第39話 『仁義なき戦い』(?)――頂上決戦――

その食堂に屯していたならず者達は一人のエルフによって退治されました。

それはそれで良かったのでしたが、やり込められたならず者達が向かった先……とは―――


「あ、兄貴ィ~兄貴ぃィ~~!」

「どうしたんだ、騒がしい。」


“小悪党”同士が結託をし、一つのコミュニティーをなす。 その例のならず者達もご多聞たぶんれませんでしたが、このならず者達を一つに纏め、上に立っていた存在……その者はならず者達から「兄貴」と呼ばれていました。

ではなぜ彼らから「兄貴」と呼ばれた存在は、この者達の上に立つ立場になれていたのか。

その“彼”はならず者達よりも強く、そしてまたなにより頭が賢かった。 今の受け答えの一つをとっても落ち着きを払ったモノ、その辺のチンピラの集団のように乱暴に椅子に腰かけているのではなく、姿勢よく椅子に座り窓際にて何かの本を片手に読み耽る―――つまり言う処の『インテリ・ヤク●゛』……その「兄貴」が、舎弟のならず者達から、どんなひどい目に遭ったかを聞くに及び……


「ほう、この街でこの私に逆らう者がまだいたとは。」

「へい……ですが兄貴、実はそのう―――オレ達に盾突いてきやがったの、エルフなんでさ。」


「なに?なら手前ぇら、そのエルフ風情に虚仮こけにされたってえのか!」

「え?あ……ああいや、それはそのうぅ……」


「全く、手前ぇらはバカで腕っぷしだけが強いとばかり思ってたが、エルフ如きに負けたとあっちゃあ話にもならんな……」

「あ……お、お赦しを―――兄貴ィ……」



全く、使えねえ奴らだ。 しかし聞いた以上、知った以上聞き捨てならねえな。

それにしてもエルフか……見つけ次第“フクロ”にして、その身を売春屋に売り飛ばすのも悪くねえな―――。



ならず者達から「兄貴」と呼ばれた存在こそは、人虎族の「ルドルフ」と言いました。 そう、ここは獣人達の街『』、ありとあらゆる“獣”と“人”の血が交わりし者達の街。 そんな街の暴力を支配する者こそルドルフでした。


そしてその事は人狼であるベルガーも知っていた。

けれどベルガーはルドルフが組織しているその中には入ってはいない。 それはベルガーが群れを成して屯するのを良しとはしていなかったから。

つまり「自分の腕に覚え有りき」を自負するのだったら、男一匹でも十分事足りる……『一人狼』的気質の持ち主である事が判るのです。

ですが、ルドルフも十分腕は立つものでしたが、「人の上に立つ」と言うのは“他人”を……「配下」を「手下」を上手く操らないといけない。

つまりこの2人は“個人”と“集団”の強者でもあったのです。


       * * * * * * * * * * *

それはさておいて―――人虎のルドルフは、自分の舎弟たちを可愛がってくれたエルフがまだこの街に逗留している事を知り「お礼参り」をしてやろう―――としていたようですが……



ふぅむ……“アレ”が例のエルフか―――ふざけやがって……。 私の舎弟たちを虚仮こけにしてくれたと言う事は、この私も虚仮こけにしてくれたと言う事―――そのツケを今払って貰おうか!!

「あーーーすみません、隣りの席よろしいでしょうか?」

「ん?別に構わないけど……ここの席より空いてる席たくさんあるよ?」


「いえ実は、私はあなたとお話しがしたいのです―――いいです……よね?」



出てきやがったか……この街取り仕切ってるルドルフ―――あんなサイケヤローに目をつけられるだなんて……あのエルフの姉ちゃん終わったな。



自分の処へ挨拶に伺ってきたエルフを、どんな者なのかを見定める為に観察している人狼のベルガー。 しかも彼自身あまり関わりたくない人虎のルドルフがのエルフと積極的に接触関わりしようとしている様子を見て、彼のエルフ―――シェラザードの命運も尽きた……と、思ったようです。

しかし―――……


「『いいです……よね?』と迫られちゃってもなあ~? そういう君も結構イケてる感じだけど……フフン―――ごめんねえ? もう私……誰かのモノになっちゃって、て。」(うふん♡)

「は?いや、何を急に言い出すのです。 私は―――あなたと……」


「ふふン~~照れなくたって、イイんだづぇ~? いくら私が魅力的―――つったってさぁ……もう私は人の妻……そう、人妻なのよ゛っ!!」

「(……)いや、そんな事は関係ないんですが―――」


「関係あるよぉ~~これっていわゆる『略奪愛』?『NTR《ネトラレ》』??『不倫』??? ああっ…イケナイわ!なんて背徳的な響き!! 『ヤッてはイケナイ』という言葉が益々この私のココロを掻き乱すのねン!」



このあまァ! 他人の言ってることを聞かないと言う奴だな!!?

いやだがしかし……この私は冷静だ―――いつも、冷静だ!! こういう他人の言っている事を聞かない女は、一発イワしてやらねえと舎弟したへの示しがつかねえ……

「おい―――黙れよ、オイ!! 私はそんな事を言っているんじゃねえんだ、黙って私の言う事を聞けや!!」


言葉遣いは至極丁寧―――その辺にいるチンピラ崩れが使うモノよりかは幾分か“優男”の様にも捉われがちなのですが、こう言ったタイプが逆上キレてしまうと、自然とその言葉遣いも荒っぽいモノにシフトしてしまう……けれどこれがルドルフのやり方。

このやり方でルドルフはこの街の“暴力”面の支配をしているのでした。

そして大概はこのやり方で戦意の8割を持って行かれるのでしたが……果たしてシェラザードは?


「あんたの言い分……ねえ―――ま、そりゃそうだ。 じゃ聞こうじゃない、あんたの言い分てヤツを。」



……は?なんだこの女―――言っている分には普通に聞こえるが……急に“スゴ味”が増しやがった??



ルドルフは―――知らない……この程新しくおこされた国で、その“裏側”―――このルドルフのように“暴力”などで社会を支配しようとしている組織の掌握に、「あと一歩」と迫っている存在がいると言う事を。


「実はなあ、昨日この店で―――」


「お待たせいたしました~、こちらご注文の品となっておりまーす。 ではごゆっくりお召し上がりを~」

「あーーー美味しそ~~そいじゃ姉ちゃん、これチップねー。 それよりええケツしとんのぉ~~ちょい触らせろやあw」


(プルプル……)「私の……舎弟が非常にお世話になったと聞いて―――ね……」


「イヤあん、お客サマお止め下さい~~ン。」

「ゲヘゲヘw お触り分のチップもやるけえ、また今度触らしてえなw」


「その……お礼をしたいと思っているのだが―――オイ手前ェ! 私が話ししてる時に何してやがるんだ!!」

「は?何して―――って、普通に注文した食事受け取ったのと、お尻ぷりぷり言わしてる可愛い姉ちゃんとスキンシップしただけだけど?」


「んだとぉ……手前ぇ、この私を舐めやがってるな!?」

「あのさぁ……あんたの顔、中々イケてるのは認めてあげるよ? けどさぁ……

[そんなヤローのツラでも、メシの前に舐める……じゃゆうて、メシが不味ぅなって出来たもんじゃないわぁ……のぉ?](エルフ語)」


「(あ゛?)何だ手前ぇ……途中でワケの判らんこと喋りやがって―――おい、食べるの止めろよ、そして他人と会話してる時はこっちを向け!!」

「うるっさいなあ……こちとら腹ペコなんだよ、あんたもない?腹ペコだと頭に血が上り易くなる―――って。 あ~~~ん、んぐんぐ……」


「やかましいわ!それより食べるのを一旦止めろ! そして私の方を向け!!」


ルドルフは、自分の事を無視アウツ・オブ・ガンチューしてくれるこの女エルフに対し、腹の底から怒りが煮えくり返っていました。

それでも、冷静に対応をしようとしているその姿勢―――しかし内面的な“それ”は、言葉遣いや顔、そして態度にまで現れてこようとていました。

それというのも、この街では誰しもが恐れる自分を、まるで気にもすらせず自分がやりたい事だけをやろうとする、“不敵”な―――“不遜”な―――エルフの女……

そこで我慢の限界にきたルドルフは、シェラザードが丁度食べようとしていた手とフォークを同時に払いのけてしまった……


そう……一番やってはイケナイ事を、やってしまった―――


「(よし、ガラドリエル―――逃げるとしよう。)」

「(は……あ―――)」


実は、この食堂にはあと2人、アウラにガラドリエルもいました。

けれど彼女達がルドルフとシェラザードとの会話に何一つ絡んでこなかったのは、彼女達とシェラザードとは席を離して座っていたから。

そして、(またもや)食材を台無しにされた大魔神様がご降臨なされ、食材を台無しにしてくれた張本人を半殺しにしてしまった―――この一件の巻き添えを食わないよう、回避したわけなのですが……


「[こんのごんたくれ共がぁ、今度つまらんことしくさったら、おんどれらのち●ころ引っこ抜くぞ―――ぁ゛あ゛?](エルフ語)」

「は……はひ、しゅ―――しゅみまふぇむ……」


「(うわぁ……また食事の時間台無しにされちゃった事でその鬱憤晴らしたまではいいんですが……何を言っていらっしゃるのか判らない処が、なお一層の恐怖を煽り立てているというか……)」

「(うむ、というかだな、アレは判らない方がいいぞ。)」


「(あ゛~~~その一言で色々察しました―――ところであなたは、いつぞやの人狼さんでは?)」

「(ああ、ここんとこあいつの事探っていたんだが……あいつ色々とヤベえな。)」

「(まあ、ヤバい処を知ってもらったのはなによりだ。 その上で―――の事になるのだが……)」


「(あの、私―――遠慮させて頂きます……。)」

「(ちょっとオレも―――ご遠慮頂きたいもんだな。)」

「(ハッハッハ―――いや、二人とも冗談が上手いな?)」


「(冗談じゃないですって! なら言わせてもらいますけど、あの人虎の男、生きてるのがやっとのようじゃないですか!!?)」

「(言っとくけどな、あのルドルフて野郎はこの街でも一番の腕っぷしをしてるんだぜ?しかもその(悪)知恵の回転率も一番と来てやがる……そんなヤツを、チリ紙を破くように?だ、と??! へへ……冗談キツイぜ―――。)」


「(ちなみに、只今キャンペーンを張っていてな、今女王陛下あいつの親衛隊入るなら、以下の事が確約されている。)」

(ゴ・ク・リ…)「(月の手取り……が、100万リブル!!?)」

(ゴ・ク・リ…)「(し、しかも―――隊員の家族にも手篤い保護!!?)」


「(そそっ……それにっ―――各隊員には50000アルクの戸建て住宅!)」

「(ししっ……しかも、警備の設備や使用人の充実も?? こ……こんなの夢―――だよなあ?)」


「(そ、そうですよね……それにシェラザード様は女王と言う身分だけども、この度新しくおこされた国の―――とも聞かされていましたから……。)」

「(なに?じゃあ、さっきの条件で雇うと言っても財政的に無理なんじゃ……)」


「(その心配なら不要だ。)」

「(は?な、何でそんな事が言えるんだ―――第一ダーク・エルフのあんたは、何の関わりがあって……)」


「(関わりなら―――あるさ。 何しろ“あの御方”に泣きつかれて頼まれたからなぁ……は、は―――。)」

「(あの御方―――とは、シェラザード様ではありませんよね……では一体誰の事?)」


「(『魔王カルブンクリス様』だ。)」

「(……はい?)」

「(魔王……様―――って、この世界で一番偉い人じゃねえか??! 何でそんなお人が……新しく出来たばかりの国王様に、そこまでの支援を??)」


「(その辺はあいつ自身から聞くと言い、まあ忠告がてら言っておいてやるが、『知らぬが花』と言う事もあるのだぞ。)」

「(う゛……何かその一言で、また色々と察しました―――それにしても、充実しているなぁ……福利厚生。

……よし、決めた、私は決めたぞ。 それにシェラザード様には救ってくれた恩がある、それをこの機会に返すとしよう。)」

「(……なら、このオレも入ってやろう。 それに人狼のオレがアラクネなんぞの後塵を拝してるってのも気に食わねえ話しだかんなあ?)」


「(フフッ……期待してるぞ。 ああそれより私は入らんからな?と言うより入れんからな。)」

「(は?いやだってあんた、アレだけオレ達勧誘しときながら自分だけ入らねえって―――)」


「(いや、だって私はネガ・バウムの姫だし……)」


「何ぃ?!このダーク・エルフ……って、『飛竜の乗りドラゴン・ライダー』として知られているあのアウラ!!? て、事は、あのシェラザードってエルフ……『破戒王女』??!」

「ああ、そっちの紹介の方が分かり易かったか。 まあ、そう言う事だ―――」


「うるっせぇよ、そこ! こっちゃあ食事時のマナーについて躾けてる最中なんだからさあ、騒ぐんならもちっと静かに騒げよ。」



あ゛~~~そゆ事ね……色々納得したわ―――オレも。 エルフにしちゃあ、あの口の悪さに気付くべきだったわ……しかしこの募集条件要項、今まで恵まれた生活してこなかったオレにしてみりゃ破格なんだよなあ……。

しかも、声に出して宣言しちまったもんだから引っ込みつかなくなっちまったし―――まあ、なんとかなる……か?



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