現役兼業魔法少女(29)深夜の公園でクレープを喰らう
鮎河蛍石
劇画・魔法☆少女
現役兼業魔法少女(29)深夜のコンビニでクレープを喰らう
ちゃぶ台の上にはストロング系缶酎ハイの500mlロング缶が1本と、焼カワハギ。
埃を被ったシーリングファン付き照明からぶら下がった紐をぼんやりと突っつきながら考える。
それは今日の昼休み、彼女は生活費を降ろしに向かった銀行での出来事。
ATMから三万円を降ろした。
「金を出せ!」
猟銃を構えた男が窓口で手荒な要求をしている。
厭なモノを見たな、早く職場に戻らないと食事の時間が摂れない等と考えながら暴漢に歩み寄る私。
「おい!」
片腕だけ変身させ強盗の横っ面を張り倒す。
中学生の時分の腕のリーチは今より幾分か短いが、肉薄すれば誤差の範囲。強盗は木っ端を散らすが如く吹きふっ飛び、壁に激突、そのまま気絶した。
畜生、これで昼休みと午後の仕事は、警察署の取り調べでパーだ。派遣社員の収入には非常に堪えるものがある。変身せざる負えない町のトラブルで、もう有給など残っていないのだから。
私はかつて『巨蟹宮のマジカルキャンサー』なる魔法少女として活動していた。しかし、成人してからは徐々に活動の頻度を減らす一方だ。
変身する度、思いしらされる。ベストコンディションであった中学生の瑞々しさを。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「あんたまだ魔法少女なんかやってんの?」
2児と旦那を抱えた主婦にして、元魔法少女の先輩とのやり取りが、不意に思い起こされる。
「町の平和を守るより、子供と旦那の世話のが大変だわ」
満足げにため息を漏らす画面越しの先輩と漏れ聞こえる子供のはしゃぎ声。
大変だと漏らしながらも浮かべる柔らかな笑顔が頭から離れない。
昔は事件が解決したら、コーヒー牛乳と駄菓子を食べて祝勝会をしてたっけ、先輩。
いつからだろう。
独りの晩酌が日課になったのは。
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