三章 本質

「駄目だ!お前らみたいな奴らを通すわけにはいかない!」


 バルト達は騎士団本部で門番に止められていた。


「だから、キースさんを呼んでって!君は、何でそんなに人の話を聞かないんだ?」


「それはお前らだ!今日は大切な会議があるから部外者は立ち入り禁止なんだと何度説明すれば分かる!」


「だーっめんどくさい!だから入るなんて言ってないだろ!呼べって言ってるの!」


 クリスが話の通じない門番に苛立ち、殴りそうになるのを必死に我慢している。


 ちなみにバルトは問題を起こすので、キースに会うまでは一切発言を許されず、大人しくしているしかなかった。


「クリス、いくら話しても無駄よ。こういうタイプのモテない男はモテない理由を指摘されても、治せないもの」


「リリィに同感ですわ。意味の分からないこだわりを他人に押し付けそうな顔をしてます。あなた彼女はいます?」


 言われたい放題の門番は顔を真っ赤にして、腰の剣を握ったり離したりしている。


「とにかくさっさとキースさんを呼んで。いい加減にしないと本当に実力行使に出るよ?」


「騎士団に喧嘩を売るのか?だったらお前らを捕まえる口実になるから助かるな。早くやれよ」


 言われたい放題言われた恨みを晴らすチャンスがきて、門番は涼しい顔をしながらあしらう。


「あーもういいや……後で泣いても知らないからね」


「クリス!それは、さすがに不味いって!」


 クリスがキャスを呼び出すのをバルトが止めようとした瞬間、バルト達の背後に巨大な馬車が止まった。


 馬車の前方から執事らしき人物が降りてきて、馬車の中央にある大きな入り口を開ける。


 すると中から、身分がかなり高いとすぐに分かる老人が降りてきた。


 しかし雰囲気に反して、目には笑いしわが出来ている優しそうな老人だった。


「まさか、大切な会議ってそういうことでしたの!?」


 ハンナは驚き、すぐさま片方の膝を地面に着け下を向く。


 クリスやリリィも慌てて同じポーズをして下を向いた。


「皆どうした?」


 バルトは意味が分からず、その場に普通に立っていた。


「バルト、彼はアレンハイド・バーラック国王陛下様。このバーラック王国の現国王にあたるお方よ」


「………………え?」


 バルトの顔から一気に血の気が引いた。


 急いで同じポーズをとるが、後の祭りである。


 バルトは自身の学生生活を心から恨んだ。


 学生時代勉強しなくても、大人の知能を有していたことで、授業を聞かなくても困らなかった。


 それを良いことにバルトは常にサキュバス店の情報を整理したり、寝たりしていたのだ。


 国王の顔位は覚えておくべきだった……これ絶対に不敬罪ふけいざいとかに問われるよな……もう吐きそうだ……


 バルトは人生最大のピンチにゲロを吐く寸前まで追い詰められていた。


「君がバルト君か!呼びに行く手間が省けて良かったよ」


 アレンハイド国王が、笑顔でバルトの肩を叩いた。


 呼びに行く?何で俺を知ってる?それよりさっきの態度は許されたのか?


 バルトの頭の中で疑問が溢れだし、ショートしかける。


「とりあえず顔を上げて!会議まで時間もないから話は中でしようじゃないか」


 そういうとアレンハイド国王は、バルトを引き上げ騎士団本部に入るよう促した。


 とりあえず助かったみたいだ……


 バルトは一安心し、言われるがままに騎士団本部に入っていった。







 騎士団本部は洒落にならないくらい豪華な内装だった。


 真っ赤な床に高級そうな装飾は、映画に出てくる高級ホテルを思い出させる。


 国の施設なのに、こんなに豪華で文句とかでないのか?


 バルトは国王についていきながら、少し疑問を感じた。


「君たちにはちょうど聞きたい事があったんだよ。さっきダンジョン壊したよね?なんで壊したのかな?」


 歩きながら国王がバルト達に尋ねた。


「それが色々とありまして……最初に何を説明すれば良いのか……えーっと……」


 ハンナが慌てながら必死に答えようとする。


「見たままの事を話してくれれば大丈夫だよ」


 国王がハンナに優しく声をかけた。


「お気遣いありがとうございます、では何から話しましょう……」


「入ったダンジョンが難しすぎて俺が苛立ち、ダンジョンを壊してしまっただけです」


 ハンナの言葉をさえぎりバルトは嘘をついた。


 バルトは国王の事をどうも信用できなかった。


 なぜなら国の最高権力者にも関わらず優しく、物分かりが良く、寛大なんてあり得ないからだ。

 

 ここは異世界であってもおとぎ話の世界じゃない。


 人は権力を持てば傲慢ごうまんになり、人の話を聞かなくなり、許すことより罰することを優先するようになる。


 それは前世の経験だが、異世界でも人は人だ。


 人の本質は世界が変われど、そう変わるもんじゃない。


 それに、こういうニコニコしたやつが実は一番厄介だったりする。


「それは困ったね……そんな理由で上級ダンジョンを壊されたら、各ギルドに示しがつかないよ。責任はどうとるのかな?」


 国王は立ち止まると、バルトをにこやかに見つめる。


 しかし目の奥は怪しく光る氷の様な色をしていた。


「バルト君!今はさすが冗談を言ってる場合じゃないよ」


 クリスがバルトの近くに来て耳打ちをする。


「でも事実は事実ですから」


 バルトはクリスの制止を振り切り、国王の目をまっすぐ見つめ答えた。




 こいつは、俺達のさっきまでの行動を正確に把握している上にタイミング良く現れた。


 国王だろうが、なんだろうが怪しいものは怪しい。


 だったら今の状況で、唯一の切札となる可能性がある情報だけは渡すわけにはいかない。


「そうか、なら今から君達を拘束させてもらうよ。ダンジョンの理由なき破壊は大罪だ。罪は償わなければいけない」


 国王は変わらない笑顔で腰の剣を静かに抜いた。

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