第3話 再会
「ねえ、朱雀さん趣味は何!?」
「前は何処に住んでたの!?」
「彼氏とかっている!?」
朝礼の時間が終わると同時に一姫に生徒が殺到し、質問攻めにする。
「ええっと……」
ガドリングの如く浴びせられる質問の弾丸に一姫はたじろいだ様子を見せるも一つ一つ答えていく。
尚、幼馴染宣言をされた零聖は我関せずと言った様子でスマホをいじっていた。
「じゃあ、小さい頃の鳳城ってどんなんだったの?幼馴染だったんだろ?」
しかし、嵐のその質問によって周囲の視線が零聖にも向けられることになる。
(余計なことを……)
零聖は恨めしい視線を向けるも嵐はなぜか誇らしげに親指を突き立てて誇らしげに笑っている。
(う め る ぞ)
「れーくんは素直で優しくてとても良い子でしたよ」
何故か一姫もそれに生き生きと答える。大体誰目線なんだよそのコメント。
「だって、れーくん」
「記憶にございません。あとれーくん言うな。埋めるぞ」
国会の答弁のような返答とともに殺気を飛ばすも嵐には相変わらず効いた様子がない。
「てか何で鳳城は何でこんな可愛い幼馴染のことを覚えてないんだよ〜。うらやまけしからん!」
「変な嫉妬はやめてくれ。そもそも十年以上前のそれも幼稚園での二年間しか付き合いのなかった知り合いなんて大体忘れるもんだろ。それに朱雀さんの勘違いっていう可能性も……」
「絶対勘違いじゃない!」
断言する一姫。
「れーくんが住んでた大体の住所も覚えるし、顔も面影あるし、名前もそれっぽいもん!」
「全部うろ覚えじゃねえか」
ガバガバな記憶に零聖は突っ込みを入れるがそれでもその自信が揺らぐことはない。
一応根拠はあるため"根拠のない自信"ではないがそれ自体がとても脆く感じるのは自分だけなのだろうか。
「あ、そう言えば……」
一姫は何か思い出したかのように呟くと一瞬、目を逸らした。
「れーくんってどうして引っ越したの?わたしの記憶じゃお別れの挨拶も出来ないまま突然、いなくなっちゃった覚えがあるんだけど」
再度向き直り尋ねる。
ずっと気になってたのだ。
零聖はあの日、忽然といなくなった。
理由を聞いてもお父さんとお母さんは言葉を濁すだけで何も教えてくれないし、また会いに来てくれるかもしれないと思ってたら自分もその後すぐに引っ越してしまったため、それを知る術はなくなり、もう一生会えないと思っていた。
だが、今日転校してきて奇跡の再会を果たすことが出来た。
向こうは自分のことを覚えてないらしいが関係ない。これから少しずつ思い出して貰えばいいのだ。
そのための第一歩の質問だったのだが……
「…………」
零聖は黙り込んでしまった。まるで全ての感情が削ぎ落とされたかのような空虚な顔で。
「えっと……れーくん?」
零聖は普段からあまり感情表現が豊かな方ではない。しかし、それを知っている者から見てもこの様子はおかしかった。
開かれた左目には色が灯っておらずその奥にはどこまでも虚無が広がっている。
何か不味いことでも聞いてしまったのだろうか?
尋ねようにもその異常な雰囲気き飲み込まれ一姫はおろか周りを囲んでいるクラスメイト達も声をかけれなかった。
「おい、鳳城?」
しかし、そんな雰囲気の中、嵐は動いた。零聖の名前を呼ぶとその体を軽く揺さぶる。
それに零聖はピクリと体を反応させると顔を向けて「ああ……」と声出した。
「悪い……ぼーっとしてた……」
明らかにそんな単純な様子には見えなかったが
あの顔を見てしまったせいか誰もそれを問いただす気にはなれなかった。
「それで、何で転校したんだっけ……か?家庭の所用だよ。お前に話さなかったのは単純にそんな余裕もないくらい忙殺されてただけだろ」
「所用?所用って……」
「……ちょっとトイレ」
そう言うと零聖はこれでこの話は終わりだとばかりに席を立った。
「お〜い、オマエは朱雀さんに何も聞かなくていいのかよ〜?」
「大丈夫」
嵐の問いかけにも零聖は軽く右手を上げただけでそれ以上、何も答えることなくそのまま教室から出て行った。
「どうしたんだろう……れーくん?」
幼馴染の背中を見送った一姫は訝しむように呟いた。
「う〜〜ん……アイツ自分のことあんま話したがらないから分かんないよな。ただ……何か最近、悩んでるような気がすんだよな」
「え、それってどういう……」
「いや、なんでもない!」
最後の呟きが気にかかったが、嵐ははぐらかすように言うと一姫に顔を向けた。
「気難しいヤツではあるかもしんないけど、良いヤツだからさ。朱雀さんが良ければ仲良くしてやってほしいな」
「……はい!勿論です!」
一姫は真っ直ぐな嘘偽りない目で力強く頷いた。
「自分で言っといてなんだが……リア充爆発しろ」
「え?」
「なんでもない。ところで……朱雀さん!もう一つ聞きたいことがあるんだけど……ズバリ!好きな男のタイプは!」
「ええっ!?」
嵐の質問に男性陣から黄色い歓声が飛び交う。
再開された質問会に一姫はタジタジになりながら一時間目の授業が始まるまで付き合わされたのだった。
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