第34話 幼馴染vs幼馴染
中指、薬指、親指を三つの指をボールに空いた穴に第一関節ほどの深さまでそれぞれ入れ、胸の手前まで持っていく。
そして親指で抑えたそのボールを携えながら歩き出し、下向きで後ろに振りかぶるとそれを前に向かって放り投げた。
投げられたボールは床を滑走し、吸い込まれるように三角形に並べられた十本のピンを全て薙ぎ倒した。
「ストライク!」
「レイ凄い」
見事ストライクを決めた零聖に背後の一姫と愛舞が手を叩いた。
美少女二人から歓声を浴びる。はたから見ればうらやまけしからん光景である――二人の間から飛び散る火花さえなければ。
もう言うまでもないが三人はボウリングに興じていた。
では、何故ボウリングなのかと言うとそれは各々の政治的思惑が絡んだ結果であった。
一姫と愛舞が一緒になってからと言うもの二人はお互いがお互いを零聖から引き剥がそうと躍起になっており、振り回される零聖自身はめっっっちゃしんどかった。
これでは埒があかない。そう思った零聖は三人一緒に楽しめるようにボウリングをすることを提案した。ボウリングなら施設内にスポッチャがあったのと遊んでる最中は移動をすることがないため、先程のようなダルい駆け引きが起こらないと踏んだからだ。
しかし……
「あ〜っ!やっちゃった〜……」
「……よし」
ガーターをしてしまった一姫を見た愛舞がガッツポーズを取る。ちなみにガッツポーズをしていない方の腕は零聖の腕に絡められている。
そして、それに気付いた一姫が愛舞を睨む。
そんな二人に零聖は溜息をついた。
零聖を引き剥がそうとするのはやめた一姫と愛舞だがお互いに対抗心を持つのはやめず、ラウンドツーとばかりにボウリングで対決を始めたのだ。零聖とのデート権を賭けて。
「くっ……一本倒しきれなかった」
「よっしゃ!」
悔しげに顔を顰める愛舞に一姫が意趣返しのようにガッツポーズを決めた。
ちなみに折り返しである五フレームの現時点で戦況は五分五分と言った感じで二人の実力は拮抗していた。今のところどちらが勝ってもおかしくない。
一方の零聖は……
「……よしっ!」
「わっ!またストライク……」
何故か他の二人よりも異様に上手かった。実力は素人から毛が生えた程度であるが、どう見ても初心者の腕前ではない。少なくともある程度の経験者ではないと曲がるボールは投げれないだろう。
「零聖くん、ボウリング結構やるの?」
「まあな、と言ってもただの付き添いだけど」
「付き添い?」
その言葉に一姫が首を傾げる。
「知り合いにボウリング好きな奴がいてな。よく付き合わされるんだよ。その内に多少上手くなった」
(知り合い?尼崎くんとか雲母さんのことかな?)
そんなことを考えた一姫だが、愛舞は何も言わずにその様子をじっと見つめていた。
◇
「……負けた」
全てのフレーム――つまり十フレームが終わり、一姫は床に倒れ伏していた。
「……ギリギリだけどわたしの勝ち」
勝者である愛舞は立ったまま敗北者である一姫を見下ろしてただ事実を述べるように呟いた。
結果は九十八対百二で愛舞の言う通り僅差だった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」
たかがボウリングに負けただけで人間はここまで意気消沈出来るものなのか。
魂が抜けたような呻きをあげる一姫を零聖と愛舞は哀れむような目で見ていた。
「レイ、次行こ」
「あ、ああ……」
容赦なく敗者への刑を執行する愛舞。
零聖は凹んでいる一姫に後ろ髪を引かれるも、やがて愛舞に引っ張られその場から去っていく。
遠ざかってゆく二人を追う気力は今の一姫にはなかった。
◇
「はぁ〜……」
溜息を吐いた一姫は施設内にある現在ゲームセンターをぶらぶらしていた。
あの場に留まっていてもしょうがない。ならばせめて一人でも時間を潰せる所に行こうと思ったが故の選択だった。
零聖と愛舞の後を尾けることも出来たが、見ているだけでは退屈な上、悔しさが込み上げてくるのでやめた。
「……だーっ、暗くなってちゃダメだ!……よっし!今度は負けないよう練習しとくぞー!」
そう自分に言い聞かせると次あるか分からない愛舞との再戦へ密かに意欲を燃やす。
気分を入れ替え、クレーンゲームコーナーを徘徊していると一際輝いている見える台を発見した。
「おお……!」
それは最近、一姫がハマっているアニメのキャラクターフィギュアだった。
一姫にフィギュアを集める趣味はないが何故かこういうクレーンゲームにあるのを見ると無性に欲しくなるのだ。
零聖が帰ってきた時に一緒に遊んでもらうのもいいかもしれない。そんなことをふと思った。
まだ帰ってこないのかな、ソワソワとその帰りを待っていた一姫。そこへ何者かに肩を掴まれる。
零聖が来たんだと思い笑みを浮かべ振り返った一姫だったが、そこにいたのは見覚えのないガラの悪そうな金髪の男だった。
「やっぱり可愛い子じゃん。ねえ君、俺と遊ばない?」
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