黒百合と黒薔薇


「カズト、ここがお前の部屋だ。好きに使ってくれ」


 アーロンに案内されたのは、一人で使うにはそこそこ広い部屋だった。


「ありがとう。有り難く使わせてもらうよ」


「眠いから俺はもう寝る。お前も早く寝ろよ。明日は狩りに出るんだからな」


「分かってる。俺もすぐに寝るよ。おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 俺達は言葉を交わし、お互いの部屋に入った。


「ふぅ……今日は色々あったな……しかし、俺はどうしてこの世界に来たんだ?この刀が関係してるのは間違いないと思うんだけど」


 ベッドに座り、俺は刀を鞘から抜く。


『その問いには私がお答えしましょう』


「誰だ⁉︎」


 俺が声をあげると、持っていた刀が宙に浮き、やがて女性の姿へと変化した。


『お初にお目にかかります、主様。私は黒百合。どうぞお見知りおきを』


 黒い髪に黒い着物の女性は黒百合と名乗った。


『ほら、貴女もご挨拶なさい』


 黒百合がそう言うと、もう一振りの刀も宙に舞い少女に変化した。


『黒薔薇……よろしく……主……』


『御無礼をお許し下さい。この娘、人見知りなんです』


「……………」


『どうされました?』


「……………」


『あの……』


「ちょっと待って……情報量が多すぎて処理できてない……処理できるまでまって……」


 刀がいきなり美人のお姉さんと美少女に変わったんだが?何で?夢?それとも幻覚か?とても現実とは思えないが-……頬をつねってみるか。


 痛⁉︎


 痛いって事は現実か……。何がどうなってんだ?


「えっと、とりあえずこれは現実で、君達は刀という事で間違いないか?」


『はい。間違いないです』


「じゃあ、俺がこの世界に来たのは君達の仕業か?」


『はい。その通りです』


「理由は?」


『少し長くなりますがよろしいでしょうか?』


「ああ、大丈夫だ」


『私達は元々こちらの世界で造られた魔剣、主人様の世界では妖刀と言われる剣です。しかし、今から五百年前、事故で主様の世界に転移してしまいました』


 五百年前って戦国時代くらいかな?


『その頃貴方の世界は戦乱の世で私達も数多の戦に参戦し、屍の山を築きました』


『しかし、戦乱の世は終わり、私達は役目を終えました。それから長い時間をあの様な形で封印されてきました。故郷であるこの世界に帰りたい。しかし、それは叶わぬ夢。そう思考し続けた日々……そんな時、主様が現れました』


『残った力を振り絞り、主様の血をいただき、この世界へと戻ってくる事ができました。ご主人様を巻き込んでしまった事、お詫び申し上げます』


「何で俺の血が必要だったんだ?」


『貴方の血は私達に適合した血でした。私達は適合した血を浴びる事で界を渡る物。主様の世界に渡って五百年。私達に適合した者は主様だけでした』


 まさにラノベの王道ストーリーだ。まさか俺にオタクの夢みたいな展開が訪れるなんて今でも信じられない。


「質問なんだが、俺は元の世界に帰れるのか?」


『申し訳ありません。主様を元の世界に帰すと私達も共に再び主様の世界に行ってしまうのです。……しかし、主様が望まれるのなら……』


「ああ、気にしないで。確認しただけだから。最初から帰る気ないから」


 爺には悪いけど、俺にとって夢にまで見た異世界に来れたんだ。今更帰るなんて選択肢はな無いよ。


『そう言っていただけると幸いです。あの、お願いがあるのですが』


「何?」


『私達を使っていただけませんか?」


「君達を?」


『はい、必ずお役に立ちますので』


「役に立つって何か出来るの?」


『主様が望むのなら、私は槍でも大鎌にでも姿を変えましょう。そしてこの娘は』


『……主が望むなら、炎や雷を身に纏い、斬撃を飛ばす事もできる……』


『なのでお願いです。私達を使って下さい。剣として生まれた以上、使われなければ死んだも同然。必ずお役に立ちます』


『……うん、絶対に役に立つ……』


 うーん。悪い子達じゃないみたいだし、使うのは問題ないんだけど……その前に確認したい事がある。


「一つ聞いていいか?」


『はい。答えられる事なら何でも聞いて下さい』


「君達魔剣があるなら、当然魔法もあるんだよな?使い方は分かるか?」


 やっぱり異世界といえば魔法!早く使いたくてウズウズする。


『この世界には魔法はありません』


 はえ?


「えっと、聞こえなかった。もう一度言ってもらえるかな?」


『この世界に魔法はありません』


 はああああああああああ⁉︎


 思わず絶叫しそうなの口を押さえて耐えた。


 ……落ち着け……とりあえず詳しく話を聞こう。


「……魔法がないのなら、君達魔剣はどうやって造られたんだ?」


『私達は遥か昔この地に現れた異世界人達に造られました』


「その異世界人達は魔法が使えたのか」


『はい。彼らは私達を含めて数多の魔剣を産み出しました』


「何で異世界人達は君達魔剣を造ったんだ?」


『彼らが路頭に迷っていたところを救った国、そして国王に深く感謝し、魔法無きこの世界に魔剣を残す事にしたのです』


「なるほど。だから君達みたいな魔剣を所持していると、魔法のような力を使えるのか」


『はい。先程も話しましたが、私なら形態変化、黒薔薇なら属性付与と飛斬撃を使えます』


「魔法がないのはショックだけど、君らがいればそれでいいか。これからよろしくな。黒百合、黒薔薇」


『ええ。よろしくお願い致します、主様』


『……よろしく、主……』


 自分がこの世界に来た理由は分かった。刀もとりあえず使っても問題ないみたいだ。……どうやら元いた世界には帰れないみたいだし、この世界の住人として生きていこう。そんな事を考えながら、俺は眠りについた。

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