第44話2/4 セティス・メラ・ディナーナ。
その頃、魔通石でイミトと通話していたセティスは、城塞都市ミュールズの地下水道最下層——全方向から生活排水が流れ入り出ていく広間にて、手に
「さて……どのくらいの時間、持つかな」
そして塩を払い終えるや振り返るは、分厚い
——
「くっ、セティス‼ 貴様、何故この場所が分かった‼」
猛攻を撃ち終わり、引き
——スライムの半人半魔。
魔物と人間が肉体的に合成された魔獣——アーティー・ブランド。
「……何故と言われても、イミトが昨日から探して見つけていたからとしか言えない」
けれど、覆面の魔女セティス・メラ・ディナーナは驚かない。
あくまでも無感情に淡々と事実を告げて、腰のベルトから魔力を撃ちだす銃を引き抜き、顔を上げて恐らくスライムの目の部分であろう箇所を真っ直ぐに見返すばかりで。
「探していただと⁉ 有り得ない事をほざくな‼ 奴は周囲から疑われ、自由には動けなかったはずだ‼」
対して、その膨大な量の液状の肉体に怒りを
「——動いていたのはイミトの召喚していたスライム。あの人は、このミュールズの地下水道に当たりを付けて浴室の排水口から夜中の間に暗躍してた」
それでも彼女は全く以って微動だにせずに、ここまでの経緯を述べながら手に持った銃の弾倉を開き、弾丸代わりの動力源となる魔物の魔石を入れ替えて。
「アナタは普通に水道から忍び込んでクジャリアース王子たちを襲ったの? おかげで、お湯の出が悪くて昨日のシャワーは最悪だった」
「またスライムだと⁉ そんな話は聞いていないぞ‼」
「聞かなきゃ考えることも出来ないソッチが悪い」
苛立つスライムの液体の水面を漂う上半身のみの半透明の人型を尻目に武器の整備を終えたセティスは、共に透明のドームに守られていた背後の
「セティス‼ クジャリアースをこちらによこせ‼」
——それは、人質に取られていたアルバラン国の面々。
「……クジャリアース王子。助けに来るのが遅れて申し訳ありません」
その中でセティスは、中心に居た一人の男に片膝を着いて声を掛けた。
「そなたは……誰だ。くそ、目が
手足を
「全員、動かないで。今は結界で防御していますが、あなた達を襲ったスライムが攻撃を仕掛けてきています」
ギチギチと透明なドームの大部分を埋め尽くす男たち、外側に流れるスライムの圧を
「私はセティス・メラ・ディナーナ。昨晩、クジャリアース王子が決闘を仕掛けたイミト・デュラニウスの仲間」
「イミト・デュラニウス……そうか、昨晩あの男の横に居た少女か」
身分の高い王族を意識して、彼女なりの敬意を声に表しつつ、
「あまり不審な行動をすると疑われかねないと思い、場所が分かっていても安易に事を起こすことが出来ず、改めて申し訳ありませんでした。イミトに代わり、謝罪いたします」
つらつらとクジャリアースとの会話を重ねるセティス。
「……分かった。それはよい、それで時間があるなら現在の状況を詳しく教えてくれ」
その冷静な声色に冷静さを取り戻したクジャリアースが、静やかに聴覚だけで周囲の状況を把握しようとする素振りを見せると、彼女は自分を含めた周囲を守る結界の様子を確認して
「——現在地は、ミュールズの地下水道の最奥。ここに
「うむ、状況は分かった。皆、耳は聞こえるか‼ アルバランの第三王子、クジャリアースの名において、
そして、状況を聞いたクジャリアースの行動も早かった。危機的状況、人々を
「——はっ‼」
その頼もしさに臣下が付いていく事も理解できる。そう思ったのだろう。
「……賢明な判断と御配慮、感謝いたします」
セティスは、内心で足手まといと思っていた人質たちに対する
「セティス・メラ・ディナーナぁぁぁぁぁあ‼」
「——……私の師匠を殺し、私を生かしたその報いを受けろ‼」
己を無視して
『
「——全員、一歩ずつ後ろに下がって‼」
片手に持っていた銃を複製し、地面に二つ、銃口に向けて二丁拳銃の構え。背後に居るアルバランの人間達に声を上げると同時に、撃ち放たれた白い光が地面に二つの穴を
「ぐううう——こんなものが、効くものか‼」
地面を掘り進んだかの如く結界の外の地面から現れたのは二匹の巨大な力の
更に、その
「……これで、
セティスは次の策を施行する。クジャリアースを中心に地面に魔力を流し込み淡い光を放つ魔法陣を浮かび上がらせて。
告げた言葉は、これからの指示と別れの挨拶の如き
表情はクジャリアースたちが視覚を封じられている事を見越してか、
「——……待て、貴殿は何をするつもりだ‼ 先ほどの通信も聞こえていたぞ、イミトが来るまで耐えるのであろう、まさか一人で敵と対峙する気か⁉」
されど、その裏にある【何か】を察したクジャリアースは身動きの取れない手足を
だが——、
「いいえ。奴は私が倒すから」
「——……‼ ……⁉」
クジャリアースの忠告を聞かぬセティス。全ては予定調和の如く彼女は最後に一言の決意を告げて、魔法陣の魔法を発動させて新たな結界——今度は結界内部が全く視認できない濃霧のような代物で、何かを叫び始めたクジャリアースの声も霧に遮られているようであった。
そして、濁流の攻撃から彼女らを守っていた透明の結界は、ひび割れつつある。
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