災厄の婚約者と言われ続けて~幸運の女神は自覚なく、婚約破棄される~

キョウキョウ

第1話 険悪な婚約破棄

「はぁ……」

「……」


 目の前で、思いっきりため息をつく男性。普通の相手だったなら、失礼でしょうと注意するような状況。だけど彼は、王位継承順位が1位の権力者である。ただの婚約相手である私が、注意出来るような人物ではない。


 下手に注意して、気分を害されると私たちの関係が悪化するから。


 いや、もう既に私たちの関係は最悪になっているだろう。彼は、私のことを厄介者だと思っている。それは確定している事実だった。


 部屋の中には、私と彼以外には誰も居ない。嫌な雰囲気に包まれる。生殺与奪の権が握られている状態だから。彼になんと言われるのか、それで私の今後が決まる。


 何も言えず黙ったまま、時間がゆっくりと過ぎていく。イライラしているのが見て分かるクライブ王子と居るだけで、私の精神力も磨り減っていく。彼は、一体何を話すために私を呼び出したのだろうか。それも聞けず、ただ黙ったままじっとして彼が動き出すのを待ち続けた。


 しばらくしてから唐突に、クライブ王子が口を開く。


「婚約関係を破棄する」

「え?」

「さっさと、この書類にサインをしたまえ」


 ドサッと、目の前に羊皮紙とペンが投げるように置かれた。放り投げられた衝撃で、瓶に入っていた黒のインクがテーブルの上に零れ落ちる。


「チッ! テーブルが汚れてしまったではないか」

「……」


 イライラとした口調で、私のせいだと言って睨みつけてくるクライブ王子。それに関しては、彼の乱暴な行動によるものだと思った。けれども、やはり指摘することは出来ない。


「その書類にサインをすれば、婚約関係は解消される。さぁ、さっさとサインを」

「いえ……ですが……」

「なんだ?」

「こんな大事なことを私の意志で勝手に決めてもよろしいのでしょうか? ちゃんと相談しないと……」

「相談する必要は無い。私たちの婚約関係についての話し合いは既に終わっている。現国王もロウワルノール家の当主とも、全員が把握しているんだ。後は、君が書類にサインするだけで全て完了する。だから、さっさとしたまえ!」

「ッ! は、はい……」


 クライブ王子は大きな声で、威圧するように命令してきた。


 私の知らない間に、もう終わっていたらしい。最後に少し抵抗してみたが、それも無駄だった。私はペンを持って、震える手で書類にサインをした。


 書き終わった瞬間すぐ、テーブルの上に置かれた羊皮紙を奪い取るようにして取り上げたクライブ王子。サインをチェックすると、私の顔を睨んだ。


「もう用事は済んだ。早急に、この部屋から出ていきたまえ」

「……はい」


 手をシッシッと、私に向けて振る。屈辱的な行為。拳を握りしめる。


 終始乱暴な対応で、私のことを邪険に扱うクライブ王子。私は座っていた椅子から立ち上がって、扉の前に早足で移動した。私も、早く部屋から出ていきたいと思ったから。


「ルエラ、最後に忠告しておくが」


 部屋から出る直前、クライブ王子が話しかけてきた。私は足を止める。扉の取っ手を握りしめながら、顔だけ振り返った。そして聞く。


「なんでしょうか?」

「さっさと、この国からも出ていけよ。災厄を振りまく君という存在によって、私の国が滅んでしまう前にな」


 こうして私とクライブ王子の婚約関係は、解消された。

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