第9話、黒妖精2
「助かった。そいつらは俺の方で運んどくから放置で構わん」
「おじさん、チャーハン食いたい! なにチャーハン作ってんだよ殺すぞ!!?」
「いや急にキレるじゃん」
「今はキレたい気分なのー!」
「キレ方の癖よ」
オッサンは腕や足が切断された男を店の奥に仕舞う。手を二度三度叩いて埃を払う。
「つか、ここバーなんだがなぁ……ま、いい。助けてもらった礼だ。金はいつもの口座で良いな?」
「おん!」
オッサンは腕に包帯を巻き終えるとチャーハンを創り出す。先ほどまで戦闘があったとは思えないほのぼの感がそこにはあった。
「そんでねー。雲雀ったらそこで気絶しちゃってねー。はははは……うわあああああああああああああああああああああん雲雀゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ッ!! あの雌豚、股座に蚊取り線香突っ込まれてえようだなああああ!! 雌穴からインスタントコーヒーかああああああああ!?!!? いい匂いですねええええええええええええ!! チャーハンおいしそうっ♡」
「喜怒哀楽を奏でるな」
オッサンは相槌を打ち、チャーハンを炒める。
ジュゥゥゥゥゥゥゥっ♡ という音は食欲をそそらせる。
「――――でねー、おじさん聞いてるー?」
「聞いとる聞いとる。しかし難儀なもんだな
チャーハンが湯気を立てて皿に乗っている。彼女の下腹部からきゅるるっとウンコが漏れた音がした。
「わーい♡ おじさん大好き♡ もう毎日私のためにチャーハン作ってほしいな。あ? プロポーズじゃねえよ殺すぞ!?」
「ははは、この万年情緒不安定が。オメエは秋の空か?」
「おじさんも語彙が可笑しくなり始めてるの気付いた方が良いよー」
そこへ追い打ちをかけるかのように焦がした刻みネギが乗せられた。蓮華で一掬い、チャーハンの中には肉片、カニカマ、卵、塩コショウが良い塩梅で均等に混ざっていた。
そこへ焦がした刻みネギの風味を加えればもう神の領域だ。
「スパイスなかったからこれ砕いて自由にかけろ」
「うめぇ棒だ! あ、おじさん。なんかお仕事ないかな?」
「お得意様からの指名依頼が一件、野良が三件、面白いのが一k」
ジーっ、エレベータが稼働する音が聞こえる。
「こりゃ犬だな、ちょい黙ってチャーハン食ってろ」
エレベータが開くと、そこにはスーツを着た男女一組がいた。
「――――邪魔するぞ」
「邪魔だと自覚してたのに来たの!?」
「
ガタイの良い男が細身の女に突っ込みを入れながら、カウンター席――――〝彼女〟と一つ席を開けた隣に座った。
「……情報屋、ここが」
「後ろの彼女は新顔だな」
背後にいる女性は話を向けられると芋虫を噛み潰してウンコを顔面に塗りたく食ったような顔を浮かべる。
「……犯罪者モドキが」
「黙れ。わりぃな、コイツ、立花っつーんだが潔癖症でよ。まあ社会見学だと思って大目に見ろ」
「別にいいさ。今の時代じゃ珍しかねえことだ。まあ座りなよ
「…………結構よ」
「カ○ピス!? おじさん、カル○スほしい!」
「わーった、やるから黙れ」
立花は歯ぎしりをしながらカウンター席――――〝彼女〟の隣に座る。
「……チャーハンおいしいっ♡」
〝彼女〟は無言で席を替えた。オッサンはブフォと噴き出す。対応が露骨すぎたのだろう、立花も頬を引き攣らせた。
「……情報屋、この嬢ちゃんは」
「え、あー……こいつは」
オッサンは〝彼女〟に猫耳バントを被せる。光の速さを越えていた。
「私は近所で飼われてる猫です。気にせんといてください」
「いや絶対違うよね!?」
「コイツはチャーハン強請りに来るやつだ。放置して構わん」
「じゃあ何で猫耳つけさせた……?」
まあいいかと、〝彼女〟はチャーハンを食べ終える。
「おじさん、また明日ねー(今日は諦めよ)」
「おう、帰れ」
〝彼女〟は皿を渡して踵を返す。その足取りは何処か苛立ちを感じさせた。
「(立花……こいつが拳墜とやらの親か。その辺にいるバカ女ってとこか)」
◆◇◆4月7日 早朝
アパートの窓から光が差し込む。薄暗い部屋に時計のアラームが響く。
「ん……もう、朝……」
僕は胸の何処かに気怠さを感じながら、朝食のモヤシパンを手に取る。
「(……昨日、課題を全部終わらせた後の記憶がない……いつもの、か)」
制服に袖を通し、鞄を背負ってアパートを出る。ちゅんちゅんと鳴く小鳥に見守られながら、僕はアパートを後にした。
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