第45話 稲妻の如く、そして——。1/5
場面は変わり、城塞都市ミュールズの地下水道。
スライムの半人半魔、アーティー・ブランドを圧倒する戦いを繰り広げていた魔女にも異変の時が訪れる。
「はぁ……はぁ……」
息が荒れ始め、
「ふふふ……先ほどまでの威勢が消えてきたな、セティス・メラ・ディナーナ」
対照的に圧倒されていたはずの半透明の液状の
「この……‼」
いったい何故、こうなってしまったのか。
「——これが、人間と人間ならざる者の力の差だ」
「空気が……
その原因を推測ながら口にする両者。
「そう……最早ここは俺の分身体が出入り口を封鎖した空間——俺は貴様の弾丸を避けながら動き回り、空気や魔素を吸収、或いは封印し、もうじき独占する」
セティスがチラリと数ある出入り口を確認すれば、確かにアーティーの体の体積は初めよりも大きく見え、彼が言うように出入り口が通気口に至るまで薄い
極めつけとして、下水道に流れているはずの水流の音が消えうせた静寂がそこにはある。地下水道は完全に
「呼吸もままならない
「後ろの穴も
完全な劣勢、一転して追い詰められてしまった状況ではあるが、懸命に狙撃銃を立ち上がり、得意になっているアーティーの言葉に耳を澄ますセティス。
「仮に……あのイミトという男が間に合い、忌々しい塩で立ち回ろうとそれは時間稼ぎにしかならないだろう」
「よくやったと
しかしながら、直ぐにはトドメを
「……師匠を
「イミトは——……ここに必ず来る。ここに来て、貴方を倒す。クジャリアース王子も守る。今の私の状況もイミトは昨日の内に想定していた」
息も絶え絶えに狙撃銃を構えたセティスの言葉を聞いたのは、恐らく身の内のトラウマに
「……なに」
勝利を確信したひと時に、人は最も油断する。
例え、相手が放っている言葉が死に際の負け
「私にとっての希望は、アナタたちの絶望。だから私は、絶望の灯が、より強く燃えるように——アナタの希望を少しでも削り取る‼」
そしてセティスも最後の一撃に己の想いの全てを狙撃銃へと込めていく。
だが——、その時だ。
「
「……?」
唐突にスライムの動きが止まり、真空のはずの大気が
「私の分身が一瞬で——……今の感覚は——まさか⁉」
何やらと遠くで起きている異常事態を目撃している様子の彼の動作に、セティスは事態の異常さを知る。そして思い浮かばせるのだ。
脳裏に、あの
「「——⁉」」
突如として
『クライド流剣技歩法——【
そして——地下を
「——アディ・クライド‼ なぜ貴様が——ここに居る‼」
その
——男は、あまりにも速く、そして強い。
「……状況は把握した。【
空中跳躍の最高到達点に達したアディ・クライドは、地下水道の上空から左右に両眼を動かす眼球運動を一度のみ行い、周囲の状況を大まかに察し——、
落下の勢いそのままに右手に持っていた剣の柄を逆さ両手に持ち変えて、地下水道の床を
そこから始まったのは——まさしく災害。
「ぐぅ——おおお‼」
剣が貫き、砕けた地面から放たれる途方もない雷撃は、大樹の枝葉のように次々と地下水道の水や空気を吸収し肥大化していたスライムの
だが、そこかしこに当たり散らす
「……君がセティス殿だな。間に合って何よりだ」
そうしている内、剣を床から引き抜いたアディがセティスの前に現れ片膝を地面に着いて微笑みを浮かべながらセティスの無感情な顔色を
「お初に御目に掛かる——私は、リオネル聖教が聖騎士団所属、第一編成部隊副長——アディ・クライド。
帯電に苦しむアーティーや雷を帯びたままの剣を傍らに、胸に左手に当てて挨拶をした彼は颯爽と振り返り、浴びせられた雷撃に伏したアーティーに向かい合う。
「「……アディ・クライド」」
アーティーが現れた助っ人の名を呼ぶ声に、その感情は
そして同時に彼の名を呼んだセティスの声には、
——
その意味を、この瞬間——セティスも理解するに至る。
「私が通ってきた穴の空気は落ち着いてきている。その穴に避難しておくといい」
一方のアディ・クライドは未だスライムの半人半魔を意にも介さぬ様子でセティスに、その状況把握力を知らしめた。
「……そういえば、アナタの事をイミトに言うの忘れてた。アナタは、味方?」
「——はは、敵に見えると言われたのは初めてだな。ここにはイミト殿に頼まれて馳せ参じた——残念ながらスライムに友達は居なくてね」
更には、セティスが漏らした声に心外と笑い声を上げる余裕まで見せつけ、何処か彼に似ているとセティスは感じる
「クジャリアース王子も無事だ。ここに来る前に、私が最優先で城に送り届け、他のアルバランの者たちの救助要請もしてきた。私は、速さには定評があってね」
セティスが知る
セティスは、確かにこの男は敵に回すとヤバイ奴だと思ったのであった。それ以外の表現が見当たらないと。
そして今、彼の敵となった男は——
「……何故、ここに貴様が居るのだ、アディ・クライド‼ 貴様には北方の魔物狩りを命じていたはず‼」
目の前の現れた脅威に激しく動揺し、思わず口を
「——その口ぶり……まるで君が私に命令を下したように聞こえるが」
「……‼」
「もしや、僕に
「……」
これまでセティスの言葉や仕草を警戒して注意を集中していたあまり、他の者に対する警戒心が
揺らぐ心が
「さぁセティス殿、ここは僕に任せて貴方は、穴の中で休息を」
「——……分かった」
やがて改めてと仕切り直すように試し振った剣、その雷鳴の光る真剣の
「さて、
その好青年の不敵な笑みに、アーティー・ブランドは半透明の歯を噛みしめる。
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