第13話

 マナは脱衣所で服を着て、執務室に向かう。


(まず最初にジェードランに神殿についての情報を聞こう)


 風呂の中でハピーの発言からたまたま思い出した、どこかの神殿に行かないといけないという記憶。

 現時点では唯一、自分が転生した目的にたどり着けるための手がかりであるので、早急に聞きに行った。


「ところでアンタはつい来なくていいよ」


 マナは後ろを振り向き、付いてきているハピーにそう言った。


「そういうわけにはまいりません」

「私はマナ様の下僕です。常におそばにいてマナ様の御身をお守りしなくてはなりません」

「城の中で危険はないよ。しいて言えばアンタの存在は少し危険だ」

「わ、私が危険!? そ、そんなことありませんよ」


 動揺するハピーを、何かする気だったのかとマナはジト目で見つめる。


(まあ、どうせ命令は聞いてくれるだろうし。さっき神殿の事を思い出すきっかけを作ってくれたから、付いてくるくらいはいいかな)


 マナはそう考えて、ハピーに付いてくるなと命令するのはやめた。


 執務室の扉の前に到着すると、


「なに! それは本当か!?」


 ジェードランの叫び声が、マナの耳まで届いた。

 相当衝撃的な出来事あったのか、ジェードランの驚き用は尋常ではない。


「何があったのでしょうか?」

「かなり驚いてるみたいだね。入ってよう」


 マナは扉を開けて、執務室に入った。


「どうしたの」

「マナフォース姫! それとハピー!」

「どうしてここに」


 執務室にはカフスとジェードランがいた。二人はマナとハピーは風呂だと思っていたので、いきなり来て驚いている。


「アタシの事はマナって呼んで」

「は、はい」


 呼び方が気になったので、最初にお願いをした後、事情を尋ねる


「それで、何があったの?」

「少々面倒なことが……実は飛王がバルスト城まで来られるらしいのです」


 マナの質問にカフスが答えた。


「飛王って……この国の王様の事だよね。何で来るの?」

「マナ様に会いたいそうです」

「アタシに? 何で?」

「元々マナ様が五歳になったら会う予定だったようです。何をするかは不明です」


(五歳になったら会う予定だった? なぜだろうか? そもそもアタシは何で連れ去られたのかな?)


 まだジェードランに自分が連れ去られた理由を、尋ねていなかったことにマナは気付く。


「アタシって何で誘拐されて閉じ込められてたの? てか、攫ったのってジェードランじゃないの?」

「俺は誘拐自体には関わっていない。指示したのは奴だ。俺は引き渡されて、バルスト城に閉じこめておいたにすぎん」

「へー……でも、飛王も城は持ってるんでしょ? 何でここに入れられたの? どうも逃がしたり、死なせたくはなかったみたいだけど、それなら手元に置いておいた方が安全じゃない?」

「飛王の奴は度が過ぎた人間嫌いらしい。しばらく監禁する必要があるが、自分の城に置いておくのと、下手したら我慢できず殺してしまうかもしれないから、別の城に置いておいたらしい」

「そ、そうなんだ……え? 人間嫌い?」


 それって会って大丈夫なのかとマナは思う。

 話を聞く限り、問答無用で危害を加えられる可能性もある。


「お前が飛王と会っても殺しはしないかもしれないが、痛い目に遭わされてもおかしくはない。ただ逃がしたり会わせないと言ったら、俺の命が危ないだろう」

「飛王に戦って勝てないの?」

「現時点で戦っても勝ち目はない」


 自信家のジェードランが断言するくらいなので、本当に覆しようのない差が現時点で付いているのだろうと、マナは察した。

 マナを危険にさらすか、自分たちが飛王に殺されるか。


 魅了されていたジェードラン、カフス、ハピーの心は決まっていた。


「マナ様はお逃げください。人間嫌いの飛王に会ったら何をされるか分かりません」

「本来は再び牢に閉じ込めるところだが、逃がすべきだと思ってしまっている……困ったことだ」

「俺はマナ様を助けるためなら、命は惜しみません。ただジェードラン様も一緒には……逃げるならだれかお供が必要ですので、ジェードラン様が……」

「それは駄目だ。俺が残らないなら時間稼ぎも出来ん」

「しかし」


 逃がす方向で話が続いているのを、マナは一度止める。


「待って。アタシは逃げないよ。飛王と会う」

「し、しかしそれは」

「どうせアタシを殺すことは出来ないでしょ。なら問題ない。多少痛めつけられてもなれてるから」


 戦で怪我を負ったことは決して少なくない。

 痛みや恐怖に対する耐性は、間違いなく高いほうであった。


 この場で、ジェードラン、カフス、ハピーを犠牲にするつもりは全くなかった。そこまでマナは薄情な人間ではない。


(それに飛王に会って、魅了が出来れば、神殿を探しやすくなるからね。アミシオム王国を実質支配下におけるってことだから)


 マナはにやりと笑みを浮かべる。

 そういう打算的な考えもあった。

 人間嫌いなので魅了は出来ないかもしれないが、確実に無理ということもないだろう。


「とにかくアタシは飛王に会うから」


 語気を強めて言うマナに、三人は反論出来なかった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る