ほたり

   ほたり




ホルトの病葉わくらば――、、ほたり。


からすいさゝ狼狽うるたへて片目でこちらをちろ〳〵。

香箱かうばこてい雉猫きじねこは、到頭知らぬ風で、腕の中にあごうづめる始末。


からすは――、あゝ、その烏では無くて、烏瓜。


花が今朝までは咲いてゐたのであらう。

レエスの糸を仕舞ひ忘れてしぼんでゐる。

レエスの糸はじやの舌のさきじみてちろり。


萎んだ花は、妙に白〻と、唯に一輪のみ。


ホルトの病葉わくらば、ほたり。


何時いつ頃迄だつたか、あれ程に橄欖かんらんじみたを、そも〳〵、橄欖といふのが一體いつたい何を指すのかすら曖昧なのだが、それでも橄欖じみた實を、栗鼠りすがほんの一口齧つては落とし、一口だけ齧つては落しゝてゐた。


あの栗鼠だに久しく見えぬのである。


ホルトの病葉わくらば、ほたり。

烏は、あゝ、その烏では無くて、烏瓜。


腕に顎をうづめて目をねむつた猫は動かない。

大方おほかた一生涯いつしやうがい、そのまゝ


飲まず食はずだもの、到底動くまい。

最早もはや香箱を作るだに、遣るまじいよ。


橄欖の實を、その橄欖かんらんとやらが、何たるかの詮議せんぎ一先ひとまいておくとして、ほんの一口、高〻たか〴〵ほんの一口のみ齧つては落とすのだから、不經濟ふけいざいといへば成程なるほどそのとほり。


からすいさゝ狼狽うるたへて片目でこちらをちろ〳〵。

猫はとつくに、味眠うまいは寢ずて、ホルトの病葉わくらば、ほたり。





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