第41話 未明なる異邦人
“その者達”が確認され出したのは、いつの頃からかは判らない。
だとて、“その者達”がこの世界に現れ出したのは―――必然。
“その者達”が改めて認識・視認されたのは、魔界の住人達が不倶戴天の敵として既に認識をしているラプラスと同様だったから。
そう―――いわゆる、「個人名」ではなく、「役職名」をして個人を認識する類。
ですが……“その者達”はラプラスとは違ていた、ラプラスと同じならば
けれど―――見境がなかった……
“その者達”は、どちらが敵でどちらが味方かを判別しなかった。
判別せずに―――どちらも平等に襲い掛かった……
つまり―――
「また襲われたのですか……(ふむ。) しかし、
「つまり、未確認の者達はラプラスではない……と。」
「そう判断して差し支えないものと思われます、竜吉公主様。 なのだとしたら……その者達の目的が判らない。」
「確かにな、ならば交渉事を以て我等の陣営に取り込んでしまうのが……」
「その手も悪くはないかと―――ですか
ある戦線に於いて、魔界軍とラプラス軍との小競り合いがありました。
その渦中に突如として現れた1体の何者かによって、両軍ともに甚大な被害を負わされたのです。
その者の身形―――屈強な、全身を赤で備えた鎧を着込む「
この小競り合いに於いて魔界側とラプラス側の中に割って入り、ラプラス側の「斥候」を一刀両断にした。
これによって、彼の者はラプラスに敵対する者……かとも思われましたが、彼の者は次第に魔界の者達をも襲い始めたのです。
血に酔った者は、所構わず―――誰も彼もをその手にかける……その興奮が醒めやらぬ限りは。
しかも、目的も不明のまま―――彼の者は一体何を為したいのか……ただ、一時戦場を混乱に陥れた者は。
『血が―――足らぬ……この身が求める良い戦はないものか。』
ただ……ただ……戦を求める戦闘狂。 その者は、自身が求める「良い戦」を探し
顔の鼻より下を「頬当」なる防具で覆い隠し、性別も―――表情も判らぬまま血塗られた戦場を
その強い印象はラプラスにも魔族にも残り、やがては“噂”となりて戦場と成っているラプラス達の世界に広まってゆく。
* * * * * * * * * * *
その―――また別の戦線、戦場にて……
「人形遣い《ウオーロック》」と呼ばれる者により操られる
それに、生命が無い―――から、痛みを感じない、恐怖を感じない、表情もないから次の手が読めない。 ただ前進あるのみ……ただ留まらずに闇雲に進んでくるのはまさしくの脅威なのです。
とは言え、こんな手合いへの有効打はベサリウスも知っていました。
相手は単なる“モノ”……無機物に仮初めの生命を吹き込まれ、ただ前進しているに過ぎない―――今のところは……
そこから先が重要、はてさてこちらの前線に接触したら剣や槍などで応戦するんですか?それとも自爆でもするのか。
こう言った人形の使い道は、概ね後者にあたる―――さてさて困ったもんですなあ。
まあ……対抗策はないわけじゃないんですが、一番手っ取り早いのは広範囲魔術で殲滅をするのに限る―――ただ、そう言った手を得意としている『黒キ魔女』さんはここからは随分と離れてることですしねえ……
例え今から応援を要請したって、間に合うかどうか―――……
ベサリウスが知っていた有効打とは、『黒キ魔女』であるササラが得意としている、範囲殲滅型の魔術―――でした。
しかし今ササラはこの近辺にはいない、優秀な魔術使いである彼女なしで、この窮地をどう切り抜けるか……そう打開策を巡らせていた処―――
「「ぐおっ?!」」 「こっ―――これはっっ?」 「わ、判りません……が、明らかに“別”の攻撃意志が近くにいます!」
自分達も……そしてラプラスの
しかも上から圧し掛かるかのような感覚……? それはまるで強力な重力場の只中にいるような―――
『これは……どうやら皆と逸れてしまったみたいですね。』
気が付くと、見た事もないような女がそこに一人いた。
両の
そして同時に、重力場も移動をしていた……??
「(まさかこやつ……)こやつが重力場の“
「し―――しかし、たった一人で広範囲に亘るモノを……?」
ヴァーミリオンにリリアは幾分か装備などに耐性が付いていましたから、僅かながらに
『あら―――この程度で動けるとは……中々に見込みがありそうですね。』
最悪な事に、興味を持たれてしまった―――興味を持たれてしまったからには、相手をしなければならない。 しかしながら依然と相手の事は良く判らない。
そんな者に対処するのは危険が伴うことは、ヴァーミリオンやリリアでなくとも、同じく死線を潜り抜けてきたノエルやホホヅキ、ベサリウスはよく理解していました。
『うふふふふ、あなた達の品定め、この『静御前』が見定めてくれましょう。』
聞かぬ「役職名」、一度聞けば「人名」にも聞こえなくありませんでしたが、その時に限って言うのならば違う印象がした……
それに、判った事が一つ―――
この者は……敵でも味方でもない―――これからのやり様で どちら にも成れる者……
ヴァーミリオンはその様に感じた……と言うより、そう感じざるを得なかった。
それというのも、さすがにこんな化け物じみた能力の解放が行える者でも一度に二つのことは出来ない。
自分達の「品定め」をする為……と、『
『うぬ!おのれ……邪魔立ていたすな!!』
飛びかかった弾みに『静御前』の眼帯が外れてしまった……。
眼帯をしているなら、その眼は光を失っているものと思われたのですが―――……
「(あれは……)「
「なに?噂にしか耳にしていなかったけれど……あれがそうか!」
魔界でも特定の地域に住んでいた者達は、地域伝承を教わっていたがゆえに知っていた―――程度でした。
伝承で聞いていただけ……実際には―――見たことが無い……
琥珀色の眸に、三日月を思わせるその瞳孔は紅。 その眸を持つ者は相手を
『人の隙を衝くと言うような無粋な
まさしくの「鬼」―――傍若無人……彼の者は、相手が何者であろうが構う事はなかった。
ただ己の血の渇きを癒したかっただけ、とは言え
あれは……ヒトでは、ない―――あれは……人の皮を被った鬼だ……
その場にいた誰かがそう呟いた、するとその言葉に応えるかのように。
『そうだ……私は“
ですが、この私を召し抱えてくれた方は、こう仰いました……。
『その様な厳つい名は、お前には相応しくない』
―――と、その代りこの名……『静御前』の名を給わったのです。
さあーーー薙ぎ払いましょう……せめて、あの御方の為に』
無限の剣閃により、生命無き人形とそれらを操っていた者は物言わぬ土と肉の塊と化しました。
その剣閃を目にしたホホヅキは……
あれは―――恐らくは「居合」。 抜刀と納刀を絶え間なく続け、その度ごとに状況に応じて剣閃を使い分けている。
しかもあの者は相当な手練れ。 この私でさえその習得を諦めたほどの技能を……ああも容易く使いこなすなんて。
自分達ですら苦戦してしまう強敵を苦も無くと言った感じで平らげる異形の女剣士。
一方でラプラスの「人形遣い《ウオーロック》」を退治たものでしたが、残された者達には最早興味すら無くなってしまったか。
意図的に外された黒革の眼帯を結び直すと、何を求めてか―――また“しゃなりしゃなり”と、鈴を鳴らしながらその場を去って行ったのです。
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