10

「どうして、貴方はこんな事をするの?」


 車に強引に乗せて、急発進させる。


 涙に塗れた幸江も又、綺麗だった。


「斗神會の若頭補佐が、幸江を狙ってる。どのみち、俺と来る以外、道は残されてへん」


 旧二十六号線を走らせながら、高速道路へと向かう。今夜中に、名古屋まで向かう予定で在った。


 何処か手頃なホテルで夜を明かして、新幹線で九州へと向かう。逃亡資金ならば、其れなりに有る。あちらの裏社会にも、多少の人脈(パイプライン)が在った。上手く信用を勝ち得る事が出来れば、庇護を得る事が出来るかも知れない。一輝には悪いが、お別れだ。もう、大阪の地を踏み締める事はないかも知れない。


 幸江を護る為ならば、何だってしてやる。


「何が在っても、俺が護ってやる。だから、何も心配するな!」


 どう足掻いたとしても、大阪に居る限りは斗神會からは逃げられない。


 地元の結束力は、侮る事が出来ない。一歩、外へ出れば直ぐに情報が知れ渡ることに為うだろう。


 もしも此の儘、自分が幸江を放置していても、何(いず)れは其の居所は掴まれている。無理やりにでも、山崎の手籠めにされてしまうだろう。そんな事は、此の死神が赦(ゆる)さない。何が在ろうとも、幸江を護ってみせる。


「信じても、良いんですか……」


「信じて欲しい。絶対に、護ってみせる!」


 煙草に火を付ける。


 肺に煙りを送りながら、窓を少し開ける。


 夜気が肌に心地良かった。


「そうじゃない……」


「……ん?」


 幸江の言っている意味を、解りかねている。


 暫(しば)しの間。


 暫しの沈黙。


 心を何故か、得体の知れない不安が撫でる。幸江の本意が理解(わか)らない。彼女は一体、何を言っているのだろう。


 ——幸江は一体、何が言いたいのだろう。


 計り兼ねて沈黙が続く中、根本まで煙草が肺に為った。


「本当に、死なないって……」


 突然、消え入りそうな声で言葉を紡ぐ幸江。


「信じても良いですか?」


 真っ直ぐな瞳が、此方を捉えている。


 自分は死神だ。簡単には斃(くたば)らない。


「信じて良い。俺は、絶対に死なない!」


 絶対に、斃(くたば)って堪るか。

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