第13話 姉妹(マユコ)

「お姉さん、あの人が好きなの?」


一通りのフロアの掃除が終わりカウンターに戻ったマユコに、すでにキッチンの仕事が終わったサユコがおずおずと聞いてきた。



佐藤マユコとサユコは、一卵性双生児の姉妹だ。



「あの人って?」

マユコがカウンターにトレイを置くと、内向的な妹のサユコが窓際の席を見た。



確かあの席は、田中さんがよく座る席だ。いつも本を読んでいるので邪魔にならない程度に世間話をするサラリーマンだ。



「田中さんの事?」

マユコが聞くと、サユコが真っ赤な顔をする。昔からそうだ。妹のサユコは過ぎなかった人が出来ると、姉のマユコに相談してくる。



「そう・・・・・・」

少しからかったようにマユコが笑うと、サユコはマユコの顔を睨んだ。



「ごめん、ごめん、だって大切な常連さんだから、そんな目でみたことなかったから、サユコは好きなの?」

小さくサユコがうなずいた。



「そうだったんだ」

姉マユコは、ニッコリ笑った。マユコは昔から可愛い妹が頼るとなんとかしてあげたくなる。



「今度、紹介しようか?それとも田中さんがくる日は私がキッチンに変わる?」

マユコの提案に、サユコの顔は朝日が昇るように一気に明るくなった。



内向的で、バイトすら同じ場所がいいと言った妹のためマユコは喫茶店の店長に無理を言ってキッチンにサユコをバイトとして雇ってもらった。



「家は家族経営だから、融通がきくからね」と50代の店長でもあり小さな息子2人の父親でもある笑顔がマユコには、切ない。



マユコもサユコも今の家に養女として育ててもらった。


母親の妹の叔母夫婦だ。

もともと子供は持たない主義だったが、両親が7歳の時に交通事故で亡くなり、揉める親戚に愛想をつかし、二人を養女として引き取ってくれた。



叔母はもともとサバサバした性格で、伯父は子供好きな人だった。



大学まで二人とも行かせてくれて、少しでも家にお金を入れようとマユコは高校生から喫茶店で働き、大学からサユコもバイトをするようになる。



叔母夫婦はお金の心配はいらないと言ってくれたが、両親の通夜で揉める親戚達を振り切り育ててくれた2人には返しきれない恩がある。



その2人の笑顔と店長の笑顔が重なる。生きていたら、自分達の親もこんな風に笑ってくれただろうか。



マユコの提案から、店長にもその事を伝え次の月からマユコとサユコは、フロアとキッチンの仕事場を交換した。



田中さんと話すサユコは、いつも笑顔で時々、言いよどんでしまう事もあったようだが楽しそうにバイトをしている。



恋愛もいいものだな、そんな事を想いながらマユコが大学からの帰宅途中で事故にあった。



車の信号無視だった。

飛ばされ、宙を舞うマユコの世界はゆっくりで、ただ心配したのは内向的で可愛い妹のサユコだけだった。



道路に叩きつけられた瞬間、視界がぼやけ静かに世界が闇に包まれてく。



「サユコ・・・・・・」

自分の小さな声が夜空に虚しく消えていき、どこかで誰かの叫び声が聞こえた。



少しずつ体が重くなり、マユコの瞳が開く事は永遠になかった。







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