第六 缺趾

  缺趾けつし




空はおほむね分厚ぶあつい雲におほはれ

それでもベンチには薄雲を透かしたやうなの光


詩集を開いてみたものの

これでは眩過まぼしすぎて讀まれるものではない


仕方無しにぼんやりした目を地面に向けてゐると

鴿はとが一羽でひよこひよこ遣つて來た

其疋そのあし四趾ししほとんど失つてこぶのやうになつてゐる

鴿はしばらくのあひだ右顧左眄うこさべんしてゐたが

やがては其場そのばで胸を土におろうづくまつた


ぢつと此方こちらを見てゐる


其背中そのせなかを綿毛がそそけたやうに起上たちあ

其羽毛そのうもう始終しじゆうくろ南風はえが蹂躙してゐるが

其風そのかぜやが其處そこから僕迄到達ぼくまでたうたつ


手許てもとの詩集がぺらぺらめくれてゐる


鴿はとと僕とのあひだでは

風が往來わうらいするのみならず

羽蟲はむしを負つた蟻が蛇行してゐる


蟻と羽蟲との閒には

生と死との斷絶がある


斷絶が其儘一體そのままいつたいとなつて何處迄どこまでも蛇行を續けてゐる


さうして

特別な思案を要する迄も無く

其蟻そのあり其羽蟲そのはむしとの接合面にこそ

彼鴿あのはと此僕このぼくとの紐帶ちうたい纏綿てんめんしてゐるやうに思はれるのである




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