エステル記~籤と女王の宴~

@kakakeke

第1話 クセルクセルス王の酒宴

エステル記~籤と女王の宴~


1 クセルクセルス王の酒宴

クセルクセルス王がインドからクシュに至る百十七州もの地域を支配してはった時のことや、王は要塞都市のスサで王位に就かはった。

 その治世の三年目に、ペルシャとメディアからお偉いさん連中を呼んで、それはそれは豪勢な宴会を催さはった、それは百八十日もの間、ぶっ通しで行われて、王は自分の国がどんだけ富み栄えてるかを自慢して、自分の権力がどないに輝かしいもんかを見せつけはった訳や。

それが済んだかと思たら、王は今度は王宮の庭園で七日間の酒宴を催して、スサに住むもんなら、身分の貴賤を問わず、一人残らず招待しやはった。

宴会場の大理石の柱には、おめでたい紅白の組紐が張り巡らされてて、純白の亜麻布やら、見事な織物やら、紫の幔幕やらが、純銀の輪でそこいら中に掛けられてて、床はエラいカラフルな大理石や黒曜石やらで、オシャレなモザイク模様の意匠が施されてて、そこには金銀細工の豪勢な長椅子が、所狭しと並べられとった。

酒を飲む盃一つにしたかて、純金で創られた一点物ばかりで、王室御用達のぶどう酒が、王のその気前良さを見せつける為に、大盤振る舞いされとったけど、下戸にアルハラをすることはしやへんかった。

自慢しいの王でも、給仕長たちにはそこら辺の気遣いはちゃんとさせとったからや。

王妃ワシュティも、王宮で同じ様な女子会を開いとった。


王妃ワシュティの退位

 その酒宴の七日目のことや、ぶどう酒でご機嫌になった王は、酒宴に列席してるみんなに王妃の美しさを自慢したろって思て、宦官に命じて冠で着飾った王妃ワシュティを召し出そうとしやはった。

 せやけど、王妃は宦官からそない言われたら、ムッとしはって「ワタクシは見世物やないのよ。」言うて酒宴に出て来えへんかったのや。

 王はそれはそれは怒り狂って、王室典範に則って、経験値の高い賢者を集めてこの一件を審議しはった、王が「ワシュティは、ワシが宦官に伝えさせた命令に応じへんかった。国の定めでは、こないな時どない扱うべきや?」と賢者たちに問うと、賢者たちは「王妃が今回しはったことは、王に対してだけやのうて、国中の高官や民にとっても、ちょっとシャレになりまへんな。こんな話が女中連中の耳にでも入った日には、『王様、外国や国民にはエラい威張ってはるけど、嫁には頭上がらんみたいやで。』なーんて言われてしまいますがな。もしかしたら今日にでもメディアの高官の奥方連中の、井戸端会議の絶好の話題になるかも知れまへん。そないな屈辱には、私らかて良う耐えしまへん。王は『ワシュティは金輪際、王の前に出んで宜しい、王妃の位はワシュティから取り上げて、もっと相応しい者に与えるのや!』くらいのご決断をされ、これをペルシャとメディアの国中の法令に書き込ませて、直ぐにでも施行されるべきやと私らは思いますわ。その勅令が全国津々裏々まで知れ渡った日には、どんな嫁さん連中かて少しは亭主のことを立てる気にもなるんやないですか?」

 王もそらそうやなて思て、実際その通りにしやはった、王は支配する全ての州に、それぞれ、その州の言語で御触れを出した。何時もは肩身の狭い旦那連中も、少しでも嫁に威厳を示しやすい様にとの、王の粋な計らいやった、偉そうな王もたまに細かいことに気が付かはったんやで。

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