第46話

(どうやってドールットの居場所を調べようかな?)


 具体的な方法をマナは考える。


 現在、ほかの者からマナは翼族の兵士に見えている。


 ドールットに至急報告すべきことがるといえば、教えてくれるだろう。魔法で声質も変えることが可能なので、声で正体がバレることはない。


 マナは急ぎの用があるというそぶりで、近くにいた中年兵士にドールットの居場所を尋ねた。


「ドールット様の居場所? 執務室に決まっているだろ。何でそんなことも知らないんだ。新兵か? 見ない顔だな」


 どうやら怒りっぽい兵士みたいで、睨み付けられた。

 執務室の場所が分からないが、この様子ではどこにあるかと尋ねたら、さらに面倒なことになりそうだと判断し、ここは逃げることにした。


「も、申し訳ありません! 急いでおりますので!」

「あ、待て!」


 駆け足で中年兵士から逃げた。


 別の兵士に執務室の場所を訪ねてみる。

 次の兵士は親切で教えてくれた。


 パーナマイト城は五角系の城壁に囲まれており、ちょうど真ん中に城館がある。城壁の角の位置には、それぞれ高い塔が聳えていた。


 執務室は、城館の二階にあるようだ。


(よし早速行ってみよう)


 マナは教えてくれた兵士にお礼を言って、城館の二階へと向かった。



 〇


 城館には誰もが入れるわけでなく、選ばれた貴族以外入れないようだ。


 扉の前に見張りがいて、報告をする際はあの見張りに言うシステムになっちている。マナはここは再び透明になり、誰かが扉を開けて出てくるのをじっと待つことにした。


 中年の偉そうな服装をした男が、城館の中に入っていったため、タイミングを見計らい中へと侵入する。


 何とか入り込むことに成功した。


 執務室は二階にある。

 マナは階段を探して登った。


 二階に到着し、広い部屋の中から執務室を探す。


 数分探し続けて発見。

『執務室』と扉の上に書かれている。


 ここまで来て、どうやって魅了するかマナは考え始めた。

 透明なままで魅了するのは不可能だ。しかし、姿を現した状態で話をした場合、人を呼ばれる危険性がある。


 ミラージュで姿を城館にいる高位の人物に見せ、その状態で魅了をするという方法もあるが、果たしてミラージュを使った状態で魅了が出来るのかは、試してみなければ分からない。


(出来ないって事もないと思うけど……うーん。実在の人物に化けるなら、口調も真似しないといけないし……勘の良い人ならバレちゃうかもしれない。一旦透明な状態で、ドールットの情報を見てみようか)


 マナは執務室の扉が開くのを待つ。

 開くのは思ったより早かった。部下らしき翼族が、緊張した面持ちで執務室に入っていく。マナはその瞬間を逃さずに中へと入った。


 執務室は殺風景な部屋だった。棚が二つあり、そこに多くの書物が入っているが、それ以外は真ん中に机と椅子があるだけだ。


 その机には、三対六翼の中年の男が座っていた。顔に複数の傷。鋭い目つき。ごつい顔。普通の子供が見たら、泣き出しそうなほど強面の男だった。


(こいつがドールットかー。六翼あるとはかなり強そうだね)


 エマの代わりに飛王城を任せられるにふさわしい実力を、ドールットは兼ね備えているようだった。


 マナと一緒に執務室に入った部下の男は、顔を青ざめさせながら報告をした。


 作戦を失敗させた上に、部下を何人か死なせてしまったという内容だった。緊張するのも頷ける。


 ドールットはため息を吐いた後、


「貴様を出世させたのは間違いだったようだな。一兵卒からやり直せ」


 冷徹な口調で言い放った。


「ま、待ってください! 今回はミスをしましたが、ぜひ汚名返上のチャンスを……!」

「二度は言わせるな」


 必死に懇願する部下の願いをあっさりと切り捨てた。見た目通り厳しい男のようである。


 部下はドールットの表情から、何を言っても無駄であると悟り、絶望に満ちた表情で執務室をあとにした。


 そこからさらに報告をするため部下が入ってくる。


 そんな事いちいち報告する必要ないじゃないかと思うような、細かい報告だった。ドールットはすぐに答えを出して部下に命令をする。その後も矢継ぎ早に報告するための部下がやってきた。ようやく報告が来なくなったとき、ドールットはうんざりしたような表情で、


「……あの飛王が何故か地下に行かなければ、私がこんなくだらない仕事をしなくてもいいのに……クソ、何をやっているんだ飛王は……」


 独り言をつぶやき始めた。


「大体あの若造がいくら八翼だからって飛王とは狂ってる。何とか引きずりおろしてやりたいが、本人が馬鹿みたいに強い上に、信者も多い。無理だろうな……」


 その呟きから、ドールットはエマに忠誠を誓っているわけではないとマナは知った。魅了するうえでは好都合である。


「はぁ……休息をとるか……あそこに行こう」


 ドールットが立ち上がる。マナはハッと我に返り、ドールットの目を見つめて情報を見た。


 ――――こ、これは……!


 驚くべき情報が目の前に浮かび上がってきた。


 名前 ドールット・ラグラース 41歳♀

 好感度0 好きなタイプ 奔放な女性 好きな物 猫 趣味 密かに猫の世話をする

 性格 猜疑心が強い 慎重


(ね、猫好きってこの人が? とてもそうに見えなけど。むしろ小動物とか嫌いそうに見えるけど)


 間違っているのではないかとマナは思ったが、今まで間違えたことは一度もない。


 これを信じるしかないと思い、マナは猫好きの好感度を上げる方法を考える。


(猫を捕まえてきて上げるとか? いや、密かに猫の世話をするのが趣味って書いてあったから、もう自分の猫がいるんだろう。効果は薄いかも……どうしよっか)


 考えていたらドールットが執務室を出ようと扉を開けた。

 急いでマナも一緒に出て、ドールットの後をつける。


 ドールットは城館を出て、建物の裏に回る。そこには大きめの小屋があり、扉には立ち入り禁止と書かれていた。


 ドールットは鍵でその扉を開けて中に入った。


 マナも続く。


 中の光景を見てマナは思わず声を漏らしそうになった。


 十匹くらいの猫が広い小屋の中で、にゃーにゃ―鳴いていた。


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