久々の空



「……疲れた……」

「………わたしも……」


 降りて来た時と同じく、長い梯子でした。

 しかも今度は重力に逆らって登っているのです。飛び降りるのとはわけが違います。

 サレナは杖を、ヴィーナは大きな本を抱えて登っているので、それだけで戦闘をこなしたくらいの疲労がたまるのでした。


「ねぇサレナ…とりあえず前に作った寝床に戻らない?」

「さんせーい……」


 芋虫のように這いずりながら、2人は地下に降りる前に作った寝床にもぐり込みます。

 そのまま数分もしないうちに寝息をたて始めました。






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  DOWB開門、っと。……よし、ヴィーナちゃん、抱えたまま寝てなくてよかった。おかげで体全部出せたよ。

 しかし相変わらず狭いなぁ…。もうちょっと広く作ればよかった。

 まぁそれはそれとして、ヴィーナちゃん?ちょっとヘッドギアの様子見せてね〜。

 あららら……結構イカれちゃってる。サレナったら荒っぽいんだから…。

 あなたがものを直すなんて、本来できないってのにさ。これも変質の影響なのかなぁ。

 …よし、修復完了。これでヴィーナちゃんが悪いもの見て予定外の行動する危険はとりあえず無しっと。


 しかしあどけない寝顔ねぇ…ずっと見ていられるわ。


 そんじゃ帰ろかな。頑張ってね、2人とも。2人?まぁ、見た目はそうだからその表現でもいいか。バイバーイ。

    DOWB、閉門、っと。

 よーし、起きる前に全部終わらせられた私、もしかして天才?



いや、「天才」は人間に対して使われる語だから私には合わないか。


  私はそもそも生命体ですらないわけだし…。


  34518982781qlioitajqyil○○***#



「…ん?今……何かいた?」


 ふと目を覚ましたヴィーナは、何かの気配を感じ取りました。

 しかし、あたりを見渡しても寝息を立てるサレナと地下から拾ってきた本以外はありません。


「気のせいか……。」


 ぱたんと倒れこみ、また眠りにつきました。


##3465857689危ない危ない。agmt



「ん…ふぁぁ…んーーっ!ヴィーナぁ!おっはよー!」

「んぶっ……おはよーサレナ。次からはこんな荒っぽい起こし方はなしでお願い…。」


 目を覚ましたサレナがヴィーナに飛び乗りました。その衝撃でヴィーナも目を覚まします。


「んー…ん?ねぇサレナ?」

「なーに?ヴィーナどうしたの?」


 寝起きで乱れていた服装を整えていると、ヴィーナはあることに気づきました。


「あたしに何かした?」

「え?今回は何もしてないよ?」


 実は地下でサレナにぶっ叩かれてから、ヴィーナはずっと頭痛を抱えていました。それが今は綺麗さっぱり治っていたのです。

 首を傾げながらもヴィーナは服装を整え続けました。

 自分が終わったら次はサレナの番。

 目が見えないサレナの代わりに、どこか引っかかっていないか、絡まっている場所は無いかを確認していきます。万が一それを放置して戦闘の時に動けなくなったりなどしたら大変だからです。

 いつもふざけるサレナも、この時だけは大人しくしています。


「よしオッケー。問題無いよ、サレナ。」

「んー!いつもありがとね、ヴィーナ。」


 それが終わると、2人は寝床から出て歩き始めました。サレナは杖を担ぎ、ヴィーナは本を抱えて、2人は手を繋いで歩いていきます。



「ねぇヴィーナ?それ、いつまで持っていくつもり?」


 サレナがヴィーナの持つ本のことをさして言いました。


「これ?あなたがなぜかこれだけは察知できたっていうのもあるけど…なんだか捨てちゃいけない気がするのよね。よく分からないけど。」


 特に気を引くようなものでもないはずなのに、不思議とずっと持っていなければならない気がしていました。


「そうなのねぇ。ならヴィーナ、それ肌身離さず持っていてくれない?」

「え?どうして?」

「そうしてくれれば、あなたがどこにいるかわたしがすぐに分かるから。」


 サレナにとってヴィーナが今いる場所は重要な情報です。それ次第で戦闘も、普段の生活も左右されてくるのですから。

 そんな事がが常に分かるようになるとなれば、サレナがそう頼むのも自然な事でした。


「ああ、分かったよ。あたしの目印ってことね?」

「そういうこと!それ、今ちゃんと持っててね!それーーっ!」


 突然、サレナがヴィーナの手を解いて走っていきました。ヴィーナが制止する声も聞かずに走っていきます。


「ちょっとサレナ?何やってるの?」


 困惑したヴィーナが自分も走って行こうとすると、


「ヴィーナそこで止まって!」


 とサレナが言います。

 その意図が分からないながらもヴィーナがとりあえず足を止めます。

 そうして見ていると、サレナはその場で一回くるりと周ってこちらを向きました。


「えーっとね…ヴィーナはー、こっちにいる!どう?あってるでしょ?」


 そう言って笑うサレナの顔は、確かに正面からヴィーナを捉えています。


「…ふふっ、正解!あたしはちゃんとその方向にいるよー!」


 ヴィーナがそう返すと、サレナは満足そうに戻ってきました。

 もう一度ヴィーナの手をぎゅっと握ってまた歩き出します。


「んふふふふっ」


 サレナは、にまにまと笑いながらスキップしながらヴィーナの周りをくるくる走り回っています。


「サーレナ?ちょっと歩きづらいんだけど?」


 ヴィーナがうっとうしそうに言いはしますが、口元が緩んでいるので言っているほど不快ではないようです。


「ふふっ…ヴィーナのいるところが分かるっていいなあ!ふふんふーん!」

「もう…」


 上機嫌で回り続けるサレナ。それに段々と流されたのでしょうか。ヴィーナも少しずつ、回るサレナのリズムに合わせて踵で拍子をとりはじめました。

 その音に気づいたサレナはヴィーナを振り返って笑い、本格的に踊り始めます。



「ねぇヴィーナ!これ、楽しいかも!」


 最初は滅茶苦茶にターンやステップを繰り返すだけでした。サレナもそれを楽しんでいるようで、ヴィーナもそれを見て微笑ましそうにしていました。


 しかし、段々とサレナの様子が変わり始めます。


「んー…。あー…何か……開きそう……?」

「開く?何が?」

「んー……んー?」

「?サレナどうしたの?」


 ヴィーナの問いかけにも答えず、サレナはひたすらに踊っていました。


「…aーー…raーーraー」


 耳を澄ますと、透き通った声でサレナがラーラーと歌っているのが聞こえます。しかし、それも特に意味も無い声です。


「ねぇ!サレナ!」


 語気を強めてヴィーナが叫ぶ声も聞こえていないかのようです。

 そうこうしているうちに、サレナの動きは次第に洗練されていきます。

 まずは体の軸が全くブレなくなりました。どんな無理な動きをしても、姿勢を完璧に保っています。

 次に段々と動きの接続が滑らかになりました。ターンからステップへ、そして流れるようにジャンプへとつながっていきます。

 それが昔の人間が踊る「バレェ」と言うダンスである事をヴィーナは知りません。

 それでもサレナがまた何かおかしな事になっているのには気づくことができました。


 ヴィーナはそれを止めることができませんでした。

 なぜなら、


「………綺麗…。」


 口をついて出てきた言葉にヴィーナ自身が驚きました。

 普通に考えて、怪物達を倒すのにそんな感覚を持つ意味はありません。無駄です。

 それならばヴィーナがそんなものを持つはずが無いのです。


「え…?あたし、今なんて…?」



 そんなヴィーナの思考は、持ったままだった本の異変によって打ち切られました。

 

 目の前で大きなジャンプをしたサレナの動きに合わせるように本は一度大きく振動し、次第に熱を持ち始めたのです。


***###まずいeeryaqj

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