書店戦争
「じゃあお兄ちゃん、行きましょうか!」
「ちょ! 私もいるからね?」
騒がしいままに俺たちは電車に乗って郊外の大型書店に行く事になった。残念ながら書店の減少で徒歩圏内には品揃えの言い書店は無い、時代の流れだな……
「お兄ちゃん、マジで本屋さんに行くんですね……」
「普通商業施設の本屋に行って残り時間で見て回るのかと思ったわ、文字通り本屋のみなのね……」
「お兄ちゃんらしい発想じゃないですか」
チクチク言葉が俺に容赦なく刺さるのですが……もうちょっとオブラートに包むと言うことを二人とも実行してくれないかなあ……
話を言葉通りに受けとると痛い目を見る、覚えておこう。
電車が駅について町中に出る。やっぱり大きいな……
目の前に大型書店がある、地元の小さな書店とはかなり違う品揃えだろう。残念ながら地元でオライリーやマイナーなラノベは揃っていないので通販かこういう所にくる必要がある。
実際暇だったし、来ようとは思っていたところなので渡りに船と俺もショッピングの行き先はここにしたのだが、二人からは不満が漏れていた。
「ま、まあ……買物が終わったらちょっと待ちをぶらぶらするくらいならアリかもな」
「そうです! お兄ちゃんは私ともっと雰囲気のあるデートをする必要があるんですよ!」
「そうね! コレばっかりは睡ちゃんに賛成だわ」
こういうときばかり乗っかってくる重に呆れながら俺はようやく書店の中に入ることが出来た。
さて……とりあえずオライリーの新刊でも見るか……
多少値段が高いことでおなじみな技術書コーナーを覗く、ずらっと並んでいる様は圧巻だ。先にラノベに行くとこちらに買いたいものがあった時に予算が尽きているという悲劇がある。先に値段の高いものから選んでいくのが俺の主義だ。
ああ? あの言語の本第2版出てたんだな……相変わらず値段が高い……
めぼしいものは……特に無いな、お値段の高い本には欲しいものもあるが手が出せない値札になっている。俺がその場を後にしようとすると睡が話しかけてきた。
「お兄ちゃん、その本欲しいんじゃないんですか?」
よく分かっていらっしゃる、さすが妹。
「ああ、でも財布の中身が少なくってな」
「買ってあげましょうか?」
微笑みを湛えて俺に提案してくる睡だが瞳の奥になにか欲望そのもののどす黒いものを感じた。
「いや、やめとくよ。妹に買ってもらう兄とか格好がつかないからな」
「むぅ……」
睡は少し不満げではあったが一応それで納得したようで引き下がってくれた。
「私が買ってあげてもいいわよ? 今は少し財布に余裕があってね」
重がそう言うので、俺は無言でほんの裏側の値段表示を見せた。
「なっ……」
値段の高さにドン引きしたのかすっかり黙ってしまった。そうだよな、いくら厚いからってこの値段は予想外だよな……
「重も無理しなくていいから、俺はラノベを見に行くから二人も欲しい本探してくれば?」
「では私もライトノベルを買いに行きましょうか」
「私もたまには文字ばっかりの本も探してみようかな」
どうやら二人ともついてくるらしい。購入するラノベで性癖が分かるから出来ればやめて欲しいところだが……『自分の意志で』買いたいならそれを止めることは出来ない。
俺はライトノベルのコーナーに行って物色をする。さっきの専門書に比べて値段が安いのでコスパが高い、金欠気味な人には優しい商品だろう。
「お兄ちゃん! これどうです! 面白そうですよ!」
なになに……『最強ヒロインの妹とブラコンの兄』…………願望丸出しのタイトルだなあ……
「お前なあ……もうちょっと俺の好みについて考えないのか?」
「お兄ちゃんの好みは妹モノじゃないんですか?」
「ナチュラルに人の性癖を歪めないでくれるかなあ!」
「誠、これはどう?」
重が持っているのは『幼馴染みを助けるためにした100のこと』…………
「自分で買ったらどうだ?」
「誠が買うことに意味があるんだけど?」
こいつらに任せておくとどうしようもないな。
と言うかなにを買っても角が立ちそうなんだが……あっ!
俺は一つの閃きとともに大判書籍のコーナーに向かった。そこには異世界転生・転移ものがたくさん並んでいた。
ふっふっふ……異世界転移なら妹も幼馴染みも出てこない! 完璧な戦略だ!
俺はいくつか見繕ってレジに持っていく、なんだか背後から冷たい視線が飛んできていたような気がするが俺は必死に無視をした。
なお、後ろに並んでいた睡と重はさっき俺に提案した本をそれぞれ買っていた。はじめから自分で買えばいいじゃないか……
「さて、本も買ったし後は二人の希望に付き合うけど?」
「よっし! じゃあとりあえず近所のスイーツでも探しましょうか!」
「睡ちゃんにしてはまともな提案ね」
「重もそれでいいのか?」
重は肩をすくめて言った。
「ま、誠の懐具合からすればそんなとこじゃない?」
勝手に人の資金を探られていたようだ。確かにアパレルなんていったらさっきの本よりよっぽど高いものをねだられるからな、それは確かに困る。
「じゃあアイスから行きましょうか!」
「「おー!」」
そうして甘味処をめぐることになったのだが、さっきまでの書店で頭を使いながら本を読んでいたので甘いものはとても脳に優しい。ぼんやりしていた頭がアイスの冷たさでスッキリする。
それからいくつかをめぐったのだが、幸いトラブルになることもなく終わってくれた。
「睡、あんまり食べると太るぞ?」
「失敬な! お兄ちゃんと一緒じゃないとこんなに食べませんよ!」
「朝食のコーヒーに砂糖三ついれてるやつが言っても説得力がないんだよなあ……」
「まったくもう……お兄ちゃんの意地悪……」
睡がしょぼんとしてしまった、ちょっと言い過ぎたかな?
「まあ……その……なんだ、別に睡がどんな体型して用と構わんのだが」
「ま、まあお兄ちゃんの好みの範疇の体型は維持しますよ」
顔を赤くして言う睡とそれを眺める俺を呆れながら重が見ていた。
「あなたたちねえ……ちなみに私が太ったらどうする?」
「別にどうも」
「お兄ちゃんの正妻は私なのでその他の人がどうなろうと知ったことじゃないですね」
「二人とも……温かいようで冷たいわね!?」
別にコイツの体型云々で付き合いを変えるつもりはないというだけの話なんだが? 一体何故そんなことを言われなきゃならないんだ?
「はぁ……ま、いいわ。そろそろ良い時間だし帰りましょうか」
「そうですね」
そうして電車に乗って疲れる一日は終わって帰宅したのだった。
――妹の部屋
「ぐふふふふ……お兄ちゃんは私の姿など気にしないと言ってくれました!」
これはもう愛の告白と言っても良いのでは!? そう考えるとちょっと無理してでもお兄ちゃんの買おうとしてた本買ってあげるべきでしたね……
あそこで貸しを作っておけばもうちょっと進展があったかもしれないというのに……しくじりましたね……
まあいいです……なにしろゴールデンウィークは『まだまだ』休みが続くのですから……フフフ
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