第25話

 マナは一度牢に入れられ、どうしようかと思っていたが、いきなりいい部屋に部屋が変わって混乱する。


(もしかして、ケルンの魅了がある程度成功していたから、部屋を変えてくれたのかな……このままだとずっと閉じ込められてやばいかもしれないと思ってたけど、案外これなら向こうから会いに来るかもしれない)


 好感度200にはならなかったが、100くらいまでには上がっていたのではないかと、マナは思った。

 それならケルンはマナの事を、大好きであると思っている状態なので、リスクを覚悟で会いに来てもおかしくはない。


 思ったより何とかなるとマナは思った。


 しばらくして食事が運び込まれる。


 凄い腕を持った料理人が、腕によりをかけて作ったと思われる、料理の数々が運び込まれた。

 料理人の腕だけでなく、料理に使われている素材も、高級なものであるだろう。


「美味しい!」


 料理を食べて、マナはその味に驚いた。

 前世、今世と生きてきて、一番と言っていいほど、美味しい料理だったからだ。


 すぐに出された料理を食べ終わり、食後のデザートが運ばれて来る。


 フルーツや生クリームが乗っているタルトケーキや、ハチミツが乗っているふわふわのパンケーキなど、菓子作りの職人たちが腕によりをかけて作り上げたデザートであった。


 元々甘いものが好物であるマナは、デザートが運ばれてきて目を輝かせながら食べる。


 出された食事にマナは大満足した。


 お腹が膨れたので、ベッドに横になる。

 ベッドはふわふわで、シーツも上質なものが使われていた。


 眠くなって気持ちよく眠ろうしたとき、マナはハッとした。


(ま、まさか……これは策略!?)


 自分のスキルの効果で好待遇になっていると思ったが、それは思い違いなのではとマナは思う。


 とにかく待遇を良くして、懐柔する気なのだと勘づいた。


(間違いない……あのデザートは明らかに力が入っていたし、どうにかしてアタシが甘い物好きだって調べ上げたんだ……ケルン……恐ろしい奴……)


 マナは、ケルンが相当な策士であると思った。


(相手の策が分かったからには、もうその手には乗らない……デザートが運ばれても食べないようにしなくては)


 そうマナは決意するも、


「一品運び忘れておりました」


 とメイドがプリンを運んできた。


 物凄く美味しそうな甘い匂いのするプリンである。


(こ、これで最後……)


 マナはそう自分に言い聞かせて、プリンを食べる。


「お、おいひぃ……」


 とろけるような触感と、極上の甘さ。

 満腹状態ではあったが、食べるのは全く止まらず、一心不乱にプリンを口の中に運び続ける。


 三十秒ほどで完食した。


「も、もうないの?」

「今日の分はこれで最後です。あとは明日のお楽しみです」


 メイドは微笑みながらそう言って、部屋を出ていった。


(……あ、明日もこの料理が……だ、駄目だ食べたら……でもあと一食くらいならいいかも)


 デザートのおいしさに、マナの意思は早速揺らいでいた。





 ケルンと家臣たちは、料理を運んだメイドから、料理を食べたマナがどんな様子だったのか報告を受けていた。


「そんなに喜んでいたのか……我々に懐かせていう事を聞かせる方が脅すより効果的かもしれないな」


 サイマスがそう呟いた。

 彼以外の部下たちも、


「しっかりしてるように見えたが、まだ幼い子だし、確かに懐かせた方がいいかも」

「そもそも人間とは言え、可愛い子を脅すのは気が引けるからな……」


 結果的に待遇を良くするというのは、悪くなかったかもと思い始めた。


「そ、そうじゃろ? わ、わしの作戦通りである!」

「「「絶対嘘ですよね」」」


 ケルンの言葉に、部下たちは総ツッコミを入れた。


「ところでシャーファよ。大事なことを聞かねばならん」


 急にケルンは真剣な表情になった。

 シャーファとはメイドの名だ。記憶力の良いケルンは、城で働く者の名前を大方覚えている。


 真剣な表情で尋ねられたので、シャーファは緊張する。


「な、何でしょう?」

「姫は何を食べて喜んでおったか?」

「え、えーと、デザートがお好きのようでしたよ」

「や、やはりそうか。子供は甘い物が好きじゃからな。菓子作りの職人を急遽呼び寄せた買いがあったわい」


 マナがデザートを食べて喜んでいると知り、ケルンはかなり上機嫌になる。

 その様子を見て、部下たちは呆れていた。


「よし、わしも姫の様子を見たい。早速見に行こう」

「だ、駄目です! 従わされてしまいます!」

「それだけは何卒おやめください!」

「む、むう」


 ケルンは城主としての自分の役目を思い、寸でのところで思いなおす。


「じゃ、じゃあ、代わりにあれを使うのじゃ。魔写具を使え」


 それを聞き、家臣たちはざわめいた。


 魔写具とは、人間の魔法使いが開発した道具で、現実の風景を色付きで紙に写すことが出来る。

 珍しい品で、かなりの金を払って手に入れた品だ。


「魔写具を使い、姫の姿を写して、わしに見せるのじゃ」

「い、いけません! 魔写具は使用回数に限度がございます! もっと有意義なことに使用するべきです!」

「姫の姿を写して事が有意義でないと申すか! 絶対に撮ってくるのじゃ!」


 またも家臣たちは総出で、ケルンを説得したが、彼女の意思は揺らぐことなく、結局シャーファが魔写具の使い方を覚え、マナの姿を撮ってくることになった。

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