妖刀の能力


「ここまで来れば大丈夫かな」


 森の中を進み、俺は開けた場所に辿り着いた。


「黒百合、黒薔薇、出て来てくれ」


 二振りの妖刀を抜き、刀に語りかけた。


『お呼びでしょうか、主様』


『……何か用……?』


 刀はそれぞれ光に包まれ、光が消えると、そこには二人の女性が立っていた。


「君達の能力を試したくて呼んだんだ」


『そうですか。では、私と黒薔薇、どちらからお試しになりますか?』


「そうだな……じゃあ、黒百合、君から試させもらおうかな。確か、色々な武器になれるんだっけ」


『はい、その通りです。私を握り締め、使いたい形状を念じていただければ、念じた形状に変化します」


「形状変化に制限とかあるのか?」


『弓や銃のような武器は不可能ですが、それ以外の武器なら問題ないです』


 なるほど。遠距離武器は駄目なのね。まあ、弓も銃も剣ではないからな。


『実際にやってもらえればわかると思います。どうぞ、私を握ってください』


 そう言うと、黒百合は刀に戻った。


 さて、何にしようかな?そうだな、とりあえず、無難に槍にするか。


 俺は黒百合を握り締め、槍をイメージする。


 すると、黒百合が淡く光り、漆黒の槍に姿を変えた。


 おお、凄い。イメージした通りの槍だ。でも、重さが刀の時と変わってないような気がする。何でだろう?まあ、色々と試していけばわかるだろう。


 ………

 ……

 …


 あれから色々と試した結果、以下の事がわかった。


 変化した武器がどんなに巨大でも、元の黒百合の重さ以上にはならない。


 イメージする武器は、ガントレットや鎖鎌、果てはゲームの武器のような特殊な物でも可。


 うん、普通に強い。間合いを自由に変えられるのが凄い。人間が相手でも、間合いを操作して戦いを有利になるだろう。


『私の能力はいかがでしょうか』


 黒百合が再び人の姿になる。


「ああ、思ってたより自由度が高くて驚いた」


『お役に立てそうでよかったです』


「そういえば、君達って刃毀れするのか?」


 アイアンボアとの戦いでは斬鉄を使ったけど、刃毀れしないなら次からは必要ないからな。


『刃毀れはします。しかし、一定量の血を浴びれば元に戻ります』


 なるほど、刃毀れするなら斬鉄は必須だな。しかし、血を浴びれば元に戻るか……なかなかスプラッターな能力だな。


「じゃあ、次は黒薔薇の能力を試させもらおうか」


『……わかった……』


「君の能力はどうやって使うんだ?」


『……黒百合と同じ……私を握って、刀身に纏わせたい属性を念じて……』


 黒薔薇はそう言って、元の刀に戻った。


 纏わせたい属性か……やっぱり、炎とか雷かな。ゲームでも基本だしな。


 俺は黒薔薇を握り締め、炎が刀身に絡みつく姿をイメージした。


 すると、黒い刀身が瞬く間に炎に包まれた。


 次に、雷をイメージをすると、刀身が雷を纏った。


 おお、魔法剣みたいでカッコいい。いや、本物の魔法剣か。これって、複数の属性を纏わせられるのかな?


 そう思い立った俺は、炎と雷を同時に纏うイメージをした。


 すると、刀身が凄まじい炎と激しい雷を纏った。


 これ、単体で纏わせるより、複合で纏わせたほうが強いんじゃないか?今度ゆっくりと研究してみよう。


 よし、次は斬撃を飛ばす能力を試そうか。


 ………


 ……しまった。能力の使い方を聞いてない。


『飛斬撃も他の能力と同じですよ。刀を振った時に、その斬撃の刃が遠くに飛ぶように念じるだけです。それだけではなく、属性を付与することもできますよ』


 俺の思考を読んだのか、黒百合が能力の解説をしてくれた。


 なるほど、イメージするだけでいいのね。基本的に彼女達の能力はイメージの力が大切なようだ。つまり、彼女達を生かすも殺すも俺のイメージ次第か。まあ、とりあえず今は斬撃を飛ばす能力を試そう。


 剣を上段に構え、斬撃が飛ぶイメージをしながら振り下ろす。


 弧を描いた剣閃は飛ぶ斬撃となり、遥か先にある木を斬り倒した。


 ……この能力ヤバくない?かなり遠くにある木を真っ二つだよ?しかも、これに属性を纏わせられるんだよな。どれだけ威力が上がるんだろう?まあ、とりあえず試してみるか。


 さてさて、どんな属性を纏わせようか。炎や雷は森林火災になりかねないから論外だし……燃えなくて強力な属性……あ、風。ゲームとかアニメで飛ぶ斬撃といえば風のイメージだ。風なら火事にならないし、ちょうどいい。


 黒薔薇に風を纏わせるイメージをすると、刀身が旋風に包まれた。


 そして、正眼に構えたその刃を思い切り薙ぎ払った。


 すると、先程より巨大な斬撃が放たれ、前方にある木を十数本倒して消えた。


 ……うん、凄い。ゲームより凄い。でも、これだけ威力があっても、今は使い道がないな。やっぱり剣士ギルドに入って、魔獣狩りをしたい。そうすれば、この子達を活かせると思うし。とりあえず、アーロンに相談してみるか。


『……どう?……私、役に立つ?……』


 少女の姿に戻った黒薔薇が俺を見つめてくる。


「ああ、凄い能力だった。役に立つよ」


 俺は黒薔薇の頭に手を乗せ、優しく撫でてやった。


『……えへへ……嬉しい……』


 感情表現が苦手そうな黒薔薇が、目を細めて笑った。


「よし。日も沈んできたし、今日はここまでにしよう。二人とも、色々とありがとう。改めてよろしくな」


『どうぞよしなに』


『……よろしく……』


 刀に戻った彼女達を鞘に納めて、俺は村へ向かって歩き出した。

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