悪役令嬢は執事と婚約破棄の朝に巻き戻ります
黒月白華
第1話 ループ50回の限界
「君との婚約を破棄す…」
と言いかけた金髪碧眼の完璧王子アロルド・エリアス・エッケルバリ様…。この国の王太子である方に私は言い切る前に告げた。
「聞き飽きた!!!」
ホーキンス魔術学園の卒業パーティーの場である。王子はビクッとして
「は!?」
と聞き返した。皆の視線が痛い。
ヒソヒソと
「何かしら?喧嘩?」
「王子に無礼だわ。いくら婚約者と言えど!」
「まぁ、あんなにブロムダール伯爵令嬢をいじめ抜けばね?」
「可愛らしいブロムダール伯爵令嬢とアロルド様の方が見ていて微笑ましいものね」
と口々に言う。
「煩い!煩い外野!!」
と私は叫ぶ。この茶番劇をさっさと終わらせたい。どうせこの後断罪されても……悪夢は終わらない!!
「人が話しているのに何だその態度は?アンネット・ベーダ・モーテンソン侯爵令嬢!やはりお前は我が婚約者に相応しくない!
それにカルロッタ・イングリット・ブロムダール伯爵令嬢を在学中直接手は下さず他の者を通して影で操り虐めていたな!証拠は上がっている!
お前のような者はこの国の未来の王妃には相応しくない!君とは婚約は…」
「こっちだってさっさとしてほしいんだけど!?何なのかなぁ!もう!」
と苛々と言うと王子の友達の宰相の息子アルフ・トシュテン・ゴットフリッド・リンドマンが口を出してくる。
「何なんだ!?アンネット様は!?どこかおかしくないか?医者を呼んだ方が?」
と言うとその場の者はクスクスと笑い出す。
私は包帯を巻き怯えているカルロッタ伯爵令嬢と寄り添って肩を抱いてこちらを睨んでいる婚約者の王子を睨みつけ言った。
「私は貴方と婚約破棄します!!これでよろしいですね!?そして罰があるんでしょう!?貴方はこれからそちらのカルロッタ様を婚約者とし私は国外追放か修道院送りか娼館送りかもしくは牢獄で一生過ごすかでしょう??」
とその先を言い当てられた王子は流石に青くなる。
「何故…私の考えていることを!?まさか…そんな魔法を習得しているのか!?」
「してるわけねえーーーつの!!いいか!よく聴け!!どうせどうにもできないからもう言ってやるわ!!」
と私は王子に不敬にも指を刺した。銀髪カールを振り乱し魔物みたいな形相でね!
「お、お嬢様!?一体どうしたのですか?いつもと様子が違います!?」
とビクビクと私の執事であるヨニー・フレードリク・フェルセンが止めにきた。頭がおかしくなったのかと思われているだろう。
私もそう思いたい。
「皆様…私…この光景を何度も何度も繰り返しておりますの!もう王子に婚約破棄されるのはこれで50回目ですわ!!」
と叫んだ。
皆一瞬にしてシーンとなった。
50回も繰り返して婚約破棄の言葉と皆からの非難の視線に耐えてきた。
「私のことを頭がおかしくなったと捉えていた抱いても結構!カルロッタ様!改めて本当にごめんなさい!!今までの事謝罪しますわ!でもどんなに願っても時はこの日にしか戻りませんの!!
もし戻れたなら絶対に王子と貴方を邪魔したりなんかしないのにっ!!私の醜い嫉妬心がなければね!!後悔しかありませんわ!きっと神様に貰った罰がこれなのです!永遠に私はこの婚約破棄の日に戻されるのです!」
とくずおれて泣いた。
「お、お嬢様!!」
とヨニーが駆け寄った。ヨニーにも八つ当たりとか結構してきたのにこいついい奴だわ。
「何だその茶番は!!もういい!君とは婚約破棄し、国外追放とする!顔も見たくない!」
と告げられ王子とカルロッタ様はその場を後にし、他の者はクスクスと笑い
「惨めな方」
「明日から平民ですわ!」
と去る。残された私とヨニー。
ヨニーは小さい頃からうちにやってきた男爵家の三男だ。家が火事になり行き場を失った。彼の両親と兄2人は焼け死んだらしい。
当然家は潰れた。仲の良かったフェルセン男爵の生き残りの息子を雇い私付きの従者にしたのだ。
ヨニーは普通の茶髪に緑の瞳をしている。
「お嬢様…一度医者に…」
と心配された。
「………まぁ…もういいのよヨニー。卒業式も婚約破棄も終わったし私は全くの平民だわ。構わないで。この後どうなろうと次の朝にはまた同じことが起きるだけなの。51回目の断罪が始まるわ。もう飽きたわ」
と私は廃人寸前だ。
その様子にただならぬ何かを察してヨニーは言った。
「ほ、本当に巻き戻っているなら…これは…お嬢様にかけられた魔術か呪いの類だと思われます!!」
「私もそれは思ったけど…調べる時間もないのよ。明日の朝までどんなに頑張っても犯人を捕まえることも不可能。判らないしね!」
と言う。
「そんな…」
「ヨニー…今まで八つ当たりしてごめんね。もう50回も婚約破棄され、私カルロッタ様にも貴方にも…きっと他の人達にも不快なことをさせたわ……今こうしてるのも…明日になると忘れる。皆今日に戻ってすっかりまた同じ事を繰り返すの。
私が国外追放されようが娼館に送られようが、死のうが…私の意識が無くなったら…目が開いたら朝で…今日になってるの…」
と言う。
「それを誰かに説明したのは今日が初めてなのですか!?」
「いいえ。最初の3日目で説明はしたわ。誰かが私を呪ってると」
「説明したのに何故…あ…時間が足りなかったから!?」
「そうよ。解明するには時間が足りないの!私これからもずっと永遠に王子に婚約破棄され続けるの。もう50回も耐えたけど流石にシンドイ。廃人になるかもしれない」
と弱々しく言った。
ヨニーがブルブル震えた。
「私のこと憎かったら殴りつけていいよ?殺しても…。貴方にも酷いことしたし。どの道殴っても明日の朝になれば傷も消えてる。何もかも今日に戻る。私以外誰もそのことを覚えていない」
と私は力なく言う。
しかしヨニーは
「いいえ!!僕は覚えます!3日目の僕は間に合わなかったらしい……。それか臆病風に吹かれて行動できなかった?」
「3日目の貴方は私を心配して医者をまず手配してくれたのよ。優しいわね。その後お父様にビンタされ勘当されたけど」
「そんな…………お嬢様!僕魔女の所へ行ってきます!!お嬢様にかけられた呪いの解明は1日じゃ…いや、これから数時間じゃ難しいかもしれませんが…他の方法を模索してきます!!もし時間が足りず巻き戻ったら明日の朝イチで巻き戻ったことを僕に伝えてください!お願いします!昨日の?僕からの伝言だと!!行動しろと!」
とヨニーは捲し立てた。
「ヨニー…なら私も行くわよ。魔女のとこに。家に戻ってもお父様にビンタされ追放されるだけよ…でも何故そこまでしてくれるの?」
ヨニーは言い淀んだが意を決したように向き直り頬を紅潮させ言った。
「こ、こんな…僕ですけど…お、お嬢様を…アンネット様をおおおお慕い申しております!!」
と言った!
おどおどして小動物みたいに赤くなるヨニー。
「何で?私きっと酷いことをしたのに…」
「は、はい、僕が…手際が悪くてカルロッタ様の下着を盗めなかった日は鞭でビシバシと…僕が悪いのです」
そういえば何やってんのこのグズ!とバシバシ打った。後が残らないようにの力加減だけど。その後薬を投げておいたりしたけど。
「いやいや、普通恨むとこだから!!」
「でも…その後薬とかちゃんとくれましたし!本当は優しい方なのかと…僕は恋と言うか憧れに近かったのです。アンネット様はこんなにお綺麗な上、王子の婚約者です!僕なんてとても……
と、こんな事を話している時間はありません!魔女の所に行きましょう!!」
と私はヨニーに手を引かれてドレスのまま馬車に乗り込んだ。
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