最終話 小さくも
十一月。
寒々しい空の下、春流と坂道を下る。
「圭くん圭くん!」
僕の肩をゆする彼女が、嬉々とした表情で僕にスマホの画面を見せる。
「あっ!」
僕は、画面に映る人物に驚愕する。
「青島ちゃん、彼氏できたんだって!」
「そうなんだ…!」
驚愕にようやく喜びが追い付いた僕は、感極まってまともな言葉が出てこなかっ
た。
「がっかりした?」
「なんで?」
「白木くんの好みだったでしょ? 青島ちゃんみたいな人」
「そんなことないから!」
「へえ~」
信じられない、というような目で、僕を怪訝そうに見やる彼女に、僕はどうすれば
いいんだよと、言ってやりたいのをグッとこらえ、ため息を漏らす。
「僕は…」
チナツみたいにからかう春流はどこかご満悦な顔をしていたから、僕は少し向きに
なり、一か月前から交際し始めた彼女に、言ってやった。
「春流のことが、好みだから…っ!」
言ってしまったことを後悔した。
「へえ~、圭坊も言うようになったじゃ~ん」
と、チナツ。
「こんな寒い中、お前らはお熱いことで」
と、信隆。
「立ち聞きすんなっての! お前ら!」
「ごめんごめん。付き合いたてのカップルが新鮮だったから、ちょっとからかい…、
いや、幸せを分けてほしかっただけよ」
「本音漏れてるぞ」
「えー! 別にいいじゃん、減るもんじゃないし…、ねー、春流ちゃん…、あ
ら…」
「桃井?」
「も、もうっ! どうしてみんなして!! そんなに! こっちはすごく、照れく
さいんだから…」
「春流…!?」
顔を真っ赤にして、本当に照れくさそうとする彼女に、僕もまた、気恥ずかしく
て、目を逸らしてしまった。
「ほ~ら、この間の文化祭、みんなで桃井ちゃんのコスプレ隠し撮りしてたじゃ
ん? あの時の白木くんったら、鼻の下こーーーーんなに伸ばしちゃってさ」
「こらっ! チナツ!!」
唇の上をつまんで下に伸ばしながら僕を茶化すチナツにツッコミを入れていると、
クスッと控えめで柔らかい声が聞こえた。
視線を注ぐと、いつか、僕の『チカラ』を受け入れ、その『チカラ』を使って誰か
を助けようと、小さくも心強い手を差し伸べてくれた桃井春流が、あの時と同じよう
に、いや、いつものように、優しい光を放つようにして笑っていた。
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