第6話

「なんで泣くんだよ。」

俺は女性と会話することも慣れていないのに、その上、泣かれるなんて経験はしたことがなかったため、戸惑ってしまった。


「ごめんなさい。でも、尊敬している人に、自分の絵が綺麗だ、素敵だって褒められたんだよ。普通は感動して泣いちゃうもんだよ。」

画家は涙を手で拭いぬぐいながら答えた。


「そんなものなのか。本当はもっと君の絵について語りたいことがあるんだけど、また泣かれても困るから言うのヤメておくわ。」

そう言うと俺は、この場から立ち去ろうと回れ右をしようとした。


その瞬間、画家に腕を捕まれ、物凄い力で引き寄せられた。あまりに力強かったせいで、俺はバランスを崩し、画家の上に覆いかぶさってしまった。

「ごめん、怪我はない?」

俺は画家を起こしながら、背中やお尻についてしまった砂を払ってあげた。


「大丈夫、ありがとう。」

「それはよかった。じゃあ、俺はそろそろ行くね、絵描く邪魔して悪かったね。」

俺は今度こそ、この場を立ち去ろうとしたが、画家はまたしても腕を掴み離さなかった。


「どうしたの?」

「もう泣かないって約束するから。だから、私の絵のどこが良かったのかをちゃんと教えて欲しい。あなたから褒められるって経験は、この先一生ないかもしれないじゃない。自分が尊敬し、憧れている人からもっと褒められたい。」

画家は少し顔を赤くしながら、必死に俺に想いを伝えてきた。


「分かったよ。じゃあ、絶対に泣かないでね。」

画家は小さく一回頷いた。

それから俺は、画家の描いた絵について30分近くも褒め続けていた。

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