第2話

手慣れた手つきで朝食を完成させた私は、急いで食事を済ませた。


家の戸締りを行い、今日のゴミを手に取り、ヒロシとは全く真逆の地味な服装に身を包んだ私は、いつもと同じ時間に家を出て、職場である研究室へと向かった。


研究室までの道のりは徒歩で30分程度。

電車を使っても、バスを使ってもどちらも微妙に時間が掛かってしまう事が分かってからは、毎日歩いて通っていた。


私たちの年齢(=身体年齢)もアラサーらしく、運動をサボると身体が残念な事になりやすくなってくると先生に脅されたこともあったのでちょうど良い機会だと思いながら歩くようにしている。


いつもの見慣れた通り。

いつも見かける人。

この景色を見始めてから、すでに4年以上が経過している。

でも、私はこの4年間で一度も、火曜・木曜・土曜日のこの道の景色を見たことはない。


『きっと、あの人は明日もこの道を通っているんだろうな。そして、今日よりも若干、疲労感ある顔つきで歩いているのだろう。火曜日・木曜日にだけ美人がこの道を歩いているとしたら、私は絶対にその美人とは会えない運命なのか。』


私たちは世間の人たちが受け入れている当たり前の一部が、当たり前ではない事がある。

水曜日は私の日だから、ヒロシはノー残業デーという概念を知らないだろう。

そもそもヒロシは会社勤めをしていないから、残業という概念すら気にした事はないかもしれない。


普通の人なら毎日のように転がっている出会いも、私たちには半分しか転がっていない。

しかも、毎日日替わりで交代しているため、曜日特有のイベントや行事などは絶対に出会うことが出来ないものなのだ。



「おはようございます!」

私は30分かけて研究所に着き、学生や助手たちに挨拶を済ませると毎朝のルーティン作業を始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る