サウィンの夜

 十月三十一日。その日はとても大切なサウィンの日。

 魔女にとっては大晦日とお正月にあたります。


 彼岸と此岸の境界があわくなって、先祖の霊が帰ってくる季節。

 火を焚いて霊たちを迎える大晦日は、魔女にとって大切な日です。


 この日はこの世のものではないお客さんが大勢やってくるので、ヴィオラも大忙しです。このときばかりは気味悪がって、普通のお客さんは来ないのが常でした。


 ヴィオラは幽霊のお客さんを、魔女の伝統的なお菓子でお出迎えです。はちみつやナッツ、レーズンを使ったお菓子や、オート麦のケーキを焼きます。旬のカボチャを使ったケーキやスープも、季節の看板メニューです。


 幽霊のお客さんが、人のいないお店の中でヴィオラに尋ねます。

「スミレの魔女さん。ぼくたちは助かるけれど、こんなところでお店なんて出して大丈夫? 君たちが人間にされてきたこと忘れたのかい?」

「……大丈夫。忘れることなんてないわ。それに、来るのは優しい人たちばかりよ」


「気をつけてね、魔女さん。人は手のひらを返すのがうまいから。少しでも自分たちに危害があるかもしれないと思われたら、今にきっと殺されてしまうよ。他の魔女たちのようにね!」

 幽霊たちが、一斉にゲラゲラ笑いました。


 ヴィオラは何も言えず、スカートの裾を握りしめることしかできませんでした。

 ヴィオラは殺されかけて、逃げて、逃げて、ようやく平穏な暮らしを手に入れることができたのです。

 人に悪意を向けられること、殺されそうになること。

 ヴィオラはその怖さをよく知っていました。それでも、人の中で暮らすことを選んだのです。


 ヴィオラはそう自分に言い聞かせて、お店の飾りつけを作り始めました。

 お料理に使ったカボチャは皮を残して、目と鼻の形にくりぬいて火を灯し、お店の前に飾ります。


 古いしきたりも新しいしきたりも、あわせてその日を祝うのがヴィオラの楽しみ方です。古きよきを貴ぶことも大切ですが、新しいことを受け入れないのでは「今」と距離を置くことになってしまいます。


 ヴィオラは、今の時代を生きる魔女なのです。

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