五章 死り合い

 カシウスの魔力を感知した部屋の前に着き、バルト達は一度立ち止まった。


「中がどうなってるか全く分からない状況だ。入ったら判断は各自に任せる。とにかく死なないことを第一に考えてくれ」


 バルトは剣を構え直し、扉に手を掛ける。


「行くぞ……」


 勢いよく扉を開け、バルトは部屋を素早く見渡した。


 暗くて部屋の奥までは確認出来ないが、近くにはトラップのたぐいが無いことを確認し、カシウスの場所を確認する。


 すると、少し奥にカシウスと、シルバーの装飾がついた黒いスーツを来た子供らしき姿が見えた。


「あれ?何でここまで来てるの?」


 スーツの子供が不思議そうな顔をしてバルト達を見つめた。

 黒髪に白のメッシュが入った中途半端な長さの髪で、性別の区別は着かないが綺麗な顔立ちをしている。


 にわかには信じられないが、どうやらこのスーツの子供が魔王らしい。


「ん?あのダンジョンで会った奴らじゃない?カシウスが呼び出したの?」


 バルト達を興味深そうに見渡し、カシウスを見上げた。


「そうです、シトリー様。私はこの日を待ってました」


 そう言うと、カシウスはシトリーにいきなり殴りかかる。


「なんだよ、やっぱり洗脳されたふりだったじゃん。あの時もおかしいと思ったんだよ。殺そうとしてるのに、必死に止めてさ。

 めんどくさいから話合わせたけど」


 シトリーはカシウスの打撃を軽く受け止め、ダルそうに振り払った。


「その傲慢さが貴様の命取りになる!キース!やれ!」


「任せてください!ケルベロスの諸君、魔王に全力の攻撃をぶち込め!」


 そう言うと、キースは巨大な魔法陣をシトリーの足元に展開する。


「あれ?動けないや!」


 シトリーはわざとらしく驚いて、足を動かそうとする。


「安心して攻撃しろ!私の魔力を全て使い、やつの魔法、動きを完全に止めている!」


 バルト達はキースの指示で、一斉に自分達が出来る最大限の攻撃をシトリーにぶつけた。


 しかし、バルト達の攻撃は一切効いてる様子はなくシトリーはダルそうに、あくびをする。


「弱っ……防御魔法さえ使ってないんだけど?」


 シトリーがつまらなさそうに、上を見上げる。


 カシウスが凄まじいスピードでシトリー目掛けて迫っていた。


「上からの死角を狙った攻撃とか……あれだけそばにいて通用しないって分からない?」


 そう言うと、シトリーが頭上に魔方陣を展開し、カシウスを止める。


「何故だ!?魔方の制限は間違いなくかかっているはずだ」


「こんな穴だらけの魔法でよく言うよ。わざとかかってあげてんの。本当バカだよね」


 シトリーは呆れながらため息をついた。


「バカは貴様だ。私はこの時の為だけに、魔物にされても生きてきたんだ。この闘いは、最短で決めさせてもらう」


 カシウスがシトリーを睨み付け、止められた拳を開いて魔方陣を展開する。


 カシウスの手のひらには鮮やかな青い炎が揺らめいていた。


「あらら、この魔法は流石にちょっとヤバいかも……」


 シトリーが初めて真面目な顔になる。


「私の全力だ。人間を見下していた愚かさを後悔すると良い」


 カシウスは魔方陣にさらに魔力を込め、一気にシトリー目掛けて更に燃え上がった青い炎を打ち込もうとした。


「とか言ってみたり?君たちの敵は僕だけじゃないみたいだ」


 シトリーが笑顔でカシウスにウィンクする。

 次の瞬間、カシウスの体を横から飛んできた斬撃が切り裂いた。


「バカな……一体誰が……」


 カシウスは体を広範囲に切り裂かれ、地面に叩きつけられる。


「カシウス副団長!」


 キースはシトリーにかけていた拘束魔法を解き、カシウスのもとへ駆けつけた。


「うわぁ……これもう手遅れじゃない?……お陰で助かったよ!出てきたら?」


 シトリーは倒れたカシウスの傷の深さを見ながら、バルト達の後ろに手を振る。


「よぉ、クズ野郎!魔王の所まで案内してくれてありがとよ」


 暗闇からネヴィルがバルトを睨み付けながら現れた。

 ダフネ達の姿はなく、ネヴィルの姿だけだった。


「ネヴィル……何したか分かってんのか?」


 バルトが拳を握りしめ、声を震わせながらネヴィルに尋ねる。


「勇者様が倒すべき魔王を、どっかのバカが横取りしようとしたから止めただけだ。くだらねぇ質問するな、ゴミ」


 ネヴィルはわざとらしく茶化すように答える。


「ははは!本当に君たち人間は救いようがないね。醜くて見るに耐えないよ」


 シトリーは手を叩きながら笑い、バルト達に背を向け軽く左手を横に振った。


 次の瞬間、暗闇の奥で大きな衝撃音が響く。


「へぇー、避けられるんだ。今日は久しぶりに退屈しないで済みそうだね」


「流石魔王と言われるだけありますわ。気付かれるはずがないのによう気付きますなぁ」


 ダフネがナナとジースターを抱えて、暗闇から現れた。


「あれ?ダフネじゃない?こんなところで何してんの?」


 シトリーはダフネの顔を見ると、不思議そうにしている。


「あら?わっちはあんたの事を知りまへんけど?」


「やだなぁ、僕だよ僕。さんざん魔界と天界でやりあったじゃないか!まぁ、今の君には関係ないか」


 シトリーがオーバーリアクションでダフネに知り合いアピールをする。


「まさか……」


 ダフネの顔が真っ青になり、ナナとジースターをその場に落としてしまった。


「痛っ!ちょっと下ろすときは優しく下ろしてよ!ねぇ!人の話聞いてるの!?」


 ナナが尻餅をついたことに抗議していたが、ダフネの耳には届いていなかった。


「あなた…だって姿が……」


 ダフネは現実が受け入れられない様子で、震える手を必死に押さえようとする。


「あ、そっか!だから分からなかったのか!これはさぁ、召喚する人間の魔力が足りなくて半分の力しか持ってこれなくて。

 この世界のレベルなら問題ないけど、少し不便だよね」


 シトリーは自分の体を見ながら、不満そうな顔をした。


「ネヴィルはん、わっちはこの作戦から下ろさしてもらいます。皆はんも、こっからはどうやってこの悪魔から逃げ切るかだけ考えるのをおすすめします」


 ダフネが下を向いて、震えながら忠告する。


「おい!ダフネ、そんなこと許すわけがないだろ!いきなり何言ってんだ!お前にいくらかかったと思ってんだ!そのガキの前に俺がぶち殺すぞ?」


 ネヴィルが激怒しながら、ダフネに罵声を浴びせた。


「は?今僕の事ガキって言った?」


 シトリーの目が一気にすわり、ネヴィルを睨み付ける。

 空気が一瞬で変わり、全員見えない壁に押し潰されそうなプレッシャーを感じた。


「まずはお前から殺すか……」


 シトリーはネヴィルに向けて一直線で飛び出した。

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