ステール・リフレクションズ 3
ややあって。
「はー、大分めちゃくちゃな使い方したもんだね。こういうのはバカスカ撃つもんじゃないの」
機体下から取り外した、不調気味なメガクラスビーム砲を見たアリーシャは、その若干だが焦げ付いた回路を見て呆れた目をザクロへ向ける。
「撃てるんだから撃って何が
「クサカベ社の新型機でならね。それは焼けるまで撃ちまくりゃいいが、これが骨董品だから文句言ってんだっつの」
「そりゃKSF-6ならそうかもしれねぇが、積んでるビーム
「戦闘機で
「わざわざ
「3Dプリンターで出来るようになったんだろ?」
「金属ソースの材料費ってのを忘れた
「知ってら。まだワシゃボケてないっての」
「だったらよぉ、わざわざ金払う
「そんな事考えてるからワシ以外に整備出来ん様になっちまうんだよ。昔の流行りをいつまでも引っ張りやがって」
ザクロと軽口を言い合いながら、アリーシャは他の呼称しやすい特定のポイントを重点的に抜け目なくチェックしていく。
「あれ? でもこの間はミサイル使っていたような……」
「ほう。クロー殿がフルコースで行ったとは。よほどヨル殿が大切だと見えるでござるな」
「そうなんですか……ッ?」
2人の口やかましい勢いについて行けず、少し離れた所でひたすらガレージ内をスケッチするバンジの隣にいるヨルは、大切にされている、と言われ、頬に手を当てて喜んでいた。
ちなみにシンはというと、ラジオで野球中継を聴きながら自家用のオートジャイロをいじっていた。
「ワシがチューンナップしまくってるとはいえ、骨董品ぶん回しといて日進月歩の戦闘機相手によく死なんもんだな」
「骨董品とか言うんじゃねぇよ。それはあそこにある見てぇな20世紀の遺物に言うもんだ」
感心と呆れが半分半分の顔でそう言ってくるアリーシャに、気に食わない様子でザクロはガレージの隅に置かれた、かつての大国が開発したSAM本体を指さして言い返す。
「ところで、スケッチされてるそれって何なんですか?」
「大昔の迎撃ミサイルでござるな。ちなみに撃てば良いというものではなく、なにやら色々機材がないと撃つことすらままならないでござる」
「なるほど……」
話に聞き耳を立てていたヨルはバンジにそう訊ね、彼女からかなり詳しく返ってきた答えに興味深そうな様子を見せる。
「つか、何のために整備してんだよ。動態展示する甲斐性なんか
「んなもん、何かの役に立つかもしれんじゃないか」
「
「何かは何かだ。それより――おーいシン! フライフィッシュ砲用のエネルギー圧縮機の在庫あるか見てきておくれ!」
「へいへーい。良い所なのに……」
作業の手を止めてラジオに聴き入っていたシンは、後ろ髪を引かれつつガレージと扉で繋がっている倉庫の方へ入っていった。
ちなみにスターズ対ベアーズの試合は、ニシウラが1回0/3で早々にノックアウトされて12失点したスターズの3回裏の攻撃中だった。
「行ったァーッ! レフトポール際へこの回4本目のホームラン! スターズの反撃止まらなーいッ! 12対10ッ!」
「いやぁ、ニシウラ君がノックアウトされると何故か試合が荒れますねぇ」
「ですねぇ。あっと、ベアーズベンチ、コーチが出てきました。ルーキー・アケシマは交代の模様です」
「こうなるとリリーフは変則左腕のカコガワ君ですかねぇ」
「背番号47、カコガワがコールされました。ブルペンから走ってマウンドに上がります」
「オノデラ監督はタイミングを外そうという意図でしょうねぇ」
この回、相手の先発ルーキーもスターズ野手陣に捉まり、この回だけでアウトを1つも取れずに10失点を喫し、両軍とも二桁安打の泥仕合の様相を呈していた。
「師匠」
「なんだい?」
「パーツねぇっすよ」
「オイオイ、ちゃんと探したか?」
しばらくして手ぶらで帰ってきたシンの報告に、アリーシャは自ら倉庫を確認しにいった。
「クローさん今どうなってます?」
「ピッチャー変わって四球3つで満塁だぜ。で、もう1人出てきた所だ」
「はー、流石ニシウラ。嵐を呼ぶ男っすね」
「おう。どうなってんだろな一体」
アリーシャがいなくなったため手持ち無沙汰のザクロは、シンとラジオの前で腕を組んで野球談義を始めたところで、
「あっちゃあ、スマンねザクロ。マジでパーツ切らしてたわ」
アリーシャが頭をポリポリ掻きながら返ってきて、ザクロへそう告げた。
「は? 発注してどのくらいかかるんだよ」
「イブラヒムのオヤジに訊いたら半日だとさ。待てるか?」
「……マジかよ」
「おうよ。何でもこの辺中の工房に骨董品マシンが担ぎ込まれてるとかなんとか」
「うっそだろオイ」
その言葉と比例する渋面を見せるザクロは、それに焦燥を混じり込ませた様子で、暇つぶしに人型案内ロボットをスケッチしているヨルの方をチラリと見やる。
「カウンター鳴ってないから安心しろ。万一があっても防護システム備えてっから」
「……ならいい。ま、どうせ仕事終わりで暇だ。待つのは問題ねぇよ」
「あいよ。もう発注してあっからゆっくりしてけ」
「そりゃありがてぇ。事務所使って良いか?」
SAMの後ろのガラクタが置かれた場所の上にある、プレハブ型のロフトスペースを指さしながらザクロが訊くと、アリーシャはあっさり了承した。
「良いけどヤニは吸うなよ。外出てふかしておくれ。裏口んとこに作ってあっから」
「あいよ。そもそも吸わねぇから安心しろ」
「はっ、お前がかい? ババアをからかうもんじゃないよ」
「マジで言ってんだよ!」
冗談きついぜ、と鼻を短く鳴らずアリーシャへ、ザクロは半ギレになりながらそう言い、倉庫扉のはす向かいにある裏口を開けて言われた通り外に出て行った。
「メアとヨルちゃんも遠慮無く使って構わんぞ」
「了解でござる」
「あっ、ど、どうも……」
自身が描いた、なかなかのクオリティのスケッチをバンジに絶賛されていたヨルは、突然話を自分に振られて立ち上がったバンジに身体半分隠してお礼を言った。
「バンジさんは先に行っててください」
「うむ」
ヨルはわざわざヘルメットをかぶり直し、ザクロが歩いて行った方へと向かった。
色あせまくったプラベンチにどっかり座り、いつものロングをふかしていたザクロの隣にヨルはちょこんと腰掛ける。
「中にいときゃ良いじゃねぇか。バッテリーだってダダじゃねぇだろ」
「自分のお金はお支払いしますのでっ」
「おん? なんかバイトでもやってたのか」
「カフェテリアのお手伝いです」
「ほー、じゃあ今度やってるときに行ってやんよ」
「な、なんだかちょっと照れますね……」
紫煙を吐き出してニッと笑うザクロが、カウンターの向こうにいる光景を想像し、ヨルは頬を赤らめて表情を緩ませる。
「しっかしまあ……、地球は居心地が悪くていけねぇや」
少し間が空いて、炎天下の日向になっている目の前を横切った転がる草を目で追ったザクロは、柱に付けられている扇風機のぬるい風に扇がれながら渋い顔でポツリと言った。
「普段はだいたいちょうど良い温度と湿度ですからねっ」
「そこじゃねえ。空気感が、だ。広い意味で故郷のはずなのにな……」
「……すい――」
「ヨルは悪かねぇつったろ?」
反射的に謝ろうとしたヨルが言い切る前に、遮る様にそう言って笑みを見せるザクロだが、その中には多分に憂いが含まれている事を彼女は感じ取った。
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