドナンツは、む? と首を傾げながらも、俺に倣うように地べたに座る。
「セオ。セオドラー・マキーナルトだよ。よろしく」
「そうか! セオっていうのか! 俺はオルドナンツ! オルって呼んでくれ!」
「もう聞いたよ、それ……」
結局の所、使い勝手が悪かろうが“完全補足”を持っているこいつからは逃げることができない。年齢から見れて修練状況はまずほぼないと考えていいので、距離は無制限ではないだろう。
だから遠くに離れれば大丈夫だろうが、こいつは一昨日俺とライン兄さんの足の速さにもついてきたのだ。
ついてこれた理由は移動系の
仕方ないので、こいつが飽きるまで付き合うしかないのだ。
面倒なのにからまれた。
「それでセオは何で隠れてたんだ!」
「……面倒だからだよ」
「面倒?」
「ほら、あそこ」
俺は指さす。そっちにはガラスの扉越しに大広間があり、凄く大きな人だかりがあった。
「何だ、あれ?」
「ロイス父さんとアテナ母さん目当ての貴族たちだよ」
「ろいす……」
オルドナンツは不審そうに首を傾げる。それからうんうんと唸る。
そして、
「あ!!!」
「ッ、五月蠅いよ」
鼓膜が割れるかと思うほど大きな声を上げて、オルドナンツは立ち上がる。俺は耳を抑えながら抗議の声を上げるが、
「お前、英雄様の息子なのか!?!? なら、最初からそう言えよ!」
「言っただろ! マキーナルトって自己紹介しただろうが!」
「はぁっ!? なんだ、そのマキーナルトって!」
「ロイス父さんたちの家名だよ!」
俺も立ち上がり、怒鳴る。地団太を踏む。
………………
はぁ、はぁ、はぁ。
マジでなんなんだよ、こいつ。ホント、マジで何なんだよ……
疲れる。どっと疲労が押し寄せてくる。
いや、さ。俺の名前がそこまで広まっているとかうぬぼれてないよ。けど、ロイス父さんたちの名前は別じゃん。マキーナルト家でだって知られてると思うじゃん。
……いや、まぁ、子供だしな。うん、家名の方は覚えてなくて当たり前だろ。
「ってか、そんな事よりもお前、本当にあの英雄様の息子なのか!? 全然英雄様の息子に見えないんだが!」
「うっさい! 正真正銘ロイス父さんたちの子供だ!」
なんせ、神様お墨付きだし。自分が生まれた時の事も覚えてるし。それに仮にそうでなくても、俺はロイス父さんとアテナ母さんを親だと思ってる。
「じゃあ証拠だせよ! 証拠! 出せないだろ、嘘つきが!」
「嘘ついてねぇわ! つか、今すぐ見に行け! 俺の分身体がロイス父さんたちと一緒にいるからさ!」
「そういって、逃げるんだろ!」
「逃げねぇわ!」
これだから子供は! 何が証拠だ! 嘘つきだ! クソガキが!
っつうか、思い出した! 俺が小学生の頃のことを思い出した! そうだよ。ライン兄さんみたいなのが、珍しいんだよ! 地球の子供だろうが、貴族の子供だろうが、大抵こんな感じなんだよ!
「はぁ、疲れる。帰りたい。帰りたいよ……」
……ああ、家が恋しい。
そう思って、疲れたように再び地べたに座れば、
「……アルル?」
「……リュネ?」
「……ケン?」
アルたちが心配そうに俺の首元から顔を覗かせた。
様子を見るに、今、この場で顔を出してはいけないと理解しているが、それでも心配だったから出てきたって感じだ。
……情けない。アルたちにそんな心配を掛けるとは……
「大丈夫だよ。だから、安心して」
「アル」
「リュネ」
「ケン」
安心させるように、魔力を柔らかく注ぎながら人差し指の腹でアルたちの葉っぱを撫でる。
そうすれば、三匹とも目を細めて、再び俺の首元に引っ込んだ。
「……それだ! それ! そいつら、何なんだ!」
「なにって、俺の家族だよ」
少しだけ茫然としていたオルドナンツは、アルたちが引っ込んだのを見て、我に返ったらしい。
俺に掴みかかろうとしてくる。
なので、俺は少しだけ雰囲気を変えて威圧するように言う。
「それ以上は教えないよ。あと、追及しようものなら俺はお前と戦争する」
「ついきゅ……わ、分かったよ」
言葉の意味は分からなかったようだが、俺が嫌がっているのは理解できたのだろう。引き際は弁えているらしく、オルドナンツは驚きつつ渋々と頷いた。
「ありがと」
なので、俺は礼を言った。
と、その時、
「オルドナンツ」
「げっ!」
少し遠くから酷く冷たく綺麗な声が響いた。オルドナンツが嫌そうに顔を歪め、俺も同じ感じになる。
っというか、面倒なので“隠者”と魔力偽装と隠ぺいを全力で行使して、姿を隠しフェードアウトする。
オルドナンツがその声の主に意識を割いている間に、遠くへ逃げようとする。どうせ、俺を追いかけることもできなくなるだろうし。
それにあと数分で貴位の
そう思いながらスススと闇夜に消えようとした瞬間、
「あ、こら! お前、逃げるな!」
「ぐえっ! ちょ、掴むなよ! やめろや、離せ!」
「おわっ! ちょ、お前、なにすんだよ! 酷いぞ!」
「それはこっちのセリフだ!」
目ざとくオルドナンツがそれを見つけ、俺の首根っこを掴む。
思わず俺はよろけ、しかし稽古でロイス父さんに
オルドナンツは大きくよろけ、そのままコケる。そして、直ぐに立ち上がり俺に掴みかかってくる。
応戦するのはアレなので、俺はよける。
と、
「オルドナンツ。一人で何を――」
「うぎゃっ!?」
「うげっ」
パキパキと地面が氷、オルドナンツの両足が氷で拘束された。ついでに俺も拘束されてしまった。
そして、それをした紫髪紫目の少女は、
「ッッ!!??」
今、俺に気が付いたらしい。
驚愕の表情になり、それから真っ青に染まっていった。
やっぱり、オルドナンツが異常なだけで、あれだけ騒いでも俺の全力の隠形を看破できるやつは少ないんだよな。
……マジでこの状況、どうしよう。
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