小話1




 線路を走る電車が、音を流して走り去る。




 目的地に向かって走る電車の中で揺れる乗客たち。




 その中でも、ひときわ異彩を放つ存在がいた。






「……なんなの? あれ」


 彼らと向き合って座っていた女子高校生のひとりは、隣にいる友人に尋ねた。

「なんなのって、顔が怖いけど普通にダンディなおじいさまじゃない。大きなリュックを背負っているから、旅行しているんじゃないの?」

 気にせずスマホを動かしている友人に対して首を振る女子。

「その隣に座っている人よ。あの魔法使いみたいな黒いローブを着ている人、なんか不気味じゃない? 隣のおじいさんと同じリュック背負っているし」

「怪しい宗教なんじゃない? それとも、おじいさまの趣味とか」

「そうかしら……でも、見ていて本当に奇妙悪いわ。ちらちらとアゴが見えているけど、その度に寒気がするもの」

「見ると必ず恐怖に襲われる、“変異体”だったりして」

「や、やめてよ!」

「あははは!! あなた、こういう話は苦手だったね。冗談よ!」


「……冗談じゃなかったりするがな」

 はしゃぐ二人を見ていた老人は、目線をそらした。





 




 やがて電車は速度を落とす。




 止まらなければならない駅が見えてきたからだ。






「ヤッパリ……怪シク見エルノカナ……」


 駅前のベンチに座って、少女は自分のローブを気にしていた。

 その声は、普通の人間とは言えない。

「勝手に言わせておけばいい。体を見せなければなんの問題もないだろう」

 老人はサンドイッチを口に入れた。

「もぐもぐ……ところで……もぐもぐ……そのバックパック……もぐもぐ……背負い心地は……ごくん……どうだ?」

「イイ感ジ。デモコレ……オジイサンノダヨネ……?」

「心配はいらん。ちょうど処分するつもりだったんだ」


 少女の背中には、老人のものである黒いバックパックが背負われていた。


 一方、老人の背中のバックパックには、変異体の少女が背負うバックパックよりも新しく、そして膨らんでいた。


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