第20話

 一週間後。


 ハピーが一人でファマートに出向き、衣装を取りに行った。


「マナ様! 無事衣装を貰ってまいりました!」


 ハピーがハイテンションで、マナの部屋に入ってきた。


 部屋で寝ていたマナは、若干不機嫌な表情で起きる。


「なに~?」

「衣装ですよ衣装! パーティー用の衣装を持ってまいりました」

「あ、そう」


 普通の女の子なら、目を輝かせて喜びところであるが、衣装にあまり興味のないマナは、素っ気ない反応である。


「さ、さあ、お着替えになってください。私がお手伝いいたしますので……」

「出ていけ」


 鼻息を荒くして服を脱がしにかかるハピーを一蹴した。

 命令には聞かざるを得ないので、衣装を置いた後、残念そうにハピーは部屋を後にする。


 あまり興味はないが、貰ったので一応マナは衣装を確認する。


「わぁ、綺麗」


 色とりどりの花の刺繍があしらわれた、美しいドレスだった。

 一週間という期間で作ったのが信じられないほど、花の刺繍は細やかに出来ている。


 このドレスを見た瞬間、着てみたいとマナは思い、アタシにも女の子っぽい感情があったのだと、少し驚いた。


「でも一人では着られないし、パーティー当日まで我慢しよう」


 マナはそう決めて、ドレスをタンスにしまい、パーティーの開催日を待った。





 パーティー当日。


 バルスト城には、貴族たちが続々と集まってきていた。

 全員がジェードランと親交のある貴族ではないが、この国有数の実力者とコネを作る機会を逃すまいと、招待された多くの貴族が参加を決めていた。


 ジェードランは来客の対応をしており、マナ、カフス、ハピーは別室で待機していた。


「ところでどうやってケルンと話せばいいのかな? アタシってあんまり人前に出ちゃ駄目なんじゃないの?」

「マナ様の存在を知っているのは、一部の上級貴族だけですので、問題はないかと。ケルン様と話す方法は、ジェードラン様と策を考えてあるので問題はありません。ただそのさい、あまり目立つと支障をきたす恐れがございますので、そこまでは別室で待機してくれるようお願いします」


 マナの質問に、カフスが答えた。

 目立つつもりなど元からないので、そこは何の問題もなかった。

 問題は策が上手くいくかだが、ジェードランもカフスも有能なので、信頼することにした。


「分かった。言う通りにする」

「ま、待ってください。それではマナ様のドレス姿を大勢の人に見てもらうという、私の野望はどうなるのですか!?」

「知らんわ!」


 元々ケルンの初対面の印象を少しでも上げるため、衣装を作ってもらおうとおもったのである。色んな人に見られるなどごめんであった。


「ところで策って、どんなんなの?」

「ジェードラン様が、ケルンと二人で話がしたいと言いおびき寄せます。実際にジェードラン様はお二人で話して、そのあと何か理由を付けて少し席を外します。その間にマナ様が迷い込んだフリをして、ケルンのいる部屋に行けば二人きりで存分に話をすることが出来るでしょう」


 二人きりで話せるというのは、ありがたいことであった。

 周囲に人がいると、邪魔される可能性がある。


「でも、ジェードランの誘いに乗るのかな?」

「それは百パーセントとは言えませんが、関係を強化したいと思ってケルンはパーティーに参加したのでしょうから、乗ってくる可能性は高いと思います」


 百パーセント上手くいく作戦など立てられないし、それでいいと思った。


 問題は自分がケルンを魅了できるか否かである。

 前情報はほとんどないが、果たして大丈夫だろうか。

 飛王の時のように???と表示されたりしないだろうか。

 仮にした場合、本当に何も分からないまま魅了せざるを得ないが、それは可能なのだろうか?

 色々不安要素があるので、心細くなってくる。


(成功させないと、情報も手に入らないかもしれないし……絶対に成功させないとね)


 マナは気合を入れなおした。


 そのあと、マナはドレスに着替える。

 バルスト城にはメイドが結構いるので、手伝って貰いドレスを身に着けた。

 ちなみに真っ先に手伝うと手を上げたのはハピーであったが、速攻で却下した。


 鏡を見て姿を確認する。

 中々良いのではと自分では思った。

 花柄のカラフルなドレスは大人の女性が着ると、少し子供っぽいと思われるかもしれないが、幼女のマナには似合っていた。


 マナは着替えを手伝って貰ったメイドたちに、お礼を言った後、部屋から退出させた。


 誰もいなくなったのを見て、鏡の前でポーズをとってみたりする。


「結構可愛いかもアタシ……」


 そんな自画自賛な呟きを思わず漏らした。


「あ、愛らしすぎます、マナ様ぁ……この光景は子々孫々まで語り継がなくてはぁ……」


 扉の方から声が聞こえてきた。慌てて声の正体を確かめる。

 半分だけ部屋の扉を開けて、ハピーがマナを覗いていた。


「な、何してんのアンタ?」

「え……あ、いや、その……マナ様、お美しいです……」

「褒めたからって誤魔化せると思うな。の、覗いてたの? さっきの」

「え、ええ……鏡の前で愛らしいポーズをお取りになって……昇天するかと思いました」


 完全に見られていたと知り、マナは羞恥に顔を赤く染め上げる。


「本当に昇天させてやる!」


 近くに会った椅子をハピーに向かって投げようとすると、


「マナ様、いいですか?」


 カフスの声が聞こえたので、投げるのを寸前でやめる。


「あ、お着替えになられたのですね。似合っていますよ」


 真っすぐな瞳でカフスは褒めてきたので、マナは若干照れる。


「あ、ありがとう。それで、どうしたの?」

「ジェードラン様が、ケルンと二人きりで話をするのに成功しました。二人が話をしている部屋まで、ご案内いたします」


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