黒霧の少女8
はぁ、あのトーマスとかいうやつ、心底腹立つ。見てるだけで吐気がする。死ねばいいのに。
大体この依頼は女の子を見つけて保護、でしょ。その女の子に逃げ帰った奴とやることなんて無い。
私はあの咲の娘なのだから。
くうはその思いだけで自分を奮い立たせて来た。
それに、空。あいつはダメだ。全てを相手にしていないあの目。元々馴れ合うつもりは無いが一緒に居たいなくない。
「はぁ、とりあえずは『歌う。唄う。謳う。この声が理に響くなら示せ。風と共に』」
くうがそう言い、歌を歌い出す。澄んだ声。高いソプラノはくうを中心として渦を巻くように魔力が流れる。
この場には今、くうの歌声以外はすべて押し黙っている。
大きな魔力の発生。それは強き魔法使いならこの魔力を感知し異常に思うだろう。
風が吹く、春風の様に一瞬の風。この風に導かれるままに進めば居る。が、妨害される。
くうはいきなり喉が締め付けられるような感覚に襲われた。
それにより歌の魔法が中断される。
一体何っ!?何が起こったって言うの。
サッと背中の毛が逆立つ。後ろを振り替えると男が居た。
もしかすると2mに達してそうな巨体。この巨体から感じる圧力。
私でも分かる。只者ではない。
「……ひとり、で、こんなにも膨大な、魔力、を使うのは無謀だ」
途切れ途切れの言葉でくうに声をかけた男。その足元にはユルのルーン文字がある。足で線を引いただけで歌の魔法を結果的に打ち消したのだ。
「だ、誰っ!」
ぬっと、のっそりした動きでくうに近づきたっぷり間を開けて、
「......そう、だな。白の代行者」
「.........」
「.........」
「いや、だから誰だよっ!」
思わず突っ込んでしまうくう。普段のキャラじゃなくて自分でも戸惑っている様子。
人畜無害そうな顔に驚きが現れた。目を見開き口を「あ」の字に開けて固まった。その間の表情の変化もまたゆっくりだった。
何なんだ!この間抜けそうで底知れない力を感じる男はっ!と言うかここまでの力を持ってるなら普通隠すだろう。...何が目的か全く分からない。また、害がなさそうなのがより一層怖い。
「フォールス」
「あ、えっ?」
「私、の、名だ」
「そう。」
「.........」
「.........」
もう、帰ってかいいかな......
「私、は、ルン、と言う魔法使いと共にあることをしていた」
「.........」
「.........」
ああ、気が狂う。何なんだよ。パッパと要件を言えばいいのに。
「で?そのある事が私になんの関係が?私の魔法を打ち消してまで何のようですか?」
苛立ちの含んだ問い。それに対してフォールスは何も動じず続ける。
「君、と言うよりは、君達の任務の方に用がある。下手をしないでくれ」
「なによ、なんなのその言い草は。まるで私が邪魔者ね」
「......むぅ。そういう理由では、ない。むぅ...。こうしよう、古代魔法を、伝えるから、行動を共にできない、か?」
「 えっ、嫌だ。怪しい」
「それは、落ち込むなあ」
あ、落胆、したのか。何だかそれが面白くなって笑い出してしまったくう。
どうせろくでなしだったらママがぶっ殺すだろう。と、いう安易な考えで了承したのだった。
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