第二十九話 何かしただろ?
「ん?」
ツェツィとアストをメインに見つつ、灰色のローブを着た冒険者(仮)も視界に入れていたのだが、その冒険者(仮)がツェツィに近づいていく。
共闘でも持ちかけたのかな、などと思っていると、何故か三人がこちらへ戻ってきた。
「どうした?」
とぼけた質問をしてみたが、俺はこころなしか弾んだ心境のままだ。
「実は――」
俺の問にツェツィが返答しようとするのを遮るように、一緒に付いてきた冒険者(仮)が急にフードを脱ぐ。
すると俺の体が硬直してしまった。
何故なら、フードの下から出てきたのは、純白の髪に幾筋かの黒いメッシュが入った髪に、少し丸みのあるケモミミ。
顕になった肌は小麦色に近い褐色で、獰猛な虎といった感じのつり上がった丸目に、威圧感のある琥珀色の瞳。
それは、ここで見るはずのない人物の特徴だった。
俺が硬直してしまうほど驚いてしまったのは、ある意味必然であろう。
「
動かない俺を他所に、ソイツは無表情でそんな事を言ったかと思うと、おもむろに口角を上げた。
それだけで俺の背中がゾワリとする。
「…………な、なんで、こ、ここに、いる……
本能的な嫌悪感が俺を支配するも、どうにか動いた口が率直な疑問を投げかけた。
だってコイツは、勇者パーティの前衛を務める『拳姫』だぞ。
アイツラと一緒に残党狩りに行ってて、こんな場所にいる訳ないはずで……。
「おいコラ、アタイを紋章名で呼ぶのはやめろっつってんだろ! アタイにはトゥーダって名前があるんだ。――んな事よりお前、アタイらに何かしただろ?」
先程上がった口角は元に戻り、虎人族特有の威圧感の乗った射抜くような視線を向けてくると、身に覚えのない質問をされた。
「え? …………あ、いや、別に、何も、してない、けど……」
思わず出てしまった驚きに言葉の後に、俺はしどろもどろになりながら、なんとか言葉を紡いだ。
「んな訳あるか! お前、ゲリンにパーティ追放を言い渡された後、絶対何かしたはずだ、すっとぼけんなっ!」
「…………」
「トゥーダ様、それは何かしたのではなく、
返答のできない俺を見かねたのか、ツェツィが代わりに答えてくれた。
そしてその言葉を聞いて、察しの悪い俺も思い当たる。
俺のバフが切れたことで、トゥーダは俺が何かしたと思った訳だな。
「姫さん、アタイは賢くねーから、回りくどい言い方だと理解できねーんだ」
「何も回りくどくありません。言葉通りの意味なのですが? それより魔物を倒す方が先決です。詳しいお話は全てを片付けてからいたしましょう」
「チッ! おいワルター、アイツラをぶっ倒したら、お前には洗いざらい喋ってもらうからな」
よくわからない間に話がまとまり、トゥーダはモグノハシに向かって走り出していった。
着ていた灰色のローブを脱ぎ捨て、相変わらず頭のおかしい痴女のようなビキニアーマー姿で、白と黒の横縞の尻尾をゆらゆらさせながら。
「ワルター様、戦力の足りない現状、トゥーダ様は有用な戦力です。彼女にもバフをお願いできますか?」
「えー、俺アイツが嫌い……というか苦手なんだけど」
「今は好き嫌いを言っている場合ではありません。トゥーダ様を仲間とお認めになり、パッシブバフを与えた上でアクティブバフをかけてください」
「そこまでするの?」
「一刻を争う事態なのですから、四の五の言わずにお願いします。――ついでというのも何ですが、トゥーダ様に協力なさっている囚人の五名にも、アクティブバフのみで結構ですので、バフをお与えください」
「…………」
「よろしいですね」
「あ、はい……」
ツェツィに笑顔でゴリ押しされると、どうにも断る事ができない。
怖いとかではないのだが、思わず言うことを聞いてしまうのだ。
それはそうと、俺は仕方なくトゥーダを仲間と認める。
本心では納得していないが、そうしないとパッシブバフが発動しない事は実験で判明しているのだ、戦力が必要な現状は認めざるを得ない。
そして、アクティブバフを意識してかける。
更に、トゥーダの手下のように動いていた五人の囚人、彼らを仲間と認める事はしていないが、アクティブバフはしっかりかけた。
このあたりの使い分けは、多分できるようになっている。
その効果は覿面だった。
その影響か、はたまたバフのお陰だろうか、トゥーダのサポートをしていた囚人も余裕ができたようで、二人がアストと合流してツェツィのサポートをしている。
そして何故か、
こうなると時間の問題か……と思っていると、今までが嘘だったかのようにモグノハシは倒され、あっという間というほどではないにしろ、気づけば生存しているモグノハシは一体もいなくなっていた。
「すげーな」
思わずそんな声が俺の口から漏れる。
「すごいのは、ワルターお兄ちゃんのバフ」
俺の護衛をしていたヴェラがそんな事を言うが、本当にそうなのだろうか?
ツェツィは戦闘職ではないにしろ、
そしてトゥーダは、バリバリの戦闘職である『拳姫』なのだ、元々の力が発揮されただけのようにも思える。
だが、俺がトゥーダや囚人にバフをかけてから状況が変わった。
であれば、俺のバフが力になっていたのは事実だろう。
天狗になる気はないが、変に謙遜して事実を見誤らないようにしなくては、そう思うようにした。
「おいワルター! お前、やっぱり何かやってやがったな? 魔物は倒したんだ、素直に全部吐きやがれ!」
俺は索敵スキルを使って周囲に魔物の反応がなくなったのを確認し、その事を伝えると、いの一番に戻ってきたトゥーダが俺の胸ぐらを掴んで怒鳴りつけてきた。
「ちょっ、トゥーダ様、ワルター様からお手を離してください。それに、負傷者の治療など、まだすべき事があります」
「いや、姫さんよ、魔物を倒したらって話だったろ?」
「私は、『魔物を倒す方が先決で、詳しいお話は
「これだから王族は……」
「何か仰りました?」
「いや、さっさと片付けちまおーぜ」
何か弱みでも握られているのか知らないが、トゥーダはツェツィの言葉を素直に受け入れた。
そして、俺も色々とすべき事があるだろうが、一段落したらトゥーダと話し合わなければいけない。
物凄く面倒だが、避けて通れないだろう。
ただバフを撒いているだけで、ほとんど疲労のなかった俺だが、ドッと疲れが出てくるのであった。
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