第6話 やはり災厄なのかな

「これから何処へ向かうのですか?」


 私が乗る馬車を操って走らせている御者に尋ねる。彼は、すぐに答えてくれた。


「我々は、リムサフス王国に向かっています。そこにある教会まで、ルエラお嬢様をお連れます」

「教会?」

「そうです。アネルがリムサフス王国の教会にツテがあるそうなので、そこで修道女としてお嬢様を保護してもらおうと考えています。そうだろ、アネル?」

「えぇ。教会に、ちょっとした知り合いがいるんで。その人に頼めば、なんとかなるでしょう。だから、まずはリムサフス王国まで行きます」

「そうだったの」


 リムサフス王国は、私が生まれたグレムーン王国の隣りにある国だ。自然豊かで、のびのびとした人々が住む国だと聞いている。ただ、のんびりとしすぎて国の発展が遅れているとも聞いたことがある。


 だが他国にある教会ならば、グレムーン王国の貴族や王族でも簡単に手を出すことは出来ないだろう。使用人たちは、そこまで考えてくれていたらしい。


 もしかしたら彼らに騙されているんじゃないだろうか、とも疑っていた。騙して、何処かも分からない場所に連れて行かれて酷いことをされるのではないか。外のことなんて何も知らない、無知な小娘を。


 だけど、わざわざ騙す必要もないだろう。もう、ロウワルノール家という後ろ盾も無いのだから。


 好意で助けてくれているのも、ようやく信じられるようになった。このまま、彼らのことを信じて頼りにしようと思った。


 幾つかの街を経由して、休みも少なく馬車を走らせ続ける。長旅でどんどん疲れが溜まっていくが、他の人たちは私よりもっと疲れているだろう。だから目的地に到着するまで、私は迷惑にならないよう静かにして馬車に乗っていた。




 何処かの森の中を走っている時に突然、乱暴そうな男性の声が聞こえてきた。


「おい、お前ら! ここは通行止めだぜ。止まれッ!」

「いや、ダメだ。あいつら、盗賊だ。馬車を止めるなよ! 走り抜けろ!」

「お嬢様、身を隠して」

「ッ!? う、うん」


 御者の慌てた声。メイドの1人が、私の身体に覆いかぶさってきた。外からは見えないように、私の姿を隠そうとしてくれたらしい。


 走るスピードが上がっていくのを感じる。馬車の床板が、ガタガタと揺れる振動が身体にまで伝わってきたから。


「おいおい! 逃げんなよ」

「クソッ! 奴ら弓矢で!?」

「避けろ!」

「無理です!」

「キャッ!?」

「うわっ!?」


 突然、空中に放り出されていた。使用人たちや世話をしてくれたメイドが馬車の外まで飛んでいく。馬車を引いていた馬の悲鳴が聞こえた。


 弓矢を当てて、猛スピードで走っていた馬車を止められた。その反動で飛ばされてしまったのが分かった。飛ばされた身体が地面に落ちる。


「あうっ!?」

「く、だ、大丈夫ですか? ルエラお嬢様?」

「な、なんともないわ。貴女は?」

「私も、大丈夫です」


 地面に叩きつけられたが、怪我はしなかった。ちょっと痛かったけれど、動けないほどじゃない。同じ様に馬車から放り出されたメイドが、自分のことよりも先に私を気遣ってくれた。彼女も当たりどころが良かったのか、問題ないみたいで安心する。


 他の使用人たちも、すぐに立ち上がった。怪我人は居なかった。だけど、ピンチは続く。


「ヘヘッ! こいつは、なかなか上物のようだぞ」

「貴族の娘か? これは、身代金をたっぷり引き出せそうだ」

「しかも、可愛い! 楽しめそうだぜ」

「おいおい。金になる商品なら、手を出すなよ」


 不運にも、下品な声で笑う男たちに取り囲まれてしまった。盗賊に襲われて、私を助けようとしてくれていた使用人やメイドたちも巻き込んでしまった。


 やはり私は、災厄な存在だということなのか。そう思わずにはいられなかった。

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