女四人寄れば……
「ここだよー!ここのデザートが凄く美味しいの!」
指輪のサイズ調整が終わるまで、俺達は近くにあるいうアスナおすすめのカフェで時間を潰す事にした。
「いらっしゃいませー。二名様ですねー、お好きな席へどうぞー」
「どこに座る?」
「テラス席に行こうよ!風が気持ちよくて最高なの!」
「そうだな。人もいないし、ゆっくりするにはちょうどいいな」
俺達は店内を出て、外にあるテラス席に座った。
確かに風が心地良く、爽やかな気分になる。
「さあ、何食べようかなー。キケル……いやララキケルにしようかな……」
アスナはメニューを真剣な眼差しで見ている。
ちなみに俺もメニューを見てみたが、何一つ読めなかった。
異世界にきたら自動的に翻訳してくれるもんじゃないのかよ。
言葉が通じるだけありがたいけどさ……本当に不便で仕方ない。
はぁ……情けないけど、今度アスナに教えてもらうか……。
「よし、決めた!今日はいっぱい動いたから、ララキケルの三段重ねにする!カズトさんは決まった?」
「メニューが読めない……」
「あ……ごめんなさい……私が代わりに注文しようか?どんなのがいい?」
「謝らなくていいよ。そうだな、甘くない軽食と甘くない飲み物を頼んでくれるかな」
「甘くない物だね。飲み物は温かいのと冷たいの、どっちがいい?」
「うーん。じゃあ温かいので」
「了解!おねーさーん、注文お願いしまーす!」
「はーい。お待たせしましたー、ご注文どうぞー」
「えっと、ララキケルの三段重ねにレーグル、サイノーレとマッカの温かいのをお願いします」
「ララキケルの三段重ね、レーグル、サイノーレ、マッカのホットですね。ご注文お受けしましたー。少々お待ち下さいねー」
「ふふ、ふふふ」
店員が店内に入って行くと、突然アスナが笑い出した。
「どうした?急に笑って」
「私ね、こうして好きな人とデートするのが夢だったの。それが叶ったって思うとついね」
好きな人とデートか……俺もそんな甘酸っぱい青春を謳歌したかった。
糞爺のせいで叶わなかったがな。
「……それ、俺も分かるよ。俺も人生初デートだからな。しかも初デートの相手がアスナだろ?今凄く幸せだよ」
「ふふふ、私も凄く幸せ。結婚した時、お母さん達もこんな気持ちだったのかな?」
「傍目から見てもアマーリエさんとアーロンは仲が良いからな。たぶん幸せだったと思うし、今も幸せなんじゃないかな」
「そうだね、今も幸せそうだもんね。私もずっと幸せでいられるかな?」
「ははは、それは大丈夫だ。俺の一生を捧げて、アスナを幸せにするからな」
そう。
俺の残りの人生はアスナの為にある。
この先何があってもアスナを必ず守り、絶対に幸せにする。
「ふふふ、私もカズトさんを幸せにするからね。この先ずっと、一生一緒に生きていこうね」
「ああ、約束する」
「お待たせしましたー。ララキケルの三段重ねとレーグル、サイノーレと温かいマッカになりまーす。ごゆっくりどうぞー」
「きたきたー!私、ララキケル大好きなんだよねー!こっちがカズトさんのサイノーレだよ!この店の人気料理だから、きっとカズトさんも気にいると思うよ!」
これがララキケルとサイノーレか。
ララキケルはパンケーキ、レーグルはクリームソーダ、サイノーレはたまごサンド、マッカはブラックコーヒーだった。
この世界にもコーヒーがあるのか。
俺、コーヒー大好きなのよね。
マッカ、覚えておこう。
しかし、アスナは凄いな。
あんなに甘そうなパンケーキを三段重ねにして、その上クリームソーダまで……。
俺には絶対に無理な組み合わせだ。
甘い物が苦手ではないが、俺があの量を食べたら絶対に胸やけを起こす。
「じゃあ、いただきまーす!」
「いただきます」
「美味しいー!やっぱりここのララキケルは最高ー!何枚でもいけちゃうよー!おかわりしちゃおうかなー」
「…………」
目の前でどんどん減っていくパンケーキを見て、俺はただただ絶句するしかなかった。
これだけ食べてまだ食べるの?
こっちは見てるだけで胸やけ起こしそうだよ……。
「あれ、アスナ?」
「ん?あ、ケイトじゃん。こんな所でどうしたの?」
アスナと雑談しながら食事していると、アスナと同じくらいの年頃の少女が話しかけてきた。
ケイトと呼ばれたその少女は、高価そうな服を身につけ、悪役令嬢のような金髪縦ロールの髪型をしている。
まさか人生で本物の縦ロールを見ることになるなんて思ってもみなかった。
名家の令嬢なのだろうか?
「ユヤ達と買い物に来てるの。アスナは何をしているの?」
「私はギルドに試験を受けに来たのよ」
「ギルドの試験って……アスナ、専業剣士になるの?」
「ふふふ、なるじゃなくて、もうなったよ」
「え⁉︎本当に⁉︎冗談じゃなくて⁉︎」
「本当だよ。一番下の灰ランクからだけどね」
「それでも凄いよ……うちの婚約者なんか何回受けても合格出来ないんだから」
この娘も婚約者がいるのか。
この世界、やっぱりそういうのが早いな。
「まあ、私の場合は師匠がいいからね」
「師匠?アーロンさんの事?」
「違うよ、お父さんなんて足元にも及ばない人だよ」
「アーロンさんより強い人ってアスナの村に居たっけ?」
「それが居るんだなー」
「鼻高々だねー、アスナ。やっほー、カズト。元気にしてる?」
アスナが俺の事を話そうとした時、ケイトの背後からユヤが現れた。
「やあ、ユヤ。そっちも元気そうだな」
「あははは、それだけが取り柄だからねー」
「はぁはぁ……ユヤさん、いきなり走り出さないでください……」
ユヤと話していると息を切らせながら少女が走ってきた。
白いワンピースに目元を隠した紫色のセミロングの髪。
元の世界なら図書委員でもしてそうな娘だ。
「ごめんごめん、アスナとカズトを見つけたからつい」
「カズト?こちらの男性のこと?」
え?
この娘、今まで俺を認識してなかったの?
ちょっとショックなんだけ……。
「あー、隣村のケイトは知らないか。最近うちの村に来た激強の剣士で、アスナの彼氏」
「あー、昨日の剣士さんでしたね。昨日は美味しいお肉、ありがとうございました。それで、アスナさんの彼氏というのは……」
「ああ、ニーナは知らないんだっけ。カズトがアスナに勝ったんだよ。だから彼氏、将来の旦那だね」
「ちょっと待って⁉︎アスナに勝った⁉︎専業剣士になった実力のアスナ相手に⁉︎」
「ユヤ、一つ訂正。私とカズトさんはもう夫婦だよ。今指輪のサイズ調整してもらってるところ。あとケイトにも訂正。カズトさんも専業剣士になったよ。しかも銀ランク」
「ぎ、銀ランク……」
俺が銀ランクだと知ると、ケイトは絶句してしまった。
「へぇー、よく村長が許したね。じゃあ、その高そうな髪飾りもカズトからのプレゼントかな」
「ふふふ、いいでしょう。カズトさんが選んでくれたんだよ」
「良いセンスしてるねー。これは指輪も素敵な逸品なんだろうね。あたいもヨセフにおねだりしようかなー」
「……はっ⁉︎驚きすぎて、挨拶が遅れました。私、隣村の村長の娘でケイトと申します。よろしくお願いします」
正気に戻ったケイトが自己紹介してくれた。
隣村の村長の娘なのか。
だから良い服を着ているんだな。
「あ、私、ニーナといいます……よろしくお願いします……」
紫髪の娘はニーナと名乗った。
「ニーナの家はね、鍛冶屋なんだよ。カズトさんも武器で何か困り事があったら相談するといいよ」
「鍛冶屋といっても小さな店ですが……ご贔屓にしてもらえると嬉しいです……」
へえ、鍛冶屋なのか。
今度立ち寄ってみるか。
「ケイトさんとニーナさんだね。俺はカズト、アスナの夫だ。仲良くしてくれると嬉しいな」
「それで、三人は何を買いに来たの?」
「あたい達は服を買いにねー。でもいいのが無かったから、今からヴィルレルさんのお店へ行くところ」
「そうなんだ。私達もヴィルレルさんのお店で指輪を買ったから一緒に行こうかな」
「それはいいけどさ、まだ二時間経ってないだろ。三人とも急いでないなら、俺が奢るからさ、一緒に時間潰ししないか?アスナ、いいだろう?」
「そうだね、カズトさんと二人きりもいいけど、これからは気ままに会えなくなるから三人とお茶するのもいいかな。あなた達はどうする?」
気ままに会えなくなる?
どういう意味だ?
「あたいはいいよー。ケイトとニーナは?」
「私もお邪魔じゃなければご一緒したいです。馴れ初めとか聞きたいから」
「ご迷惑じゃないなら私も……」
「よし、決定。中に入っておいでよ。で、好きな物注文しな」
………………
…………
……
長い。
しかも会話に入る隙がない。
女三人寄れば姦しいとは言うけど、四人になると更にパワーアップするようだ。
しかも、アスナが俺の自慢話ばかりするから小っ恥ずかしい。
それを真剣に聞いてる三人も凄い。
同じ話を繰り返しているのによく飽きないな。
いや、ユヤだけ飽きてチーズケーキらしき物を何皿も食べている。
さすがマイペースなユヤだ。
さて……そろそろ二時間経ったと思うんだが、非常に声をかけづらい。
どうしたものか……。
「ねぇ、そろそろ二時間経ったんじゃない?」
お、ユヤが踏み込んでくれた。
「そうだね、結構話し込んじゃったからもういい時間かも」
「貴重な話を聞いていたら時間の事をすっかり忘れていたわ」
「うん、夢中になっちゃった……」
「さ、ヴィルレルさんのお店へ行くよー!」
俺は会計を済ませ、アスナ達とともにヴィルレルの店に戻った。
「いらっしゃいませ。カズト様、アスナ様、指輪の調整が出来てますので、一度試着していただきたいのですがよろしいでしょうか?」
店に入ると、ヴィルレルが俺達を待ち構えていた。
「ああ、わかった」
「楽しみだなー!」
「では、どうぞこちらへ」
「ねえ、アスナ。あたい達もついて行っていい?」
「私はいいけど、カズトさんは?」
「別にいいよ。隠す物でもないしな」
「こちらが調整した指輪になります」
「わあ……凄く綺麗……」
「ええ……ため息が出るような美しさね……」
「こんな綺麗な指輪、見たことない……」
俺達の指輪を見て、三人は感嘆の声をあげた。
指輪をはめてみると若干の遊びがあるが、かといって簡単には抜けないいい調整だった。
「うん、いい感じだ。特に問題はない」
「私のも問題ないよ」
「後日何かしらの不具合が出ましたら、再度調整いたしますのでご来店よろしくお願いします」
「ああ、わかった。では支払いをしよう」
「はい。髪飾りの代金はいただいておりますので、指輪の代金、百万ドルクをお願いします」
「「「ひゃ⁉︎」」」
百万ドルクという言葉に三人は固まってしまった。
「百万ドルクだ。確かめてくれ」
「……はい、確かに。ありがとうございました。これからもご贔屓に」
「ああ、また寄らせてもらうよ。その時はよろしくな」
「はい。またのご来店、お待ちしております」
「じゃあ、アスナ。そろそろギルドに行くよ」
「うん、わかった。三人とも、またね」
アスナはまだ固まったままの三人に手を振り、俺と一緒に店を出た。
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