第6話 避ける

母親のサユコは、自分が失踪した事すら気がついていないだろう、冷めた気持ちと同時に寂しい気持ちになった自分に、山田まゆは驚いていた。



双子の長女として産まれ、さして年齢なんて関係ないのに何かあれば「お姉ちゃんなんだから」と妹のみゆに両親は譲らせた。



大人しく、大学も出たが妹のみゆよりも成績も素行も良かったのに就職が決まらず、焦った。



妹のまゆに、譲っては後で悔しさで後悔するのがみゆの人生の繰り返しだった。



高校受験の時、妹のみゆはほどほどに手を抜きながら勉強していたが、もともと勉強が得意ではないまゆは、必死に勉強した。



夜中の1時、妹のみゆが遊びから帰ってきた。中学生の娘が家からいなくなっても、気がつかない両親だ。



子供の頃から、両親がたいして子供に興味がないのをまゆは気がついていた。




勉強していたまゆを見て、お風呂からあがり夜食を食べていたみゆが嗤った。



「そんなに、勉強したって馬鹿みたい、あはは!お姉ちゃんのガリ勉、学校で有名だよ!」

ガチャン!と妹が食べていた夜食の皿が机から落ちて、気がついたら、まゆはみゆを平手で軽く叩いていた。



「ひどい!お母さん!お姉ちゃんに叩かれた!」

みゆは脱兎のごとく、両親の寝室に大騒ぎしながら、這うように走っていく。



慌てたまゆは、みゆを追いかけた。



両親の寝室では、すでに父親はベッドにもぐり込んでいて半身を起こした母親に、みゆは、「お姉ちゃんに叩かれた!痛い!ひどい!」と大騒ぎしている。



ドアの前で、深夜に大騒ぎしている妹と沈んだ淀んだ母親の目を見て、まゆは唖然とした。



「あの・・ごめんな・・」

声を絞り出すように、まゆが声を出した時だった。


「静かにしなさい!夜なんだから、ケンカくらいなんだ!」

父親が、ベッドの中から怒鳴った。



「みゆもまゆも、もう眠りなさい」

母親は、淀んだ目をしたまま、みゆの背中をなでると、2人を避けるように母親は部屋から2人を出した。



「ひっどいの~!もうねよ!」

みゆは、何事もなかったかのように部屋に戻り、まゆは暗い廊下で、闇を見た気がした。



両親は、私達に興味すらないのだ。どこにでもあるような家庭だが。



廊下の暗闇に飲み込まされそうになったまゆは、足早に自分の部屋に行き、ベッドにもぐり込んだ。


あれから、数十年が経過するが、両親の対応は変わらないまま、まゆは大人になる。



妹のみゆが不倫をしているのに気がついたのも、まゆだけだった。



仕事での人間関係も上手くいかず、友人達はほとんどが結婚して、なかなか会えない。



そんな時に出逢ったのだ、あの人と。



あの家から1人人間が消えても、誰も気がつかないだろう。



契約社員の契約が切れたと同時に仕事は辞め、まゆはあの人と生きると決めた。



貯金もかなり貯めていた、あの人はうちに来ればいいと言ってくれ、当分はゆっくり好きな人と人生を生きる事が出来る。



私を、



人生で、初めて避けなかった人と。




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