第66話 魔王ザディウス。2/5


——そして、本題。


だが、


「本題も何も、俺はどっちでも良いんだが。向かってる途中のジャダの滝のバジリスク達の方も急いだ方が良いのは事実だし、一人で飛び出しそうだったカトレアさんを止めたものの旅の方針は基本的にクレアに任せるよ」


その話し合いの中心に居るイミトは至極興味も無さそうにさじを置き、話題をはらけたいのか片手を放り投げるように軽く振って主導権をクレアに渡そうとする。


しかし、そうも行かぬが世の無情。


「ふむ……貴様はどう思う。カトレアが導き出したがザディウスの魔王石と思うか」



「まぁ無い話じゃないだろうけど、そんな物騒そうな物がカトレアさんの言ってた通り、リオネル聖教の管轄かんかつ地域にあるなら、レザリクスが回収して切り札の秘密兵器にしてそうだし……なにより、お前が魔王石とやらの気配に気づきそうだと思う訳で」


自身を取り巻く環境が、知らぬ存ぜぬを許さないように意見を出し合う話し合いに語らえる者は多くは無い。


クレアから意見を求められたイミトは落ち着かぬ右手で今しがた置いたばかりの黒い匙を渋々と再び手に取り、指揮棒のようにもてあそび始めて。



「……遺骸跡とやらに足を運んだ事は無いのでな。流石に厳重に結界でも張って気配を隠しておるのだろう。むしろ、そのような代物の所在をカトレアが知っている方が疑問よ」



「うーん。確かに、そんな物の保管場所なんて国家機密って奴だろうしな。本物の場所を隠す為の情報操作って可能性もある」



気にならぬと言えばあるから思考はするが、もちろん面倒事や取り越し苦労と関わりたくないと、どうにかして関わり合いにならない方法や方便に成り得る言葉を探している様相を匂わせても居る。



「うむ。だが、情報の真偽はともかく——それを信じさせるだけのはあるかもしれん。貴様の予想通り、本物をレザリクスが持ち逃げしておったとしてもだ」



そんなイミトを意にも介さずに、否——どうやらとクレアの意志も既に答えを出している様子で、情報整理の話し合いの裏——既に行われているのは


行くか行かぬかの二者択一にしゃたくいつなのであって。



「まぁ——最初から偽物ならともかく、レザリクスが持ち逃げしてるなら騒動にならないように、時間稼ぎの小細工ぐらいはしてるかもな」


「セティスとデュエラは、どう思う? 今後の方針の話だ」


故に自分で可能性を浮上させておきながら、風呂に入り、腹がふくれ始めて落ち着いたイミトの心が徒労とろうに終わりそうな面倒事を避けたいと脳が忌避し、求めたのは一縷いちるの望み、傍らで食事をするデュエラや新たなスープを注いできたセティスの意見。



そのイミトの賭けに対し、最初に結果を出したのはセティスであった。



「……私は、行くべきと思う。今は、が抑えられてるみたいだけど、ここでカトレアさんと不仲の原因を作るのは今後に差しつかえる、かも」


話半分聞きながら、コトリと黒いテーブルの上に二つの器を置いた彼女は悪意無くイミトの怠惰な勝利を圧倒的に分の悪いものとして。


こうして、もう一人——呪われた金色の眼を隠すメデューサ族の少女デュエラに今後の行く末がゆだねられる。


「デュエラ、貴様も意見を述べよ」


「え、ぁ……あ、あのワタクシサマはクレア様とイミト様の指示に——」



「指示に従うって言うなら、この状況をどう考えてるか答えるべきだな、デュエラ」



「俺とクレアは、お前に聞いてる」


しかし彼女は唐突な問いに、答えを直ぐに出せはしない。

純朴な少女は、それ故にまだ幼子おさなごの如くこれまでの旅路を、イミトやクレアのそでを掴んで振り回され続けて来ていたのだから。



これまでに依存して思考を止めて生きてきた少女ならば無理からぬ事なのかもしれない。


されど、その事について多少なりともイミトは危惧きぐを覚えていて、ひいてはイミトの危惧を知るクレアもまた、これを機にと彼女に自らの意志で進む事をうながす。


「……あ、ぇ……と、その……ワタクシサマは……」


「「……——」」


そういう思惑も、確かにのだ。

だが無論、それは今後の旅の行き先を決める投票の決定に繋がる事態でもあって、イミトとクレア——その静かなる二つの眼差しが強くデュエラの顔布越しの金色の瞳に向けられて。


漂うは——いびつに、下手くそに、ままならぬ思考回路を動かし始めた少女の迷いと無言の重圧による緊迫。



しかしながら、だ。


空気も読めず、この世界の言語の一つも読めない女が一人。



ユカリ・ササナミ。

彼女がもたらすは更なる混迷か、策謀の瓦解がかいか。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る