第19話 旅へ ⑥
部隊は山の中へと入っていった。手のつけられていないところにくると仕事はやや増える。というのも、植物が好き勝手に成長し、かなり邪魔になるからだ。道もないので道になりそうなところを探すのも軽量級部隊の仕事となり、枝や石などの数も増えてくる。蛇も危険だ。蜘蛛の巣もある。
部隊は揉めながらも、何とか毎日歩んでいた。ジェイが蜘蛛の巣に激突してしまい、これでもかというほどファンが笑ったので、また喧嘩になりかけたが、部隊からはまだ一人も抜けていない。
結局のところ、彼らは戦争をやる覚悟で集まった兵士たちだ。暇だから争っていただけで、自由を望む心の根底はそう変わらないのかもしれない。
このまま順調に任務は終わるかに思われた。
しかし、ロチカの業が牙を向く。
軽量級部隊は森の中を進んでいた。ここ数日はひたすら森の中を進んだが、今日の予定では川に到達することになっていた。
久々の水の流れだ。微かに前方から聞こえる水の音は、一行を元気づけた。自然と足取りは速くなる。
「橋が架かっているらしいけど、信用ならないわね」
とキャチュー。
「架かっていたとしても、果たして大砲が通るかどうか……」
ファンが答える。
最初に違和感に気がついたのはオリーだった。野生じみた部分が嗅覚においてもあった。暴走の一件以来、オリーは部隊の全員から恐怖と尊敬の印象を同時に手に入れていた。
「臭い」
一行は足を止めた。
「別に臭くないけど」
ジェイ&アールは首を傾げている。
「何の臭い?」
違和感を馬鹿にせず、神妙な表情で尋ねたのはキャチューだ。
「腐敗臭」
談笑が止んだ。一行は生唾を飲み込み、周りを警戒して進み始めた。
そのまましばらく進むと、他の皆も臭いを感じるようになる。
「確かに臭いわね」
「大型動物か」
ただ死んでいるだけならば害はないが、強い臭いが部隊を不安にさせた。戦が行われた後かもしれない。
部隊の不安を危惧したキャチューが言う。
「誰かに偵察させよう」
「私が行くわ」
カスイが名乗り出た。軽量級部隊の中でも小柄で俊敏。目もいい。適任だ。誰も文句は言わない。
「わかった。気をつけてね、無理は絶対にしないこと。他の皆はここで小休憩よ」
ほどなくしてカスイが戻ってきた。足取りは普通だったが、顔色が悪い。
「どうした?」
「クマです。巨大なクマがこの先で死んでいます」
その場所に行くと、強烈な腐敗臭が鼻を刺激した。住処だと思われる洞穴の傍で、かつてクマだった血まみれの肉塊が転がっていた。
「ひどいな……」
体は八つ裂きにされていた。数メートル越えの巨大な刀で切られたとしか思えない鋭利な攻撃の後が体中に刻まれている。だが、数メートルもの刀など森に落ちているわけはないし、あったとして、それを振り回してクマをみじん切りにする輩がどこにいるというのだ。肉体にはハエが集まり始めていたが、まだ血液は凝固しておらず、肉の周りを生々しくうごめいている。
ジェイが嘔吐した。
「お前、吐くなよ。音が気持ち悪いか……」
つられてアールとオリーも嘔吐する。
悪臭が増えていく中、ファンが呟いた。
「一体誰の仕業だろう。クマをこんなにもえげつなく……」
「信じられん」
ここ数日あまり喋らなかったロチカが声を出した。声には危機感がこもっていて、表情には戸惑いと焦りが見えていた。
「これは、人間界のものじゃない」
「は?」
全員が呆れた顔でロチカを見つめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます