第17話:精神年齢は同じです:this spring
「ロイス父さん、お待たせ」
カジュアルな灰緑を基調とした根岸色の装飾で彩られた服を着た俺は、玄関で待っていたロイス父さんに声をかけた。
外で待っているロイス父さんのグレーを基調としたスーツ風の貴族服を着ている姿は、これぞ貴族!というイメージを容易に湧かせ、俺も少し身が締まる。
「うん。ちゃんと着てきたみたいだね」
そんな俺の内心を知ってかロイス父さんは満足そうに頷く。どうやら、今の俺の姿はお気に召したようだ。俺的には馬子にも衣装って感じで嫌なのだが。というか、かっちりして動きにくい。
「やはり、レモンに見繕ってもらったのは正解だったかな」
どうやら俺の服はレモンが見繕った服らしい。レモンって服選びもできるのか。
「何でレモンが?」
「仕事柄、彼女が一番服に詳しいんだよ。もちろんアテナでも良かったんだけど、アテナがレモンに任せてみたいって言ったからだよ」
「へぇー」
何となく頷く。何故アテナ母さんがそう思ったかは疑問があるがおいておく。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
玄関から伸びる道を歩き出したロイス父さんに並んで俺も歩き出した。
「ねぇ、ロイス父さん」
「うん、何だい?」
薄っすらと雪化粧した灌木が等間隔に並ぶ道を歩きながら、俺はロイス父さんに訊ねる。
「町の重役って誰? ロン爺? それともラリアさん?」
「んー。それはお楽しみってことで」
ロイス父さんは俺の問いに少し逡巡した後、悪戯そうに微笑んでそう言った。
「なにそれ」
「いや、そっちの方が面白そうかなと思って」
何か企むように笑うロイス父さんは少しムカつく。だが、いつも清まし顔のロイス父さんにしては珍しいので、少し嬉しい気持ちになる。
こないだの朝稽古みたいなロイス父さんを見れる機会は少ないのだ。ホントに。
「ああ、そう言えばセオ」
「ん? なに」
「アテナに作ってもらう工房の設計図はできたのかい?」
「いや、まだ。ああ、だけど場所ならもう伝えたよ」
「へぇ、何処なんだい」
「地下」
「へ?」
ロイス父さんは聞き間違えかしらと首をかしげる。
「だから、地下。屋敷の地下に工房を作ってもらおうかと思って」
「あ~、それでアテナは了承したの?」
「うん」
「なるほど、ね。なるほど……」
ロイス父さんは急に険しい顔で悩み始める。唸り声を上げて、ああでもないこうでもないと呟く。
「なに、だめなの?」
「いや、そういうわけではないんだけどさ……」
じゃあ、何で言い淀んでるんだ?
「いやね、屋敷の地下は既に違う用途で使われているんだ」
「えっ」
俺は立ち止まり、目を見開いて驚く。
「それホント?」
「うん。本当だよ」
マジか、なんてこったい。既に使われていたのか。
「ってか、家に地下なんてあったの!? 全然知らなかったんだけど!」
「ああー。そう言えば話してなかったね。……あ、ちょうどそこだね」
と、ロイス父さんが急に道の脇に移動し、ある景観用の灌木の前に止まった。
「〝汝の求道を示せ〟」
そして、なんか呪文を唱えた。
瞬間。
「え!」
そのロイス父さんの目の前にある灌木が急に消え去り、その地面に小さな丸扉が現れ、地下への扉が開いたのだ。
「何なのこれ!?」
「屋敷の地下へと続く隠し通路さ。っと、使わないから戻さないとな」
ロイス父さんは地下扉に手を押し当てた。
「〝汝が求む道を帰せ〟」
すると、また瞬間的に灌木が現れた。
てか、何なんだろその魔法? 無属性魔法だとは思うが……。
“
――了解しました――
お、今日は調子がいい日なのかな。
……。まぁ、それはおいといて、何でこんな所に地下への入り口があるんだよ。おかしいだろ。
「それでね」
「あ、うん」
俺の内心のあたふたなど気にもせず、何事もなかったかのように歩き出すロイス父さんに、俺は慌ててついて行く。こういうマイペースさはユリシア姉さんが受け継いでるよな。
「屋敷の地下にはアダド森林に張っている階層結界と町の城壁に沿って張ってる守護結界の起点となるアーティファクトが埋め込まれているんだ。あと、ついでに屋敷の時間劣化防止のアーティファクトも埋め込まれているんだよ。……それと、僕たちは空間魔法を使って転移が使えるから、地下は独立させているんだよね。念のために一応通路は作っているけど、僕たちが管理しているから必要ないんだよ」
「へぇー」
俺の内心の疑問にも答えてくれるロイス父さん。読心術でも持っているんだろう。実際そういう
てか、階層結界や守護結界とか張ってるなんて知らなかった。でも、そんな大層なものを張っているてことは、やっぱり町の外って危険なんだな。
けど、時間劣化防止とか時間に喧嘩を売ってるアーティファクトをついでというロイス父さんの神経はやっぱりすごいな。色んな意味で。
「アテナもそれを知っている筈なんだけどね。というか、アテナがそのアーティファクトを作ったんだが……」
それでロイス父さんは戸惑っていたのか。まったく、アテナ母さんはこういうところが抜けているんだな。
「でも、それじゃあ、地下は使えないのか」
「う~ん、どうなんだろう」
なんだ、歯切れの悪い。
「いやね、さっき言ったアーティファクトが埋め込まれているのは、地上から
「だけど?」
俺が睨み付けるように見たからか、ロイス父さんが弁明するように話す。
「とても大変なんだよ。屋敷の地下に新たな部屋を作るって」
「……」
確かに、それはそうだろ。
だが、そういう約束なのだ。多少の無茶は言わせてもらう。そんな感じの視線をロイス父さんに送る。
そんな俺にロイス父さんは苦笑しながら俺の頭に手を置いた。
「ま、帰ったらアテナに確認するよ。それに屋敷の地下が駄目でも、離れに地下を作るのはそこまで難しくはないから」
そう言って俺の頭をくしゃくしゃと撫でるロイス父さんは、相変わらずイケメンだった。
ちくちょう。精神年齢では俺とタメなのに。
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