第8話 第一の事件! ハートの能力
◾隆臣
高等部の裏庭に出た。
「私たちがしたことの理由を知りたがっていたな? それなら無理やり聞き出せばいいじゃないか」
尚子は不敵な笑みを浮かべて言った。
「暴力で解決しろってことか? それだけは嫌だったが……」
立ち止まった俺とエースから距離を取るように尚子とハートは歩き続け、
「かかってこい。死ぬ勇気があるならな!」
尚子の言葉にエースは狼狽えてしまっている。
「大丈夫だエース。落ち着いてやればきっと勝てる」
俺はエースの小さな手をぎゅと握ってあげる。
「うん!」
そしたら勇気が出たのか、エースは元気よく返事して手を握り返してくれた。
決して強い力ではないが、勝とうという強い意志が感じられる。
俺たちは尚子とハートを見据る。
「では始めよう。ハート、準備はいいか?」
「オッケー」
俺たち4人はそれぞれ戦闘態勢に入った。
しばらくの睨み合いが続く。
先に動いたのは尚子とハートだ。雑木林の方に走って行った。
「追うぞ!」
「うん!」
俺たちはその後を追って雑木林の中に入るが、見通しが悪くて戦いにくそうだ。
「まずはあのガイストがどんな能力を使ってくるかを探ろう。それまでは防戦だ」
「了解だよ」
俺とエースはその場で立ち止まって尚子たちの出をうかがう。
エースは第九感を発動し青空のような瞳であたりを見渡す。
生物やガイストは何をせずとも常に残滓粒子を放出するので、それを頼りに尚子とハートの位置を特定しようとしているのだ。
「いたよ! 2人とも木の影に隠れた!」
とエースは報告してくれたがすぐに尚子とハートは移動を再開した。
「残滓粒子が大量に放出された……! 何か飛んで来るよ!」
雑木林の奥から勢いよく火の玉が飛んできた。
エースはガイスト能力で自身と俺の身体能力を強化する。強化された身体能力で火炎弾を避けた。
火炎玉は背後の木に当たって消滅。それから次々と火炎弾が飛んでくる。
俺とエースは木々の間を縫うように進み火炎弾が被弾しないように尚子たちに近づく。
「こいつ、この雑木林ごと焼き払う気か!?」
炎が引火してあちこちで木が燃えている。
「こほんこほんっ! 雑木林から脱出しよっ! 煙がすごい……っ!」
エースは口元に腕を当てて咳き込みながら言うが、
「そうだな。しかし残念ながら、うちらの生徒会長は退路を残してくれるほど甘くはないみたいだぜ」
もうすでに俺らは炎に囲まれていた。
「さてエース、どう切り抜ける?」
「切り抜ける? それはちょっと違うよ。走り抜ける! だよっ! 今ならまだ間に合う! ちょっと熱いだけだから!」
「ッ!? お前には分割高速演算能力があるのにどうしていつもそんなむちゃくちゃなこと言うんだッ!?」
「いいから走って!」
エースに背中を押される。
「あぁ! ちくしょう!」
俺は火の手が薄い方に向かって疾走し、エースは俺の肩に捕まり浮遊能力を利用してヘリウム風船のようについて来る。
一瞬、体を焼き尽くすような熱さと痛みが走ったが、すぐに火の海から――雑木林から脱出した。
制服の一部が焦げてしまったが特に外傷はない。
「なんとか抜け出せたが……」
目の前には炎の玉を浮かべながらポシェットに手を突っ込んで待機するハートと、その横でニヤリと笑う尚子が立っていた。
「お前たちの勇気を素直に賞賛しよう」
「高等部の生徒会長が裏庭燃やして……正気か?」
「さあな。私はめんどくさいことが嫌いなだけなんだ」
「こんな騒ぎを起こしたら、もっとめんどくさくなるってわからないのか?」
「私の第一目標はボスの計画を邪魔する者を排除すること。生徒会長としての顔はもちろん大事だが、それは権力で何とかすればいい」
「ゲスだな。お前」
「口を慎め三下」
ハートは火炎弾を放ってきた。
しかし、エースの分割高速演算能力をもってすれば放たれた全ての火炎弾の軌道を予測することは可能。
俺はエースの分割高速演算にアクセスして思考を共有し、火炎弾を回避しながら尚子とハートに肉薄しようとする。
だがそのとき、
「ッ!」
――ドゴンッ!
俺とエースの足元で突然爆発が起こり、俺たちはそれに巻き込まれてしまった。
◾尚子
「かかったな」
「思った通りのクソザコナメクジだったよ」
私とハートは土煙が晴れるのを待った。
しかしそこにやつらの姿はなかった。
「「!?」」
私とハートは目を丸くして辺りを見渡す。
「どこへ消えた! 一体いつ!? どうやって!」
見えるのは右に燃える雑木林、左に小さな池だけ。
「遠くまでは逃げていないはず。ハートは後ろを頼む」
「了解!」
私たちは背中を合わせてやつらの奇襲に備える。
「どこだ! 隠れていても無駄だ! 出てこい!」
聞こえるのは木々が燃えるメラメラパチパチという音と、すでに近くまで来ている消防車のサイレン音だけ。
そのとき、
――ガサガサ
私は前方の草むらが動くのを察知した。
「そこにいるのはわかっているぞ! さぁ大人しく出て――」
瞬間、私の肩から血が吹き出した。
「なにィ!?」
「尚子!?」
私の死角となる部分を見張っていたハートも何がなんだかわかっていない。恐らくヤツは何かを投擲してきた。
私は負傷した左肩の傷口を押さえて大きく舌打ちをした。
ハートは四方八方を囲うように火炎弾を配置し防御体制を取る。
まだ燃えてない木々の中でやつの投擲攻撃さえ封じればやつは近接攻撃をせざるを得ない。火炎弾で周囲を取り囲んでいるので容易に近づくこともできない。つまりは私たちが得意でヤツらが苦手であろう中距離戦を行える。
そう思っていた私たちだったが、
「俺たたは逃げも隠れもしていない。お前がここに来るのを待っていた!」
頭上を見ると、太い幹の上にやつがいた。
もうすでに……防御陣の内側に入られていたのだ!
「ッ!」
やつは拳を頬にくらい後ろによろけてしまう。痛てぇ。
「くッ! いつの間に……ッ!」
ハートはすぐに火炎弾をヤツに向けて発射。
火炎弾は命中したが、やつの身体は光の粒子になって霧散した。
「チッ! なるほど……そういうことだったのか。さっきの爆発に巻き込んだと思ったが、どうやらあれも分身だったみたいだな」
わたしはぺっと血を吐き出し、
「能力の秘密がわかったからには、対策は可能だ。しかし、ちくしょうどうすればいい……」
私は焦りの表情を浮かべてしまう。ハートが心配そうに見つめてくる。
野次馬の学生や消防士たちが近づいて来ている。うるさい。
「めんどくさいことになってきた……。ハート、あの小屋に移動して体勢を立てなおすぞ」
「うん」
そう言って私とエースは池の向こう側の小屋を目指した。
To be continued!⇒
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます