第2話 焦る
ついに、サユコの夫と双子の娘2人は、消えてから3日間、家に帰って来なかった。
サユコの夫の真は、仕事で突然出張が入り職場から2日ほどして帰宅した事は、結婚してから数回あったが、出張が決まると、必ずサユコに連絡を入れ、帰る日には電話をする。
娘の双子の長女まゆは、非正規のため仕事が更新する時だけ遅くなる事はあっても、朝帰りや連絡なしは学生時代から1度もない。
双子の妹みゆは、実家から徒歩30分の小さな会社の正社員で、大学時代の友人や彼氏の家に泊まる時は、必ずサユコに電話をして次の日には帰ってきた。
だが、3日間3人の電話が繋がらず、おまけに携帯が全て解約されているのか、何度電話しても「この番号は現在使われていません」という女性の機械音しかしない。
冷静さを保つために、3日間サユコはいつも通りスーパーに行った食材で、3人分の朝ごはんとお弁当と夕食を作り、夜にキッチンのシンクの三角コーナーに捨てた。
誰も手をつけていない、3日目に作ったハンバーグは、ゴトリと重たい音をさせて落ちていく。
さすがのサユコも頭が混乱しだした。
家族3人が消えて、2日目くらいまでは平常心を何とか保てた。
きっと夫は、急な出張が入り忙しく連絡がとれないのだ。双子の姉まゆは、しっかり者で真面目なため、よく泊まり込みで残業もあると愚痴っていた、妹のみゆは、友人や彼氏の家にでもいるのだろう。
そんな、サユコのわずかな希望をたちきるかのように、3日目の夜に双子の娘の妹みゆが働いている会社から電話が1本入った。
夕食のサユコ以外食べない皿を洗っている時だった。
ほら、やっぱり。スマホを落として家電にでもかけてきたのだろうとサユコは、泡と水で濡れた手をエプロンの前でふき、電話のあるリビングへと走った。
「はい、山田です」
返ってきたのは、思いもしない人物だ。
「あ、みゆさんのお母様ですか?みゆさんが働いていた会社の社長の田所です。みゆさんが会社を辞めた後、みゆさんの持ち物と思われる紙袋が一つ会社に置き忘れていたみたいで、連絡もとれないし、ご足労かけますが、取りに来て頂けますか?」
社長の田所の淡々とした言葉に、サユコは平常心を保っていたが、頭の中は大混乱だった。
会社を辞めた?連絡がとれない?
嫌な冷たい汗が、サユコの背中をつたう。
もともと、何でも1人で決めてしまうみゆだ。会社を辞めた事を棚にあげても、姿がない。
事件にでも巻き込まれたのだろうか?
「あの、みゆはいつから会社を辞めたのでしょうか」
自分でも、馬鹿馬鹿しいような母親の口調にサユコは腹が立った。
「え?ああ、3ヶ月前ですよ」
社長の田所の声が、どんどん遠くなる。3日前の夜には、みゆはその会社から帰宅していたはずだ。
「では、宜しくお願いします。明日から3日は私がおりますから、いつでもお越し下さい」
電話は、用件だけ伝えると切れた。
サユコは、フラフラと台所に戻り、みゆが食べなかったハンバーグをシンクの三角コーナーに慌てて落とした。
ぐちゃっと嫌な音がしたと思ったら、ハンバーグは無惨にももとの形を崩し、サユコのスリッパと、床に落ちて、広がっていた。
それは、まるでサユコの焦りを象徴するかのような、ありさまだった。
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