第4話 目覚め

 監禁されていた建物の一階に居たのは、三島俊治 52才 自動車の整備工の男だった。


 過去にも、小学生の女児を誘拐しようとしたところを、パトロール中の警官から現行犯逮捕されたことがあった。


 無事に保護されたホノカにケガはなく、事件は終結したかに思えた。


 一つの謎を残して......


 三島俊治は死んでいたのだ。


 それも、







 9年前の事件を、ホノカは今でも思い出すことがあった。





 狭い路地で振り返った時に見たもの


 ビッグバードと名乗った者


 そして死体......きっと、ビッグバードが殺したんだ。



 あれ以来、ビッグバードは現れていない。


 あの世界とこの世界のきっかけ?


 特別な存在?


「もう!全然意味わかんないじゃない!」



「ホノカー。どしたー?」


 親友のミキが顔を覗き込んだ。


「ううん!なんでもないっっ」


 ホノカは驚いて答えた。


「ホノカの今の顔、ちょーかわいかった!

 普段はクールなのに、その焦った顔が最高にかわいいのよねー!」


 抱きついて来たミキは、自分の顔をホノカの首元にうずめた。


「もうー、やめてよー。」


 容姿の事を褒められるのは嫌いじゃなかった。


 だけど、周囲から距離を置かれることもたまにあった。


 だけど、親友のミキが居てくれるおかげで、一人ぼっちになることはなかった。


 私たちは、いつも一緒だった。




 そんな、親友にも言えなかった。



 いや、親友だからこそ。


 あの事件で私が経験した不思議な話。きっとミキは信じてくれる。


 でも、なんだか良くないことが起こりそうな、そんな気がするんだった。


 ミキを巻き込むわけにはいかないんだ。




 ホノカには、もう一つ大きな秘密があった。


 あの事件以来、不思議な力が使えるということを。




 初めは些細なことだった。


 薄い紙で指先を切って血が出た時、口に含んだ切り傷の治りが早く、翌朝には傷は綺麗に消えていた。


 ホノカは何度も試してみた。


 試せば試すほど傷はすぐさま癒えるようになった。



 だけど、こんな奇妙な現象は、誰にも話せるわけがなかった。




******************************






 一方、郊外にある採石場に二人の男が立っていた。



「俺はまだ信じたわけじゃねーぞ」


「何言っててるんですか。わんわん泣いて、がっちり握手したのは誰でしたっけ?あんな、公衆の面前で泣かれて正直引いてますよ。」


 へらへらと芳田は笑った。


 井上は、足元にあった小石を拾って投げつけたが、あっさりと躱されてしまった。


 乾いた風に吹かれ、芳田のサラサラの髪がなびいた。




 ファミリーレストランを出た二人は、人気のない広い場所に移動しようということになった。


「お前の魔法ってやらを見せてもらおうか?」


「いいでしょう。驚いてちびっちゃだめですよ?」


 そう言い捨てると、芳田は人差し指を目の前に上げ、さらに30m程先の岩を指さした。


「……我が身より、走れ、閃きよ!」 


 大気がヒリヒリと震えた。


「ライトニング!!」


その一瞬、指先と岩の間に数本の紫色の線が走った。



 ……ガガンッッッ!!!


 すぐに岩は飛び散って跡形もなく崩れた。




 想像を超えた大きな音と閃光に、井上は尻もちをついていた。


「お、お、お、おいマジかよ......冗談だと言ってくれ!」



「まだそんなことを言ってるんですか?今のが電気を操った基本的な魔力放出です。

 井上さん、あなたが本気を出せばこんなもんじゃ無いんですよ?

 さ、試して見ましょう。」



「真似すりゃいいんだな......やってやるよ」


「我が身より、なんたらかんたら!!」


「待って下さい!!そんな出鱈目な詠唱じゃ...!」 


「ライトニング!!!」


 その刹那、芳田の心眼が、膨大な魔力の動きに無意識的に反応した。



 井上の膨大な魔力が奇妙に形を変え、伸ばした指先に集中した。


 その瞬間、空気中の水分が蒸発し、辺りを白く覆った。


 激しく強い光が、発光し続け、遅れて巨大な爆撃音が響き渡った。


 それはまるで、歴戦の勇士が裁きの鉄槌を下すような、破壊のみに許された咆哮に聞こえた。


 大地が叫び、空は歪み、全ての生物は恐れ慄き生を後悔するような、異常な までの暴力だった。



 飛び散った小石や粉じんが容赦なく二人に降り注ぎ、



 二人はしばらくその場から動けなくなっていた。




 芳田が初めて経験する衝撃だった。




 やっと霧が晴れたとき、二人を中心に、周囲の地形は変わっていた。





「あんた、化け物だ......」



 



 この時から、芳田の後悔の日々が始まったのだった。





















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