お兄ちゃんの側には私がいるからそれでいいよね? 正ヒロインになりたい妹の努力と執念の日々!
スカイレイク
一学期
兄妹、高校に入る
「おにーちゃん! 寝坊ですよ!」
妹の
「お兄ちゃん! 何時まで寝てるんですか!」
バタンとドアを押し開けて俺の部屋に入ってくるの妹は俺が着替え中だというのに意に介さない、どことなく顔が赤いのは気のせいだろう。
「落ち着け、まだ七時だろう、六時に起きたんだからこのくらいのんびりしてもいいだろう?」
すると睡は大声で言う。
「その時計遅れてますよ! iPhoneの時計見てください!」
なんだよまったく、時計が遅れている? 昨日iPhoneの時計に合わせて設定したんだからズレてても数分だろう……
『7:50』
「ぶふぉあ!?」
俺は驚きに目をむく。
「お兄ちゃん! 驚いてる場合じゃないですよ! 早く着替えてください! 身だしなみも整えますからそこに立って!」
俺は妹に髪をとかされネクタイを締められ、身だしなみを整えての登校となった。
「くっそ! なんでよりにもよってこんな日に時間がずれるんだよ……」
俺が愚痴りながら小走りに玄関に向かう、時間が無いので朝食は抜きだ。
「ククク……計画通り……」
「何か言ったか?」
「イイエナンニモ」
どこかおかしい気がするがもうちょっとテクノロジーを信用するべきだったのだろう。アナログのクォーツに頼ったのがマズかった、素直にNTPと時刻同期しているスマホを目覚ましに使うべきだった。
タッタッタ
高校への初めての道を小走りに駆けていると見知った顔が見えた。幼馴染みの
俺
「おはよ、
「おはよう、話しながら走りましょう、初日遅刻は嫌でしょう?」
「まったくだな」
「チッ」
「睡ちゃん、今何か聞こえたような気がするんだけど……」
「キノセイデス」
「そ、そう。まあいいけど、急ぐね?」
「はーい」
そんなやりとりをしながら俺たちは小走りで高校に向かう、初日だというのにこんなに余裕がないとは……
「……かく……ずらしたのに……」
後ろで何やらつぶやきが聞こえた。後ろにいるのは睡のはずだが……
「何か言ったか?」
「いいえなんでもないですよ! せっかくの初登校だから二人きりが良いなーとかまったくもって思ってませんから!」
「そ、そうか……」
「睡ちゃんは本音が漏れすぎよ……」
「分かってるならお先に行ってくれてよかったんですよ?」
「私の事情だって知ってるくせに……」
「お兄ちゃんが鈍感だとお互い難儀しますね……」
「そうね……」
何故か俺がジト目で二人に睨まれた。俺が何をしたって言うんだよ!
ヤケクソになりながら通学路をダッシュする、角を曲がると校門が見えてきた。そこで二人が足を速めて突っ込む、腕時計によると現在8時28分、校門が閉まるのは八時半だ、あと2分! 間に合え!
全力でダッシュして校門を通過した途端に校舎からチャイムが鳴り響いてきた。ガチャンと後ろでため息をつきながらいかつい顔の教師らしき人が校門を閉めた。シッシッと俺たちに早く行けと促す。
「いやー、ギリギリセーフでしたねお兄ちゃん!」
「笑い事かよ……初日でこれってかなりマズいだろう……」
「セーフセーフ、間に合ったんだからいいでしょ! ほら! 講堂へ行くよ!」
息が上がっている俺の手を重は引っ張ろうとする、その差し伸べられた手を握ると温かな体温が感じられて……
「あれ? 俺は誰の手を握って……?」
手の先を握っていたのは睡だった。
「お兄ちゃんは私を頼ってくれたんじゃないですか?」
後ろの重を覗くと何故か赤くなった手をひらひらさせながら『チッ』と苦虫をかみつぶしたような顔をしながら俺たちを眺めていた。
重の黒髪はどこか憂いを帯びながら風に揺れている。睡の深い蒼の髪との微妙なコントラストがとても綺麗だった。
重は肩まで伸ばしたボブカットでなんとなくコイツは人気者になるのだろうなあと考えていると手がくいくいと引っ張られる。
「お兄ちゃん! どこを見てるんですか?」
妹の睡のロングの髪に隠れた奥に見え隠れする黒い瞳からどこか恨みがましい視線を感じた。
俺はさっさと行動へと足を向ける。
「行くか」
「じゃあ一緒に行きましょうね!」
「あ、ちょ……」
睡に手を思い切り引っ張られて俺は大きく見える講堂へと足を進めるのだった。
なお、講堂での入学者への挨拶とやらはとても退屈な地獄と天国では同じ食事が出ていて……のような内容だった、好調に人気らしい話なので詳しく知りたければスマホでググって欲しい。
問題はそんな些細なことではない、講堂に新入生が大量に集まっている中へ俺の腕に抱きつきながら睡が飛び込んだので一斉に注目を浴びてしまった。そりゃあ注目されるよなあ……隣を颯爽と重が歩いていったのでそちらにも注目が集まっていた。
二人とも可愛いので注目を浴びるのだろう、それについて文句をつける気はないのだが……どうにもその二人のオマケになっている俺からすれば非常に居心地の悪い思いがする。
じろっと二人への憧れか好意の視線とは別に俺には好奇の視線が集中する。そうだよねえ! 俺なんかが美人二人と一緒に入ったらそうなるよねえ! チクショウ!
そんな視線を浴びながら睡を腕からはがして女子の列に並ばせる、なんでこういうときに限ってアイツはやたら握力が強いんだ……
渋々といった感じでやっと離れたので俺は男子の列に並ぶ、視線こそ感じるものの一応校長の挨拶の途中と言うことで話しかけてくるやつはさすがにいなかった。何故か俺はその時『嵐の前の静けさ』という言葉が脳内に鳴り響いているのだった。
そうして退屈な校長の話が終わったので俺はクラス表の前に歩いて行った。この時はまだギリギリ『可愛い女の子と一緒にいたやつ』だったのだが掲示板の前に行こうとしたところで睡に捕まった。
「お兄ちゃん! 絶対私たち一緒のクラスですよね? さあ行きましょう!」
がっしりと手を握られてしまった。しかしその事で睡の『お兄ちゃん』という言葉から、俺が兄であるとはっきりしてしまったのだろう、それほど多くの注目は浴びなかった。もっともそれは俺に対してだけであって妹の方には『まだフリー』という目線を露骨に感じてしまうのだった。
そうしてクラスの配置発表があったのだが……
「お兄ちゃん! やっぱり一緒のクラスでしたね!」
「そうだな」
何の因果か俺と睡は同じクラスだった、悪い気はしないがなんだかこうなることを予想していた自分がいた。そしてその隣では重が自分の名前を表から探していた。
「あった! 私もA組だね、よろしく誠!」
「チッ」
「睡ちゃん今舌打ちしなかった?」
「するわけ無いじゃないですか? 歓迎しますよ
「他人行儀ね……別にお姉ちゃんって呼んでくれてもいいんだよ?」
「いいわけが無いでしょうが……私たちに喧嘩売ってやがるんですか?」
「あら、誠には喧嘩売ったりしてないけど?」
「なるほど、つまりその彼女には喧嘩を売っていると?」
そろそろ止めないと殴り合いに発展しそうなので俺が二人を止める。
「二人とも入学早々目立つことはやめような?」
「原因がそれを言いますか……お兄ちゃんのバカ……」
「誠、その内誰かに襲われないように気をつけなさいね? 夜道に月が出ているとは限らないのよ?」
そう言って俺にすごむ二人に俺はすごすごと逃げ出すのだった。何で俺が怒られてるんだよ! 二人の喧嘩を止めようとしただけじゃんか!
揉めながらもなんとかA組の教室に入って新入生向けの解説が始まった。
……始まったのだが俺の隣にいる男子生徒から声がかかった。
「なあなあ……えっと……
隣の席の男子生徒が話しかけてきた、友達作りのチャンス!
「そうだよ、気軽に誠って呼んでくれていいぞ」
「へえ、それにしても誠には可愛い妹がいるんだな」
「可愛い……かあ……」
「そうそう、俺みたいな陰キャからすれば随分と身分の差を感じるくらいには可愛かったぞ」
陰キャを自称するとな? まあ陽キャぶるのも大変なのかもしれない。
「まあ感想は人それぞれだな。ええっと……なんて名前?」
「ああ、
「よろしくな、但埜」
「よろしくな、椎奈……いや誠」
「別に椎奈でも……あ!」
「椎奈だと教室に二人いるだろ?」
そういえば兄妹で同じクラスということは俺たちは初対面でも名前で呼ばれる可能性が高いのか。だからなんだという話ではあるのだが。
女子からも名前で呼ばれるのだろうか? 少しときめきを感じながらも心を静めて話をする。
「しかし、陰キャを自称するって珍しいな?」
但埜は何でもないことのように答えてきた。
「陽キャのふりなんて無理だよ無理、どっかでボロが出るくらいなら初めっから言っといた方がいいだろう? それと……」
「なんだ?」
「誠からはどこか俺と同類の匂いがするんでな」
「失礼なやつだな……間違っちゃいないがな」
ハハハと笑って教室を見回すと、睡が恨めしそうな目で俺を見ていた、何をしたというのやら。
「誠、先生来るからそろそろ黙っておきなさい」
「はいはい」
そう言って流すが周囲がそれを見逃してくれなかった。睡と同じく美少女系の重から声をかけられたので入学式で現れた美少女二人と何か関係があることをクラスの全員が理解したようだった。
目立たないって大変だなあ……起きてしまったことはしょうがない、開き直って幼馴染みアピールでもしておくか。
「分かったよ、お前とも付き合い長いからな」
「そうそう『付き合い』長いからね!」
何故かアクセントがおかしいがとにかくそこで担任が入ってきて会話は中断された。
「よーしお前ら席に着け、高校は義務教育じゃないからな。まともに勉学に励めよ。まあそれ以上は求めないから最低限俺に面倒はかけるなよー」
どうやら担任は臭いものには蓋をしたい体質のようだ。それが悪いわけではないが言い方ってものがあるだろうに……
その後一通りこの
キーンコーンカーンコーン
終業のチャイムが鳴ったのでそこで解散となった。もちろん俺はさっさと帰ろうとする、当然だが睡とは一緒に帰ることになるだろう。
「睡ちゃん! すっごく綺麗な髪してるよね! 今彼氏とかっているの?」
「いえ、特にこれといった方は……ああ! お兄ちゃんはいますよ!」
「そう言うんじゃなくってさ……その……好きな人とかいないの?」
女子から質問攻めにされていたので、俺は女子にはそういう付き合いもあるのだろうと判断して帰宅をしようとする。
「歳月さんって付き合っている人いるの?」
「やっぱりあのお兄さんって呼ばれてた人と関係あるの?」
「気になるなあ……きっと中学でも人気だったでしょう?」
同じく説明責めにされていたので俺は一人で帰ろうと決めた。
「さて、帰るか……」
そうして帰りかけたところで但埜が声をかけてきた。
「誠一人じゃ帰れないと思うんだが……」
その声に顔を向けると一方を指さしていた。そちらに顔を向けると……
「お兄ちゃん! もちろん一緒に帰りますよね?」
据わった目をこちらに向けてそう言う睡、声音は嬉しそうなのにどこか凄みがある表情をしていた。
「誠! 私と一緒に帰るわよね?」
小動物のような目を俺に向けてくる重、言い方こそかわいらしいもののその言葉には『もちろん一緒に帰るんだろうな……?』という言外の圧力を感じられた。
「ちょっとごめんなさい、私はお兄ちゃんと一緒に帰るので」
家族という一緒に帰るにはこれ以上無い理由を持ち出されて周囲にいた人も皆一歩下がって俺と睡の間に道を作った。
「さあお兄ちゃん! 帰りましょうか!」
笑顔で俺の手を引っ張る睡に抗うことも出来ずただ引っ張られるままに連れられていった。
「あ! ちょ! 私も……」
重も何か言いたいようだったが、クラスメイトとしても睡か重の一人は残って欲しかったらしく睡についていた人たちも重の方へ向かっていって押された重は引き留められたのだった。
「えへへ……お兄ちゃん! 帰りましょう!」
「そうだな……」
「計画通り……」
「何を言ってるんだ?」
「独り言ですよー!」
そう言って帰宅の途についたのだった。
通学路を帰りながら、睡と話し合った。
「お兄ちゃんと一緒に通学できるって最高ですね!」
「そういうもんかなあ……」
「ですよ! まあ歳月さんも一緒だったのはけいさんが……いえなんでもないです」
「でもまあ……」
「?」
「楽しいと思った方がいいんだろうな、家に俺たち二人しかいないんだから家族の付き合いを通学の時間くらい楽しんだっていいだろ」
「ちょっと意味が違うような……はぁ……ま、お兄ちゃんはそういう人でしたね」
ようやく家に帰り着いたところで睡は鞄を投げた。
「ふう……外面を保つのも面倒くさいですねえ……お兄ちゃん! 一緒に晩ご飯食べようね!」
「あんまり外面と変わってないような気がするがな……」
呆れ混じりに睡を見ながら俺はレトルトカレーを二つ電子レンジに放り込んだ。炊飯器は予約機能でもう銀シャリを炊いている。
「やっぱりレトルトはいいですね、人類の作った発明でもなかなかいい線をいっていますね」
「はいはい、じゃあカレーな」
俺はご飯を皿に盛ったものを二つ、レトルトカレーをそれぞれにかけてテーブルに並べる。
「じゃあいただきまーす!」
「いただきます」
美味しそうにスプーンでカレーをすくって口に運びながら、時々俺の方を見てくる。コイツの行動原理というのはよく分からないな……
ぱくぱくと食べながら今日の出来事について話をする。
「お兄ちゃん、なんで私に人が集まるんですかね?」
「可愛いからだろ」
すると我が妹は顔を真っ赤にして絞り出すように言った。
「お兄ちゃんから見てもですか?」
「そりゃあまあ……家族贔屓と言われればそれまでだけど」
「へへへ……どう思われてもいい人にまで好意を持たれてもしょうがないんですけどね」
「嫌われるよりいいだろう?」
「私はお兄ちゃんがどう思うかが大事なんですよ?」
そう言って笑顔で食べ終わった食器をシンクに置いていった。
俺はお風呂に向かった睡を見送ってから食器を洗う、カチャカチャいわせながら綺麗になったところで俺は部屋に帰った。
そうしてしばらく経った頃。
「お兄ちゃん、お風呂空きましたよ!」
「はーい、次入るよ」
俺は着替えをそろえてお風呂へ向かう、一日の終わりに疲れをお湯に流しながらリラックスできた。
――
「ぶもぉおおおおおおおお!!!!!! お兄ちゃんと同じ高校!! 苦労してお兄ちゃんに合わせて偏差値落とすのに苦労した甲斐がありますよ! 余裕のレベルだからって落ちるわけにも行かないですからね!」
ふっふーん……
鼻歌交じりに私はベッドを転がります。お兄ちゃんとの三年間、なんて素晴らしいのでしょう!
まあどこかの誰かさんもお兄ちゃんを追いかけているようですが……そちらに関しては放っておいても私がお兄ちゃんに張り付いていればつけいる隙は無いですからね!
いやあ完璧! 私のパーフェクト頭脳が怖い!
私はそうして意識を落としながらお兄ちゃんとの未来を夢に見ることを祈っていくのでした。
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