スミヤキストQの冒険:これぞ物語

 倉橋由美子の「スミヤキストQの冒険」(講談社文芸文庫・電子版)を読了。

 他人には薦めにくいが、私は楽しめた。何度か声を上げて笑った。


 文章というか、場面場面を楽しむ作品なので、どこから読んでもよい。

 前半が読みづらいのだが、筋などはあってないような作品なので、粗筋を確認してから、後半を読むだけで済ませても構わないかもしれない。

 

 星新一のように、具体的な人名・地名・風俗の描写が避けられているため、1969年の作品でありながら、古臭さを感じず、いまでも楽しめる。

 1969年にこのような作品が出て、一定の評価を得、現在も読む人がいるのは、日本の小説読みたちも捨てたものではない。


 内容についてだが、この作品は私小説と呼ばれる塊から遠く離れた小説である。

 かぎりなく小説内で世界が完結し、現実社会とつながっておらず、そのうえでおもしろい。

 これこそ職業作家の書き物である。

 作者の臭いを感じない、作者の主張がないというか、いい意味で読んでもためにならない。本物の「物語」。

 こういう作品を書きたいものだ。


 おもしろかったのは、主人公の同僚の“文学者”がゆく方不えふめいになるのだが、主人公も読んでいた私も存在を忘れてしまい、主人公が思い出した時に、私も思わず声を上げてしまった。

「そういや、いたな!」


 あと、何人かの主要人物について、顛末が書かれずじまいなのに、それが不自然ではなく、うまい締め方だった。

 多くの作家は書きすぎだ。原因は読者にあるが。


 気に入ったフレーズは次のやりとり。

「しかしこれだけは断言しておきたいと思いますが、わたしは神の存在を認めません」

「つまりそういう信仰ですな」(No.766)

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