第13話:魔法稽古中編:this spring
そして、俺は殴られそうになった。
「ちょっ! ねぇ、それありなの!?」
さっきまで全てを無視して自己鍛錬に励んでいたユリシア姉さんが、戦闘稽古の開始の合図とともに飛び込んできた。
「よけるんじゃないわよ、セオ!」
いや、よけるだろ! よけなきゃ殴られるんだぞ!
何故、魔法の応酬の稽古で殴られなきゃならないんだ。しかもしょっぱなから!
「ロイス父さん、これありなの!? 物理じゃん!? 魔法じゃないじゃん!?」
「うーん」
俺の絶叫に戸惑っているロイス父さん。ホント、しっかりしてほしい。
っていうか、切り替えが良すぎる。さっきあんなに反省してたのに!?
「一応、魔法は使ってるからさ。セオだって同じ魔法を使っているわけだし」
「そりゃね!? 使わないとそもそも手合わせできないじゃん! 幼児だよ。こちとら、三歳になったばかりの幼児! っていうか、さっきあんな事あって謝ったくせに何で!?」
「それとこれは別だからよ」
アテナ母さんがきっぱりと言った。ロイス父さんは逃げた。
てか、さっきの謝罪と何が別なんだよ!? 幼児に戦闘させますかね!?
「どっちにしろ、
「だから、それはライン兄さんで!!」
俺が言い募ろうとすると、アテナ母さんはチラリと後ろをチラッと見て言った。
「そう、そしてそれはエドガーなの。エドガーが一番ショックを受けるのはラインですから。だからね、ユリシアはアナタなのよ。セオ」
アテナ母さんの後ろではエドガー兄さんとライン兄さんが物理と魔法の応酬をしていた。いや、物理は応えることもできていないが。
幾何学模様の魔法陣が色とりどりに咲き誇り、爆炎と氷炎と風炎を巻き起こし、狂乱に動乱していた。全て中級魔法以上である。
それが初見殺しとして顕現したのだ。
だから、エドガー兄さんは対応できない。
どんなに高い身体能力を持っていても、魔法には魔法なのだ。ロイス父さん並みの人物ではなければそれは例外ではない。
ほら、彩色弾幕の如く鬼畜な魔弾が襲い来る嵐を裁ききれず、エドガー兄さんは遂に膝をつく。
エドガー兄さんの顔は苦痛で歪み、体中は泥まみれである。
ただし、怪我はない。その為の特別結界――痛界。
あらゆる怪我は痛みとしてその身に刻まれるのである。
ロイス父さん曰く、痛みも怪我もする事のない結界も張れるらしいが、それだと実戦でまともに戦えず、命を落としてしまうから駄目だそうだ。
当たり前である。
「なんだよ、それ!? ライン、お前、一昨日までそんなのできなかっただろ!?そもそも、攻撃魔法がまともに使えなかっただろ!? 何で急に!?」
「ボクだって成長するんだよ。ほら、どうしたの? 魔法を使いなよ。あっ、でも放出系の魔法は全く使えなかったから無理かな」
悔しそうに歯噛みするエドガー兄さんに、ライン兄さんは素晴らしい天使の微笑みを授ける。今までの鬱憤が溜まってたのかな。
あとエドガー兄さん。こっちを憎むような目で見ないでください。悲しいです。
まぁ、何にせよ良いものが見えた――と思っていたら、
ドゴーンッ!
目の前に小さなクレーターができていた。
俺の頬を掠めたユリシア姉さんの拳が地面を打ち抜いたのだ。
「セオ! 無視するんじゃないわよ!! こっちを見て戦いなさい!」
ひぇー。身体強化だけであんな力を出せるのか。
凄え怖ぇ。あれが当たったら大変痛かなかろうか。
「大丈夫よ、セオ。もしそれを受けたとしても、この結界の中ではある一定のラインを超えると痛覚は感じなくなるから」
「つまり、それってさっきのがそのラインを超えてるってことだよね!?」
アテナ母さんがプイッと目を逸らす。
おい、どうすんだよ。
っていうか、他の魔法は一切使えないのに、何で身体強化だけこんなに使えるんだよ!? おかしいだろ!?
「頑張って、セオ。頑張ったら、セオ専用の工房を作ってあげるから。あと面白い魔術を見せてくれたら、節度がある範囲で特別な空間を作ってあげる」
マジか!? それはまじか!
「聞いたからね! 後でなしって言っても聞かないからね!」
「ええ、さっきの詫びもあるからそんなことは言わないわよ」
よっしゃー! ヒャッホー!
俄然やる気が出てきた。
「ユリシア姉さん。ごめん、手加減できないかも」
「ようやくやる気になったわね!」
いつまでその爛漫な笑顔でいられるかな。
では、俺の工房のために!
「〝展開〟」
それが開幕の合図である。
一節目。深緑の光がユリシア姉さんと俺の周りに渦巻く。蕾をつける。
「問答無用!」
ユリシア姉さんが魔力光を歯牙もかけず突っ込んでくるが、無駄だ。
「〝開放〟」
二節目。さすれば渦巻く深緑は清涼なる水の花へと変わる。
「何よこれ!?」
海牢にとらわれたユリシア姉さんをしり目に新たな魔法を展開。
「〝構築〟」
三節目。すると、牢屋の如くユリシア姉さんを捕らえていた渦巻きは巨大なタコへと変化する。
「離しなさい!」
パンッ。
「へぇー、魔撃破か」
ユリシア姉さんの拳から放たれた蒼天の光によってタコは消滅した。
けれど意味はない。
「〝変質〟」
四節目。虚空に数十体もの水で容どられた巨大生物が現れる。タコ、くじら、狼、鳥、獅子、そしてその他。
それらが全てがユリシア姉さんめがけて襲い掛かる。
「セイヤァッー」
それらを拳圧で、魔撃破で粉砕する。
が、やはり意味はない。
「〝自動〟」
五節目。水はさらに増える。ユリシア姉さんが粉砕すればするほど増える。
「ああ、もう! 鬱陶しいわね!」
ユリシア姉さんは気焔を吐きながら俺に突っ込もうとするが、全て阻まれる。
「〝完了〟」
そして
瞬間、天を照らし、輝かせていた太陽が消えた。
「無属性魔法――〝夜空〟」
「何よそれ……」
つまり、空が闇で染まった。
呆然と、そう呆然と佇むユリシア姉さん。さっきの威勢は何処へやら。
「火水風土複合魔術――〝星屑の宴〟」
そして夜が煌めく。
そう、ここは夜。祭りの夜。
満天の、幾星霜の星々が己の立場を忘れ踊り回る夜。
ただし……。
「さぁ、星に願いましょう!」
絶望が降り注ぐけどね!
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