異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ

プロローグ

第1話:死ななきゃ始まらない:reincarnation

 あぁ。だるい。体中が重い。一ヶ月くらい休みが欲しい。


 内田ツクルこと俺は多くの不満を抱えながら、家へ帰っていた。二週間ぶりに。


 これも全部あのくそ上司のせいだ!


 何がもう少し余裕があるだ! 阿呆抜かせ! こちとら毎回あんたのその無計画さによるデスマーチで何度死にかけたか! 


 デスマーチだからって死んで良い訳じゃねぇんだよ! 今回だって、最終的な仕上げは2日程度。そのために上司に頼らず、後輩たちと綿密に計画を立てていたのに。


 なんで勝手に仕事を追加しているんだ! 納期寸前で仕事を追加するとか、どっかの下半身野郎な神みたいなことをやりやがって。


 しかもなんだ、その仕事にカタをつけた直後にくそ上司がやってた仕事に重大なプログラムミスがあるとか、死ね! このくそ野郎。


 その上、修羅場中に上司が行っていた不正がバレたらしく、お偉いさんにドナドナされた。その後は知らん。帰ってこなかったのだ。


 せめて、終わらせてから行け!


「はぁ、はぁ」


 心中で罵倒を繰り返し、心の安寧を保とうとする。こんな事をしなきゃやってられない。


 あっ。子供に変な目で見られて指をさされた。母親が「見ちゃいけません」ってベタなことを言った。

 

 そんなに俺の顔は酷いのだろうか。酷いんだろうな。なんせ、死闘に決着をつけた後だ。それは、子供目にも酷く映るんだろうな。


「はぁ」


 溜息が漏れる。


 あっ! 家に飯がねぇや。んっ! 財布にも金がないんだったけ。


 仕方ない銀行に入るか。


 近くにあった銀行を回らない頭で思い出しながら向かう。


「はぁ」


 また、溜息が漏れる。憂鬱な気持ちになる。


 けれど、楽しみがあるんだ。


 二週間休みがあるんだ。神様お偉いさんが俺らに休みをくれたのだ。後光が射してたぜ。ん? 後光って菩薩だったけ? まぁいいや。何にしろ、俺はあの神様お偉いさんが助けを必要としたら、全財産を投げ打ってでも助けるぜ。今のところ。


 まぁ、口止料的なものだろうけどな。


「はぁ」


 仕事やめようかな。別に、この仕事やりたいと思って就いたわけではないんだよな。田舎でのんびりと趣味に時間を費やす感じで過ごしたいな。お金も使ってないから、余裕で30年くらい何もせず、ある程度の贅沢ができそうなんだよな。


 銀行に着いた。涼しい風を足で感じ、遅れて体全体で背徳的冷風――涼しいのに暖かくなる――を感じる。


 よし、やめるか。もし、なんか言われたら、今までの不満を言いまくってやるぜ! どうせやめるんだしな。


 そんな馬鹿な事、割と本気でやめようかという事を考えていた俺にある奇特な言葉が聞こえてきた。


「お前らみんな死んじまえ!」


 なんとなしに声がした方をみた。


 えっ! ふぁっ! なんでそんなもん持ってるんだ。しかも、なんか良いもの輝くナイフまで持ってるんだ。頭が回らないせいか変なテンションになっている。


 パァーン。間抜けな感じに間延びした発砲音が響いた。奇特な男が天井へ向けて撃ったのだ。そして、俺たちの方へ銃を向ける。


「お前ら、全員動くな! 一人一人、ぶっ殺してやる!」


 男は奇怪な笑い声を上げながら、次は地面に向かって数発、発砲した。


 弾切れしねぇかな? してくれると嬉しいんだが。


 まぁ、そんな希望的観測なんぞ意味もなく、男は次の行動に移った。


 馬鹿でありえない事態に硬直していた銀行利用者に銃を向けながら、ゆっくりとした足取りで悠々と近づいていく。


 やがて、ある親子の近くに立った。男の一番近くにいたのが運の尽きだったのだろう。そして、俺はその親子に見覚えがあった。先ほど、俺を対象にした素晴らしい劇――あの子見ちゃダメ――をした親子だった。


 男は母親の方へ銃を向けた。男は背後を取られることを警戒しているのか、素人目では全く隙が見当たらない。


 ゴトリ。男が母親の頭に銃を当てる。母親は呆然としていた。けれど、無意識でも自分の子供を自分の背に抱き、守ろうとするのは見事というべきか。


 くそっ! 頭が全然回らない。危機感が全く抱けない。


 男がニヤリと笑った。そして、腕に力を入れる素振りをした。


 引き金がひかr……


「ママから離れろ!」


 母親の背で庇われてた子供、小さな男の子が男へ向かってタックルをかました。


 見事なタックルだった。男は想定外で、脅威と見なしていなかった男の子にタックルされたことにより、大きくバランスを崩した。男の子は男の足の横にタックルをかましたのだ。


 男がバランスを崩したことによって、銃が天を向いた。

 

 パァンッ! 今度は短い発砲音が響く。

 天井からパラパラとなんかの粉が降ってくる。


 男の子は男にタックルをかました反動で、自分も吹き飛び、立てなかった。足を捻ってた。


 男はすぐに態勢を立て直す。狂気に濡れた瞳を浮かべ、恐怖を浮かべる男の子を見る。睨み付ける。


「クソガキーー! てめぇ! ああ、いいぜ! ノゾミ通りてめぇから殺してやるヨ! いい声で啼けヨ! シネェーー!」


 男は銃を持っていた手―右手―とは逆の手で握っていたナイフを逆手にもつ。

 獣が獲物を追い立てるような構えを見せる。


 そして、ナイフが男の子に振り下ろs……


 俺の右腕に刺さった。


「ふぇ?」


 男の子が気が抜けた声を出した。


「ッツ。あぁ、イッテーなぁ。くそ野郎」


 運が悪かったのだろう。俺が男の子が吹き飛んだ近くにいたことが。


頭が鈍っていたのだろう。普通ならこんな場面、自分の安全を優先するのに。


「ハハッ。案外痛くないな。おい、どうしたんだそんな顔して」


 男は引き攣るように、ありえないものを見るように俺を見つめ、後ずさっていく。


 ずきずきと右腕が痛む。思った以上に熱い血が右腕を滴る。

 

 ちらりと肩越しに男の子を見る。目に涙を浮かべているのに、口がポカーンと開いている。


 おいっ! お前ら大人たち。お前らも何呆けてやがるんだ。動け!


 おっ! 母親が動いた。飛び込むように男の子へ駆け寄った。絶対に離さない。強く抱きしめる。


 それを確認し、少し笑みを浮かべる。


 男はその笑みを見たのか、さらに青ざめる。ブ○ーマンになってしまいそうだ。


「なぁ、さっきの威勢はどこ行ったんだ。さんよ」


 男は元上司だった。お偉いさんに首を切られたんであろう元クソ上司だった。


 俺はゆっくりとした足取りで、悠々とへたり込んでしまった元上司に近づく。まるで窮鼠のようだ。


 ここで一般的な常識。窮鼠はキャット噛む。


「うるさい! うるさい! 元はといえば貴様のせいで!」

 

 怒り狂ったようにくそ上司は俺に殴りかかってくる。殴りかかってくるとは冷静を失っているな。いや、こんなことをやっているのだから既に冷静さはないか。


 けれどそんなことはどうでもいい。思った通りに動いたのだ。元クソ上司の考えなんぞ読めているのだ。


 俺は疲れた体と刺された腕の動きで今は全くもって動けない。けれど、危険をなくすためにここで意識を奪っておく必要があった。


 俺はなんかめっちゃ冷静だった。なんか、出来る出来ないを通り越し、やるかやらないかでやることを判断していた。


 だから、こんな暴挙に出た。


 落ちることにしたのだ。


 俺は体を回しながら倒す。体を重力に逆らわず、回転しながら落としていく。そこに、少しだけ足を上げる。


 くそ上司の首にヒット! 華麗なヒット! ホームランさえいけるだろう!


 くそ上司は錐揉みしながら飛び、壁にぶつかる。


 俺は崩れ落ちる。足に力が入らない。


 俺は冷静だった。だって、銀行員が既に警察や救急車を呼んでいる筈だ。安心である。


 それに今の出血量じゃ、死にやしないと思っていた。

 

 だから、油断した。よく、物語の悪役がよくやる徹底的な行動が足りずに起きるだった。


 くそ上司は意識があったのだ。銃を俺に向けていた。


 パァーーン。今日一番の間延びした音がした。ニュートンの第三法則に従って飛来する弾丸は。


 俺の胸を穿った。


 貫通はしなかった。


 声にならない痛みが体中に走る。


 意識がチカチカと点滅する。


 やがて意識が薄れていく。


 音も薄れてく。サイレンが鳴っているような感じがする。くぐもっていてわからない。


 おせぇーよと、心の中で悪態をつく。


 死にそうな雰囲気だった。もう、くたばりそうだった。


 けれど、まだやらなければならないことがあった。


 俺は薄れる意識の中、右腕に刺さっているナイフを限りある弱い力で振り抜き、立ち上がろうとするくそ上司へ向かって投げた。


 ナイフの柄がくそ上司の頭に当たった。


「ちっ、運がいい奴め……」


 俺はそんな捨て台詞セリフを弱く呟き、くそ上司が崩れ落ちるように倒れたのを確認して、意識を暗闇へと委ねた。


 男の子の泣き声が頭で木霊していた。

 






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