第5話
クラッキング・ウイズ・メイド 1
「さァーて賞金稼ぎの皆さんお待ちかね! 『ザ・ショット』の時間だよォ!」
「今日もホットな賞金首の情報をお届けするわ!」
朝のニュース番組が終わった直後、安っぽい銃声と共にカントリー風の音楽がいかにもな書き割りと共に流れ、カウボーイとカウガールな衣装の男女2人組が、どうにもわざとらしい口振りでそう言いながら現われた。
「――あっ、ケチャップが」
「あんがと……」
「ふぅむ……」
「今日も元気でござるな」
提供バックで流れる無駄に陽気な音楽が、朝のソウルジャズ号の2階層リビングに流れるが、ちゃんと見ているのはテレビの正面にスツールで陣取るバンジ1人だった。
その他の3人は、朝に弱いザクロが寝ぼけ眼でホットドッグをもしゃもしゃ食べ、隣に座るヨルがその顔に付いたケチャップを拭き、はす向かいの1人がけソファーに座るミヤコは完全栄養食クッキーバーを片手に工学系の論文を読んでいた。
「やあメアリー!」
「はぁいジョン!」
「今日はビッグでホットな情報を持ってきたんだ!」
「わぁ素敵! 一体どんな賞金首なの?」
「気になるだろう? それはコイツさ!」
「待ってジョン! どうして顔だけ似顔絵なの? メイド服は写っているのに」
「彼女は『コスモメイド』! その道では有名なクラッカーなのさ!」
「ああ、なるほど! つまりクラッキングされてデータが無いのね!」
「その通り!」
「でも手配の罪状は連続殺人なの?」
「クラッキングは取締局の管轄外だからね!」
「いっけない! そうだったわね!」
「HAHAHA! ところでメアリー、
「3人で7千400万クレジットは破格ね!」
「そりゃそうさ! この殺された3人、実は全員大企業の役員なんだ! その上彼女、とんでもないクラッキング技術で並のハッカーじゃお手上げときたもんだ!」
「きゃー! それは納得だわ!」
無駄に高いテンションで喋り続けて、いつも通り話の進みが鈍い様子に、
「やかましい……」
8割方目が覚めたザクロは渋い顔をしてポツリとつぶやいた。
「そして彼女の得物は高周波カタナブレード! これでスパスパッとぶつ切りにしちゃうんだ! 怖いね!」
「わーお! それじゃ相当な腕利きじゃないと危ないわね!」
「その通りさメアリー! ちなみに区分は生死を問わない(デツト・オア・アライブ)だ!」
「勇気ある賞金稼ぎの皆さんはレッツトライよ!」
「じゃあ今日はこの辺りで!」
「バァイ!」
「『ザ・ショット』!」
朝から流すにはやたらめったら賑やかな番組が終わり、ナレーションベースの便利掃除グッズの通信販売番組が始まった。
「いやあ、いつ以来の『
座ったままくるっと回り、後ろにいる3人にバンジが話を振るが、
「あ?」
「どうしました?」
「ごめんよ。なんの話だい?」
彼女らは番組の音声すら全く聞いていなかったため、バンジは一から説明する羽目になった。
「ほーん。どんなヤツなんだそいつ」
コーヒーを飲んで完全に目が覚めたザクロは、腕組みをしながら長ソファーの背もたれに半身を預けてバンジに訊く。
「うむ、ではこちらをご覧あれ」
彼女はそう言うと、天然物で作った青汁を紹介していたテレビを入力モードに切り替え、自分の端末画面をそこに表示した。
『コスモメイド』ことロザリアは、元は資産家の女性シャルロット・バルリエの家に住み込み勤務するメイドの少女だったが、主人のシャルロットは10年ほど前に何者かに暗殺されたと見られ、ロザリア自身も一度行方不明になった。
しかし、この数ヶ月前に突如としてメイド服を
という情報を見ながら、
「今日日、刀でカチコミかけて親分の
「どちらかと言えばB級アクション映画ってところかな?」
「ああそうか。時代劇にメイド服なんか出てこねえな」
「しかし、なかなか絵になりそうな取り合わせだね。ちょっと不謹慎だけれど」
「オレ達ぁ不謹慎でメシ食ってんだ。今更だろミヤ」
「うん。それもそうだ」
ザクロとミヤコは話を脱線させる。
「で、わざわざ話すってこたぁ、なんかそいつの居場所でも掴んでんのか?」
「いやあ、何も」
「テレビで見たから話題にしただけかな?」
「うむ」
「なんだよ」
「しかし、もっと高額な案件は
バンジは少し声を潜め、ポンチョの中からアナログ文書を取りだしてローテーブルに置く。
「額は2億でござる」
「に、2億……」
「へえ、これは相当なワルと見た」
「どれどれ?」
指を2本立ててそう言うバンジが広げた、5枚ほどの文書を眺めるヨル、ミヤコ、ザクロ3人だが、
「20年前ちょっと
口に出して読んでいたザクロの顔は、ライド情報通信社、という社名を見た瞬間、露骨に強くしかめられた。
「クローさん……?」
「……」
いち早く表情の変化に気が付いたヨルがザクロの顔を見上げるも、彼女は何も言うことなく艦橋へと昇っていってしまった。
「あ――」
「ヨル殿。1人にしてあげる事も時には必要なのでござるよ」
「そう、ですか……」
とっさに追いかけようとしたヨルの前に立ち塞がるバンジは、痛恨の極み、といった表情でかぶりを振ってそう彼女を制止した。
「ライド情報通信社……?」
その後ろで、ミヤコが記憶の端に覚えがあるその名前を口に出す。
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